第2話
肌が灼けるような日差しが私たちを照りつける。
「日焼け止め、役に立ってるのかな……」
日焼け止めクリームが汗と一緒に流されているような気がする。少しベタつくものの、時折吹き付ける潮風が僅かな救いであった。
「まだ着いたばかりなのにもうへばってませんか?」
「この暑さじゃ私でなくてもこうなるっての。涼しい顔をしてるキリの方がおかしいんだよ」
「私だってもちろん暑いですよ。でもそうですね、普通の人より暑さには比較的強いんです。ほら、暑い地域のキツネって耳が大きいと聞くでしょう」
彼女はキツネ特有の、自慢の巨大な耳をピョコピョコと動かした。なるほど。その大きな耳から熱を逃しているのか。キツネ耳は癒しを得るためだけにあると思っていたが、まさかそんな副次効果があったとは。
「さあ、まずはチェックインを済ませちゃいましょう!」
私たちが宿泊するのは
冷房のある空間にいるだけで生き返った気分になる。和室に通され、荷物を置いて一息ついた。座布団に座ってあぐらをかく。
「女将さん、指が6本だったね」
「ですね〜。噂通りです」
灰冠島出身の人間は、遺伝によるものか環境よるものかは不明だが、指が6本ある。それは伝聞ではあるが知っていた。見た目の通り多指症、と云うそうだ。6本目の指が正常に機能しないこともままあるとか。産まれたときにさっさと余分な指を切ってしまうのが一般的な対処法だそうだが、この島の人間はそうはしない。そもそも指が6本あるのが当たり前で病気という認識が薄いというのも一つの要因ではあるが、
「健康な指をわざわざ切断する必要もありませんしね」
彼らの6本目の指に異常があったことはない。むしろ6本目の指があった方が便利だとも云われている。実際、6本指のスポーツ選手もちらほらいるとか。指が6本搭載されているロボットもあるらしい。
ま、喋る動物や人外、それにキツネ耳がありふれた現代においては特筆すべき特徴でもないだろう。
「? 私の頭に何かついてますか?」
「いいや。今日も可愛いなって」
「ほわーっ」
彼女は照れを誤魔化すように窓を開けた。部屋は谷に面しているらしく、斜面に沿うように林が並んでいるのがわかる。
「ほら見てください。手付かずの自然ってやつです!」
「ちょっとやめてよ。熱気が入ってくるじゃない」
「そうでもないですよ。いい風です」
彼女のいう通りだった。窓から顔を出すと、真下に澄んだ渓流が見て取れた。川が打ち水と同等の役割を果たしてくれているのだろう。なかなかいい部屋に行き当たったようだ。冷房も必要ないかもしれない。
「あれ、なんですかね?」
キリが川の岸を指さした。たしかに直方体の何かが岸に乗り上げているようだ。私はスマホのカメラ機能を利用して拡大してみる。それは木箱だった。学校のロッカーを1メートルほどに縮めたぐらいの大きさと表現すればわかりやすいだろうか。きっと川の上流から流れてきたのだろう。上流の方には山がそびえ立っている。
「気になりますね。川に降りてみましょう」
「もう外出るの? しばらくだらけさせてよ。せめてお饅頭食べてからでも」
私はちゃぶ台の上に置かれたお菓子類を手に取り包装を開けていく。彼女はため息をついた。
「太りますよ?」
「太るくらいおいしいものを食べないと旅行を満喫したとは云えないよ」
「仕方ないですねえ。じゃあお茶も入れましょうか」
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