第3話 鬼

 あてもなくバイクを走らせる貴史。 

「くそったれー」

 まったくどうしていいのか分からない。

 貴史はただ叫んだ。

 パリパリッ、何か奇妙な音が聞こえたと思うと、前方50メートルくらい先か、空間にヒビが入ってパラパラと剥がれ落ちてきている。

 そこから人の手?

 違う、人肌よりも黄色く、爪は長く、人間の手とは思えない手が、5〜6本、その空間の中から出てきている。 

 道路はセンターラインもない細い道。 

 貴史は急ブレーキで停止した。

 その空間の穴から、見た事もない形相をした人、いや、鬼? 

 額の左側からツノのようなものが生えている。 

 貴史は恐怖のあまり、その場に腰を抜かし、バイクごと倒れ込んだ。 

 1.2.3.4.5匹?黄色い肌にツノの生えた鬼のような生き物が、貴史のほうにノッソノッソと歩いてくる。

 腰を抜かしている貴史は動く事が出来ず、ただその場で震えていた。 

 ヒュン、風を切る音。

 グサ。

 何かが飛んできて、貴史の背後に突き刺さるような音が聞こえた。 

 貴史は恐る恐る振り返った。 

 刀……青白く鈍く輝き、霊気のようなものが刃の部分から出ている。

 そしてどこからか声が聞こえた

「抜け‼︎そして戦え‼︎」 

 貴史は声のする方に目を向けた。

 後方100メートルくらいの道の真ん中に、仮面を被った人が立っている。

 そして片手に拳銃を持ち、貴史のほうに狙いを定めているようだ。 

 貴史は前を振り返った瞬間、黄色い鬼の平手打ちをくらい。

 吹き飛ばされた。 

 銃を持った女は、こちらへと歩きながら、パァーンパァーンと拳銃を発砲させ、次々と黄色い鬼の額を撃ち抜いていく。

「もう一匹、出てくるぞ」

 空間がさらに割れ、さっきまでとは比べ物にならないくらいの大きさ、5メートルはあるだろう黄色い鬼が空間を砕きながら出てきた。 

 仮面の女が貴史を凝視している。

「何?というか何がどうなってんの?ドッキリ?映画の撮影?」

「お前は何を見てきた?お前が噛み付いた男は親友じゃなかったのか?その男は、流美という女に噛み付いたぞ。」

「流美が……?じゃー流美は?」

 貴史は仮面の女の両肩を強く握り、問い詰めようとした。

「殺したよ……お前が殺したも同じだ」

「なんで?なんで……?」

 大きな黄鬼が、その巨大な手で、貴史と仮面の女を掴みにきた。 

 仮面の女は刀を手に取り口にくわえ、左腕で貴史の襟元を掴み、後方にジャンプし、その巨大から逃れると同時に、右手に持っている拳銃で、黄鬼の額に弾丸を打ち込んだ。 

 しかし黄鬼の皮膚が硬く、弾丸は額の皮こ部分で止まっている。

「ギャーーーーー」

 黄鬼は大きな声をあげている。

「貴史、この刀で、額の弾丸をねじ込むんだ」

「俺、普通の人間だぞ。そんな事出来る訳ないだろ」

「人の話を聞いていなかったのか?自分が何をしたのか?そしてお前はもう、人間ではない」

 貴史の体はガタガタと震え、目から涙が溢れ出ている。 

「貸せ」

 貴史は刀を握り、黄鬼の顔目掛けてジャンプした。 

 自分でも驚いた。 

 5メートルもある鬼の頭部まで、あっという間に到達している。 

「うあーーーーーーーーー」

貴史は刀の切っ先を黄鬼の額の弾丸に力一杯、押しきった。 

 弾丸と共に、刀が黄鬼の額を貫通した。 

 ドスーンという大きな音と共に、黄鬼はその場に倒れた。

「まだよ‼︎その刀で、割れた空間を切って‼︎」

 何がなんだか分からないが、貴史は仮面の女の言う通り、割れた空間を刀でぶった斬った。 

 パリパリパリっと音をたて、割れた空間が閉じていく。 

 そして鬼のほうを見てみると、無数の泡のようにシャボン玉のように空は向かってフワフワと舞い上がり、弾けて消えていった。 

 ちょうど日が沈み、日没を迎えた。仮面の女が肩の力を抜いている感じが分かる。

「とりあえず、やれやれか」



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