第19話
警戒しつつ屋敷を進んでいくが、意外にも死体とはまだ遭遇していない。
「っかしいなあ。死体のひとつやふたつみかけてもいいはずなんだが。奴らいつの間に死体を処理したんだ?」
探索を進めていくと本が散らばっている部屋にたどり着いた。どうやら書斎らしい。床は本棚から投げ出された本で埋め尽くされていて、足の踏み場もない。教団に荒らされたのだろうか。
キリは適当な一冊を拾い上げ、折れを伸ばして憤った。
「こんなひどい扱いをするなんて本への侮辱ですよ。書斎をこんなにするなんて許せません」
「裏を返せば荒らす必要があったんだよ。この書斎には重要なものがあるはず。整理して調べてみよう」
私はしゃがみこんで手当たり次第に本を積み重ねる。作業スペースを確保することが先決だ。キリも私にならって本を片付けてくれている。全体的に本は古びていて、きちんと製本がされていない本も含まれている。
時任は興味なさそうにあくびをした。
「サメさんサメさん!こんなものがありました」
キリが掲げたのは和紙の紙束だ。表紙には『豊穣の儀式』と書かれている。怪しさマックス。読もう読もう!
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儀式概要
七本指の子、つまり多大な祝福を授かった赤子が産まれたらすぐさま保護を行い、責任をもってお預かりする。神の子が七歳になるとき、七とともに川から海へと流し、神へとお返しする。約束を違えぬ限り、土地は豊穣で満たされる。
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「これ、かな」
「これですね」
顔をしかめて遠目から見ても記述は変わらない。他にも神の子を海へ流す際の手順など時代遅れな事柄が事細かに示されている。
あの木箱にはナナノと一緒に何が入っていただろうか。
「七本の日本酒……七だ」
「でも紫陽花は七と関係ないですよ」
「一見関係ないけどきっと意味が込められてるんだ。床の間にも飾られていたんだから、関連がないほうが不自然だと思う」
私は本の山から花の図鑑を探し当てると紫陽花のページを開いた。
「あった。『紫陽花は土壌の性質の影響をうけて、咲いてから散るまでの間に色を変えることから“七変化”とも呼ばれる』だってさ。ナナノはこんな下らない儀式の生贄にされかけてたんだ」
「まさしく七とともに海へ向かって流される予定だったわけですね。内容から読み取ると、七本指が多大な祝福を受けた証として扱われているようです。では通常の祝福は……」
キリが私の手に目を向けた。そう、素直に解釈するなら、私に生えた六本目の指は祝福の証とやらだ。
「まるっきり偶然と片付けるのは無理があるよね。祝福を受けた理由はさっぱり分からないけど……」
「ほーん。やっぱお前も指増えてたのか。いよいよ指が生えてないのは俺とキツネちゃんぐらいじゃねえか」
時任の発言に私たちはばっと振り向いた。
「指が生えたのって私だけじゃなかったの!?それと鼻をほじるのは汚いから止めて」
「正確な物言いじゃなかったな。島民は元々六本だから関係ねえが、観光客連中の大半に六本目が生えてきてるんだ。サメちゃんと同じやつもいれば、おできレベルだったり関節がなかったり個人差はあるがな」
息で鼻くそを吹き飛ばすんじゃない。踏んだらどうしてくれる。
「でもそうするとキリとあんただけ祝福がないのは何故?二人に共通点なんてないよ。」
「ペットに指は増えていないんだ。俺の推測だがキツネちゃんはギリ動物のカテゴリーなんだろうな。現象は人間限定だ」
「なら時任さんはどうしてですか。心あたりは?」
時任があごに手を当てジョリジョリと無精髭をさすった。髭剃れよ。
「あー、多分風呂入ってねえからだな。あんな不気味な温泉浸かるわけねえだろ」
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