第13話

 セミがミンミンミンミンうるさいな。私は上半身だけ起こし軽く伸びをした。着崩れた浴衣を直して、半開きの目を擦りながら一つ欠伸をする。朝だ。

 壁にもたれかかりつつ洗面所へ一歩一歩進んでいく。蛇口をひねり、パシャパシャと顔を洗っているうちに頭が冴えてきた。タオルで水気を取って準備完了。


「さて。キリを起こすか」



 キリと対面して朝食を食べている。ナナノがさらわれたことは女将さんに話したが、虹敬泉、いや灰冠島はそれどころではないらしい。


「昨夜の爆音は火山の小規模な噴火が原因みたいだけど、ちょっとタイミングが良すぎると思わない?」


 私は白ごはんにたくあんを載せた。


「そうですね。最後に噴火したのは三千年ぐらい前みたいですよ。偶然と片づけるのは苦しいと思います。ナナノちゃんと怪しげな黒装束、何か関連がありますよ」


 ずずっとキリは味噌汁をすすった。


「幸い生活圏まで溶岩は来なかったらしいですが、再び噴火したらと考えると油断できませんね」


「うん。ナナノちゃんを助け出していつでも逃げられるようにしておかないと」


「結局渦潮のせいで船は運航していないのが不安ですけれど……」


 だよねえ。助け出したら島の外へ即トンズラなんて作戦は成立しない。できれば黒装束は警察に突き出したいところだ。仮に武力行使をするしかなくなったとしてもキリがいれば百人力。マジでキリにかかってるぞ。

そして即トンズラがはばかられる理由はもう一つある。この指だ。私の指が増えた原因が全く分かっていない。できることなら五本に戻したい。箸持ちにくいし。島の人たちよく使いこなせるな。焼き魚が全然ほぐれないぞ。うおーん。


「それに島の西側の人たちと連絡が取れないのが気になるよね。火山の噴火のせいなのかな」


 島の西側には住宅地と田畑が広がっているらしい。噴火で通信設備に不具合が生じただけならばいいのだが。


「ひょっとしたら黒装束にナナノちゃんと同じように攫われているのかもしれませんね」


 さすがにそこまでの芸当はできないと思いたいが、昨夜消えた彼らがただの誘拐犯でないことは確実だから夢物語とも云い切れない。そういえば、窓枠に青いペンキが塗られていた。部屋に入った時にそんな跡はなかったから、ペンキが手掛かりになるといいのだけれど。


「ナナノちゃんを救出するには、もっとこの島について知る必要があると思います。確か資料館がありましたよね。資料館に行けば島について調べられますよ」


「そうだね。私たちは灰冠島のことを知らなさすぎる」


 今日の方針を固めた私たちは、ごちそうさま、と手を合わせるのだった。

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