第17話

 時任は焼き芋とサツマイモソフトクリームとサツマイモチップスを抱えている。こいつの別腹でかすぎないか?


「毎度あり。さあて俺にどうしてほしいんだ」


「もちろんナナノちゃんが捕らえられているという森ですよ。急がないといけません」


 その通り。時は一刻を争うのだから。……ん?


「いや、私は教祖が出入りしていたっていう屋敷を先に調査したほうがいいと思う」


「どうしてですか。ナナノちゃんを助けなきゃ!」


「もちろんその気持ちは私も同じ。でも私の考えが正しければ、屋敷がナナノちゃんの家だよ。多分、屋敷の人がナナノちゃんをあの箱に入れて川に流したから、教祖が激怒して血みどろの惨劇が起こったんだよ。教祖が調べる価値はあると思う」


 キリはあごに手を当てて思案の表情を見せたのち、渋々私の提案に乗ってくれた。

 

「意見はまとまったみたいだな。んじゃ移動しながら話すか」



 情報料の元を取ってやろうとキリは矢継ぎ早に質問をぶつける。


「あなたが記者だというのなら、島についても色々情報取集しているはずですよね」


「俺もマスメディアの端くれだからな。情報を集めるのはもう癖になってるぜ」


「では白雲山の登山道に変にねじくれた枯木があることは知っているはずですよね。あの枯木の奇妙さについての情報はありませんか」


 時任は薄汚れたリュックサックから手帳を取り出してパラパラとめくった。


「おお、丁度昨日仕入れた情報があるぞ。題して海水浴客テレポート事件だ。海で渦潮に呑まれて溺れたっつー海水浴客が気がついたら問題の枯木周辺に投げ出されていたって話だ。一人や二人の話じゃない。何十人って人間が放り出されていたらしい」


「完全に超常現象じゃないですか。ホラーですよ!どうしてもっと早く云ってくれなかったんですか!」


 尾を振り乱して突っかかるキリに、時任は鬱陶しそうに耳へ小指を突っこんだ。


「うるせえなあ。お前らが聞いてこなかったからだろうが。目撃者の話では、枯木の虚からパチンコ玉が排出されるみたいにポンポン出てきたらしいぜ。馬鹿げた証言だが、同じ証言が複数あるからな。見間違いでは片付けられんだろうよ」


「やはり私の考察通りただの枯木ではなかったようですね。しかしなぜ海から山へテレポートをする羽目になったのでしょうか。テレポートしてきた海水浴客に共通点はありますか」


「島の人間はいなかったみたいだな。そもそも渦潮に巻き込まれた島民がいない可能性があるからな。共通点と断言できるかどうか怪しいところだが」


 ガサツな性格の割に仕事はきっちりとこなしているようだ。私の焼き芋分、きっちり情報を絞り取らなくては。



 ナナノの家と思われる屋敷は、島の西にある住宅街にあるようだ。住宅街といっても土地の半分くらいは畑として使われている印象がある。しかしここはあきらかに異常だった。人の気配が一切ない。どれだけ過疎っている土地だとしても、畑で農作業をしている人間がいないのは流石におかしい。

 

「……なぜか家の玄関が破壊されまくっていますね」


 いうな。気づかないフリをしてたのに!


「言い忘れてたが、ここら一帯の島民は絶賛行方不明だぜ」


 は!?聞いてないんだけど!?


「集団神隠しですか。なんだか懐かしい響きですね」


 このキツネ、自己申告によるとうん百歳らしいが、一体どんな人生を送ってきたんだ……

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