第10話 激突
「探すといってもどうします?闇雲に探しても見つからないと思いますが」
六華は蓮に尋ねる。
「そうだな。さっきも言った通り中々狡猾な奴だと思っている。簡単に姿を見せてくれるとは思ってない。恐らく不意を突いてくる。なら、あえて奴の思惑に乗ってやれば良い。来ると分かっている奇襲なら怖くない。」
「なるほど」
「ただ、奴がまだこの辺りに居ればだがな。しばらく周辺を歩くぞ。」
しばらく歩き、駅前の広場のような場所にたどり着く。すると、前方にに2人の男女が倒れていた。
(彼の仲間か。しかしなんとも分かりやすい誘いだ。)
しかし、目立った外傷が見当たらない。憎魔の存在を事前に把握してなければ引っかかる者もいるだろう。蓮は六華を見ると、さすがに気づいたのか、先ほどのように駆け寄る事はしなかった。だが、今回はあえて誘いに乗る。
「六華、俺が先に近く。お前は少し後ろを付いて来い。それと、あの2人の下に到着したらすぐに眼を使え。ギリギリで俺に伝えろ。未来が見えた瞬間に言ったら気付かれる可能性がある。」
「分かりました。」
緊張した面持ちでそう答えた。
「では、行くぞ」
蓮はそれらしく、大丈夫か!と言って駆け寄る。2人の下にたどり着き身体に触れようとした。
「下です!!」
六華が叫ぶ、するとコンマ1秒遅れて地面のアスファルトを突き破り3匹の大蛇が飛び出す。そのままの勢いで蓮に噛み付こうとするが、事前に来る場所を教えられた蓮は余裕で避ける。失敗したと悟ったのか、大蛇はそのまま猛スピードで逃げていく。追おうとしたその時、大蛇の前方に口を大きく開いた大型のライオンのような憎魔がいた。
「あれが本体か?」
蓮がそう呟く。大蛇の憎魔ははそのまま口の中に入り込み、3匹とも全て飲み込まれた。すると尻尾部分から3匹の大蛇が生えてきたのだ。さらに全身に毒々しい斑ら模様が浮かび上がっていく。生理的嫌悪感を抱くような外見だ。六華は顔を顰めている。
「その蛇は体から切り離せるのか、便利だな。それにしても、本当に神話に出てくるキマイラに似ているな。」
だが、と言い放ち蓮はクロユリを起動する。
「お得意の奇襲は失敗だ。さぁ次はどうする?」
蓮に挑発された事と、奇襲が失敗した苛立ちからか、憎魔は唸りを上げ、大きく口を開き咆哮する。大地が揺れるかのような咆哮だ。並大抵の者であれば竦み上がっていただろう。蓮は余裕で身構え、六華も少しビクついたもののなんとか耐える。
「六華、俺がメインで攻撃する。お前はサポートしろ。特にあの3匹の蛇をよく見ておけ。」
六華は武器を構え臨戦態勢に移る。この時ふと後ろの倒れている男女が気になり、目線を一瞬向ける。この行為が後に波乱を生む。彼女は見えたのだ。かすかだが、女性の指が動いたのが。
「蓮さん!後ろの2人生きてるかもしれません!わずかですが指が動くのが見えました!」
「なに?1週間もの間生かしていたのか、あの憎魔は。いったい何の為に。」
憎魔の顔を見ると、楽しそうにニヤけていたのだ。どうやら人間を痛ぶるのが好きなようだ。
「なるほど、どうやら随分なゲス野郎らしいな。ここまで感情豊かな憎魔は初めてだ。」
ここで見捨てても寝覚めが悪い。
「くそ、仕方ない。六華、あの2人を戦いに巻き込まないように移動できるか?その間は俺が相手をする。」
「出来ます!すぐに移動させます!」
六華が2人に近づき、両手で担ぎ上げる。小柄な少女とはいえカルマである六華の身体能力は常人を遥かに凌駕する。大人2人を担ぎ上げることくらい造作も無い。
蓮は眼前の憎魔から眼を離さず牽制する。そして六華が少し離れたのを確認し、先制を仕掛ける。
まずは動きを封じるべく重力操作を憎魔にかける。しかしやはりLv2の中でもかなり強い個体のようだ。まだ余裕で耐えている。ならばと思い、さらに負荷を強める。周りの地面が陥没するほどの負荷だ。自動車程度なら一瞬でペシャンコになるだろう。
「これも耐えるのか。さすがに強いな。」
さらに、憎魔の全身から黒いオーラのようなものが立ち上がる。そして再度咆哮。その場の重力操作を消しとばした。
「憎魔細胞の活性化か。俺の能力を力づくで破るとはな。」
細胞の活性化は強力な憎魔やカルマが至れる領域、《覚醒者》と呼ばれる者だ。そうなると立ち向えるのは同じ覚醒者のみ。ただのカルマや憎魔とは次元が違う。
「こいつは、六華にも相手させるのはさすがにキツイか。」
憎魔は自分にかかっていた攻撃を振り払った後、蓮を凝視する。そしてその眼が怪しく光る。
ドンッ!という音とともに憎魔の姿が搔き消える。巨体とは思えないほどのスピードで蓮に近づきその腕を振り下ろす。
そんな大ぶりな攻撃に当たるわけないと、蓮も避ける。振り下ろした腕はそのまま地面に当たる。するとまるで爆弾でも弾けたかのうような轟音とともに土煙が舞う。蓮は距離を空けその周辺を見ると、小さなクレーターが出来ていた。
「凄まじいパワーとスピード。こいつはたしかに危険だ。その上毒も持っているときた。Lv2と思っていたが、Lv3にも匹敵する個体だ。」
Lv3はまさに災害級。蓮であっても舐めてかかれる相手ではない。
「俺も本気でいくか。」
蓮は刀を正眼に構え、同じく細胞の活性化を行なう。すると蓮からは白いオーラが立ち上がり始める。蓮も同じく覚醒者、その力を発揮する。
足に力を込め、駈け出す。まさに神速、先ほどの憎魔を超える速度で詰め寄り刀を振るう。憎魔をあまりの速度に動揺したが、なんとか反応し、それを爪で受け止める。
そこを起点に、凄まじい接近戦が繰り広げられる。憎魔は爪と尾の蛇を使った変則的な攻撃を仕掛け、蓮はそれを躱し受け止める。これら全て目に負えないほどのスピードで繰り広げられている。
だが、蓮がその均衡を崩していく。蛇の頭を切り飛ばし、潰していく。痛みに憎魔が声を上げる。
「こいつで、最後だ!」
3匹の尾の蛇を全て殺し尽くした。危機を察知したのか、憎魔は一旦距離を取る。
「さすがに再生能力までは持ってないか。」
蓮は構え直した。
「蓮さん!すみません遅くなりました。かなり衰弱していて、永く持たないと思い手当してました。」
「問題ない。だが今回の相手はお前には少し荷が重い。下がっていろ。」
六華は悔しそうな顔をしたが、先ほどの攻防を見て自分だと足手まといになると理解している。
「分かりました。」
六華は蓮から距離を空け、見守る。
そして、最後の攻防が始まる。
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