第24話
森の黒山羊たちは祭壇周辺で狂っている信徒たちを順々に口へ放りこんでいく。信徒は満足な抵抗もできず、その命を神に委ねた。
「化物一体ですら脅威なのに、こんなのどうすればいいんでしょう……」
「なーに弱音吐いてんだ。勝利条件は化け物を打ち倒すことじゃなくてお嬢ちゃんを助け出すことだぜ。今がチャンスだ。サメちゃんのことは頼んだぜ」
そう云うと、時任は祭壇に向かって駆け出した。お世辞にも早いとはいえないが、不思議にも森の黒山羊は時任に目もくれず信徒に夢中になっている。時任は祭壇に寝かせられていた七の巫女を担ぐと、地面の幾何学模様へ足を踏み入れた。その幾何学模様は小石を並べて形作られていて輪っかになっている。
「んじゃさっきの屋敷で会おうや。大丈夫だ。お前ならできる!」
ニカリと笑いながら、時任はナナノと一緒に幾何学模様を伝って地面へ沈んでいく。半身が沈み、顔が見えなくなり、立てた親指もやがて消えた。
「うそですよね!?」
キリはショックの抜け切っていない佐芽の手を引いて、すぐさま時任の後へ続こうとした。しかしすんでのところで踏みとどまる。キリの第六感が警鐘を鳴らしたのだ。
「私はいいですが、サメさんは……触手に狙われます」
幾何学模様に足を踏み入れるには、森の黒山羊に少なからず接近する必要がある。自分の勘を信じ、キリは佐芽を連れてもと来た道へ走り出した。
整備などされていないため、走るには環境が悪すぎる。木々の間を縫うように二人はかけていく。一切変わらない景色に方向感覚が狂いそうになるが、満月が目印となって導く。狐火が闇を暴き出す中、佐目はなされるがままヨタヨタと走っている。
「……っ、倒木ですか。迂回しましょう」
後方からバキバキと木々がなぎ倒される音がしはじめた。森の黒山羊はいよいよ信徒たちを喰らい尽くし、次の狙いを佐芽に定めたのだ。森の黒山羊にとって生い茂る木々は何の障害にもならない。おぞましい触手を伸ばして力任せに進路を確保するのだ。5mの巨体にとって、そのくらいは造作もないことだった。
決して追いつかれてはならない。僅かな停滞が命取りになる。文字通り手に汗握る逃走劇だ。キリは改めて佐芽の手を握りしめた。
キリは行手に人影があることに気がついた。人影は1つではない。2つ3つと確認できる影は増えていき、最終的には30を越えた。狐火が照らし出した人影には小さな角がついている。脚にはひづめが生えている。白い髭を蓄えた、全身緑色の子供大のゴブリンがそこにいた。
キリが即座に手のひらに炎を灯す。狐火を解放しようとしたところで、佐芽の目が見開かれキリの前に立ちはだかった。
「ど、どうしたんですか。危ないですからそこを退いてください!」
佐芽は制止を無視してつかつかとゴフン・フーパジ・シュブ=ニグラスに歩み寄ると、先頭の一体の手を取った。
「この子たち、指が7本あるよ」
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