第4話 別れ

 仮面の女は貴史に話し始める。

「お前の聞きたい答えを私が全て持っているかは、分からない。だが一つ残念な事がある。お前はもう人間ではないし、人間にも戻れない。さらに言うなら半月後には死ぬだろう。」

 貴史はまったく頭の整理が出来ない状態だ。

「どういう事だよそれ?」

「言葉の通り、今のお前は修羅でもない人間でもない状態、半修羅だ。その寿命はもって半月」

「いったいなんなんだよ?変な鬼みたいのとか、俺が裕之に噛み付いたりとか、何がどうなってんだよ。そもそも海に現れたあの女はいったい何だったんだよ?」

「とりあえず日は暮れたし、鬼が出てくる事もないだろうし、説明してやろう」

「日が暮れたら鬼は出ないのか?なら、そうしてくれ」

 貴史は混乱した感情を抑えながら、その場に腰を下ろした。

 仮面の女は手鏡を貴史に渡しに来た。

 貴史は意味が分からない。

「その鏡で自分の顔を見てみろ」

 貴史は恐る恐る鏡で自分の顔を見てみると、なんと唇から出ていた黒い模様が青くなっている。

 それどころか、髪の毛の一部分も片目が青くなっている。

「これっていったい?」

「本来、修羅に血を吸われれば青鬼となる。でもキミはならなかった。むしろ修羅になりかけているのだ。 けど、半修羅状態では人間の身体が保たない」

「だから一週間?」

「そういう事。だけど手はある。人間には戻れないけど、私たちと同じ修羅になる事は出来る。そうすれば生きる事が出来る。」

「俺に人でもなく生きてどうしろと?」

「いい?ここからよく聞いて。今から君には六道の最下層に行ってもらい、黒鬼を倒し、血を飲んでもらう。そうすればキミは、本物の修羅となれる。そして、君を修羅にした張本人であるリノを捕まえに修羅界に来てもらう。」

「今更リノってのを捕まえたって、俺が元に戻れる訳じゃないんだろ?それに鬼の血を飲むって…… それになぜ俺は鬼にならなかったんだよ?」

「リノにどういう意図があって、君を修羅にしたのかは分からない。ただ、本来、鬼にするには血を吸うのだが、修羅になるということは、逆に血を入れられたのだろな。」

「で、六道の最下層って言ってたけど、そもそも六道って何さ?」

 仮面の女はどうしたら説明したはいいのかと悩むように、仮面越しに額に手を当てている。

「この世界にはキミの知らない世界が無数にあるって事さ。 さぁ明朝には出発する。 それまでに家族とのお別れを済ませてきなさい。もう一緒には暮らせないし、二度と会う事もないのだから」

 貴史の中であやふやではあるが、決意のようなものが生まれ、うなずいた。

「リノに噛みつかれた海、そこで待ってるから」

仮面の女にそう言われ、貴史はバイクに乗り、自宅へと向かった。 

 自宅に着く数十メートルほど手前で停車する。

 顔に青い模様が入り、目が青い息子を見て、親がなんて思うのか考えると貴史は自宅には帰れなかった。

 もう一度、仮面の女のところに引き返そうと、バイクの向きを変えた時、背後より貴史と呼ぶ声が聞こえた。

 母の声だ。

 けど顔は見せれない。

 フルフェイスのヘルメットを脱ぐ事も、スモークの入ったシールドを上げる事も出来ない。

「母さん、何も聞かないで。それから、ありがとう……」

 母は母なりに何かを感じたのか、コクッとうなずいた。

「貴史、待ってるからね。いつでもここはあんたの家だから」

 貴史の目から涙が溢れ出た。

 感謝や罪悪感、もったもっとたくさんの感情があっただろう。

 貴史はそれ異常は何も言わず、バイクを走らせ、仮面の女の所に向かった。

「うあーーー」

貴史は叫んだ。ただひたすらに叫んだ。ヘルメットの中は涙でグツグツだ。



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