第24話消えた

早くに生まれてきた蝉が鳴き始める時期。

6月ももうすぐ終わりに近づいた頃。


望月様の茶会から、一週間。


あの日以来、私は藤二郎様や千紗さんたちと必要以上の会話をしてません…いえ、できてません。

手紙はまだ、様々なところにあります。

中身は読んでません。気味が悪いですし。

…でも、流石に…これは読まなければダメですね。


「…」


雨の降っていない清々しい朝。

私のベッドの隣の棚に置いてあるのは、いつもより厚みのある封筒。

たしか、昨日寝た時には無かったはずです。

私の部屋に入る前には、千紗さんとの共同スペースがありますから…これは、流石に、ね。


「…よし」


ピリッ、と封を開ける。

中身を取り出して、開く


「…っ!?」


と、瞬間にぐしゃりと握りしめる。


なにあれ、こわい、気持ち悪い、なに、何なの

そんな言葉が、頭の中をぐるぐると回る。


中に入っていたのは、10枚ほどの便箋。

1枚目は、『綺麗』と『好き』で埋め尽くされていた。

それだけで、読む気はしないけれど…


「…読ま、なきゃ…」




1枚目。

『綺麗、好き、綺麗、好き、綺麗、好き』が延々と続いていた。


2枚目。

『でも、染まってるのは嫌い。君は綺麗なままでいなきゃ。すぐに助けてあげるね』とだけ書かれていた。あとは白紙。


3枚目、4枚目、5枚目、6枚目。

全部に私の絵が描かれていました。

悔しいですけど、すごく上手いです。


7枚目、8枚目。

気持ち悪い。私の写真のスクラップ。

写真なんて、学校行事以外で撮ったことがないので、たぶん、盗撮。


9枚目。

『ずっと来てくれない。見てくれない。気づいてくれない。ずっと側にいるのに。ずっとアイツだけ。何で何で何で何で』ということが書いてありました。

いや、何でと言われましても…


10枚目。


『見てくれた?それなら』



「今日、迎えに行くね…ですか」


迎えに来てくれなくて良いですよ。

と、思いつつも言葉にはできない。

全部を疑ってしまう。自意識過剰になってる。


「………今日は、委員会、でしたね」


朝ごはん、おにぎりか何かにしてもらって行き途中に食べましょう。




___♧♤♢___



「…あれ?刹那は?」

「今日は委員会の仕事があるとかで、早くに出ましたよ」


都華咲の問いに、小鳥遊筆頭が答える。

…そんなこと、言ってたかしら?


「ふーん…そうですか」


興味無さそうな、けれども少し心配しているような顔をする都華咲。

私も、似たような顔をしているのかしら。


「さ、都華咲たちもご飯を食べなさい。遅刻しますよ」

「はーい」

「わかりました」

「筆頭、手伝いますよ」


都華咲が席に着き、私も席に着く。ずっと黙ってた優弥さんは、小鳥遊筆頭の手伝いを申し出た。


「委員会、ね」

「「…」」


後には、私と都華咲、藤二郎様が残された。

少し、暗めの空気だ。


「(この前は…ちょっと、問い詰め過ぎちゃったかしらね)」


帰ってきたら、一緒にお風呂に入って、少しお菓子をもらって話をしましょう。

都華咲も問い詰めてしまった。藤二郎様は、少し突き放してしまった。優弥さんは、見ているに留めている。

ならば、私が。


「(私が、ただ会話をする。それだけ)」


そうすれば、少しは話しやすくなるはず。


…お菓子は、マカロンにしようかしら。




その時はまだ、そう思っていた。




そんないつもの日常が崩れるのは、夕方。



「おい!千紗、都華咲!」

「優弥さん?」

「どうしたんすか、優弥さん」

「刹那が」





















「いなくなった」







どんどん崩れていく日常。


優しい春色は、どこへ行ったのかしらね。




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