第6話 餓鬼界

 真っ暗な空間から飛び出た貴史とサチ。 

 空が赤く、そしてマグマのような真っ赤な池が幾つもある。

 まさに人間が想像する地獄のようでもある。 

 サチは申し訳なさそうな顔で貴史を見つめている。

「なに?どうした?」

「すまない……、一気に地獄界まで降りようと思ったのだが、力に引っ張られ、餓鬼界に来てしまった。」

「餓鬼って、あの飢えてガリガリでお腹の出たあれ?」

「そうだ。そして最下層の地獄界に行くには、餓鬼界の大穴に行かきゃならない。その大穴こそが、地獄界へと通じている。」

「じゃーその大穴目指せば良いんだよね?」

 サチが何か言いたそうな言いにくそうな顔をしているのに気づいた貴史はサチに聞いてみた。

「何か、隠してる……よね?」

 サチは申し訳なさそうな顔で貴史を見て答える。

「実はな、その地獄界への大穴には番人のような者がおるのだ。この前人間界に来た大きな黄鬼、あれは、大畜生と言うのだが、今度は巨大な赤い餓鬼、通称、餓鬼大将がいるのだ。」

「ガキ大将?」

「違う‼︎餓鬼大将だ‼︎ 大畜生よりも 強いぞ」

「けど、そこを通らないと地獄には行けないんだよな? で、俺の想像だけど、俺が血を飲まなきゃいけない黒鬼は、その餓鬼大将より強いって言うんじゃないの?あくまでも予想だけど」

 サチは明後日のほうを見て何も答えてはくれなかった。

 グゴゴ。なにかの呻き声。

「剣を抜け貴史‼︎ 餓鬼どものお出ましだ」

周りを見渡すと、いつの間にやら、餓鬼達に囲まれている。体色は黒く、額の右側にツノがありガリガリでお腹が出ている。

「黒い?黒鬼?」

「違う‼︎ 餓鬼だ。こいつらは常に飢えている。肉を喰らわれるぞ」

 貴史は怯えた表情になり少し後退りをしたが、やるしかないと心を定め、餓鬼共に斬りかかった。

 目の前の餓鬼達をバッサバッサと斬り倒して行く貴史。 

 銃で餓鬼達の脳天を撃ち抜いていくサチ。

 不思議と2人の息はピッタリと合っていた。

「急ぐぞ貴史‼︎ 地獄界への穴はもうすぐそこだ」

 貴史とサチが穴に辿り着くと同時に、背後からドスーンという激しい音がした。

 まるで巨人でも空から降ってきたような強烈な音だった。

 貴史とサチは、ほぼ同時に振り向くと、そこには巨大な餓鬼が立ち誇っていた。 

「喰わせろ…肉を、内臓を、骨を……」

 理性なんてない。ただ食べ物を欲しているだけのようだ。

 あまりの食への欲求というのか、威圧感のようなものに、戦わなければ自分たちはエサにされるだろうと思えるほどだった。

 構える貴史とサチ。 サチは背後に周り、拳銃を発砲。バァンバァンと音を上げ、餓鬼大将の背中に命中するが、餓鬼大将はまるで背中が痒いかのようにボリボリと背中をかき始めた。 貴史は右後ろに回りこみ、高く高く飛び跳ね、後方から肩を斬りつけた。 ガキンと金属音のような音が鳴り響き、まったく効いていないようだ。

 次は餓鬼大将が唾をサチに向け吐きつけた。

「ひゃっ」

 なんとも言えない気持ち悪い液体である。

 さらにその液体はカリカリと音を立て、個体へと変化し始め、サチの体は動かなくなっていくのだった。

「うおー」

 貴史は唾の塊を刀で切り、サチを解放した。 

 そして、サチか餓鬼大将目掛け拳銃を撃ち、餓鬼大将のヘソに命中した。

「ガガガガガガ」

 餓鬼大将が苦しんでいるようだ。

「貴史。ここは私に任せてお前は地獄界に先に行け‼︎ 私も後から追いつく。」

 そう言うとサチはなぜか人差し指を立て、何かを念じている。 

 ボッと音と共に、蒼い小さな炎が現れた。 

 そして指を貴史のほうに向けると、炎は貴史のほうにゆるりと近づいてきたのだった。

「その炎が黒鬼王のところまで案内してくれる」

「けどサチは?」

「こいつを片付けたら行くと言ってるだろ‼︎ 餓鬼界に来てしまったのは私のミス……だから私1人でカタをつけさせろ」

「でも‼︎」

「いいから行け」

 貴史はなぜだか直感で行くべきだと感じた。

「分かった。必ず後から来てくれよな」

 そして貴史は地獄界への穴へと飛び込んだ。


 

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