第23話勧誘

「あ、早乙女くん、このクッキーも美味しいよ」

「そうか?俺はこっちも好きだが…」

「いいから食え☆」

「ぐふっ」


早乙女付き4人(と、藤二郎様〜……)

望月付き4人(ひ、飛華流様…それは…)


茶会は順調に進み、今は静かに(?)お茶をしている、藤二郎と飛華流の2人。

公式の場では許されないことも、個人の場であることから許されてしまいそう…な雰囲気の茶会である。


茶菓子が減れば、使用人がせっせと交換し、飽きないように少し種類や味を変えつつ出している。

一通り菓子を食べ終え、雑談へと進む2人。


すると突然。


「いやぁ…ほんと、綺麗だよね。早乙女くんとこのメイドさん」


と、飛華流が言った。


「…………それは、どちらのことを?」

「桜色ちゃんの方だよ〜」


藤二郎は目を細め、少し威嚇するように聞き、飛華流はのんびりと「桜色ちゃん」と言い、刹那の方を見る。


「っ…」


目を見開く刹那。

さりげなく、千紗が一歩前に出る。


「あはは。本当に綺麗だよね。髪も、瞳も、肌も、小柄な体躯、短めの髪、全部。人形みたい」


頬杖をつき、目を細めて刹那を見る、飛華流。

その瞳はキラキラと輝いており、まるで欲しいおもちゃを前にした子供のようだった。


そして、言う。


「ねぇ、遠藤刹那さん」

「…」

「よければ、」







「僕のメイドになってくれないかなぁ?」








ニコニコとしながら、彼らの亀裂にナイフを刺した。




___☂☂☂___



「ねぇほら、僕のメイドになってよ」

「い、いえ。私は藤二郎様のメイドですので」

「何で?僕の方が待遇良くするよ?」

「待遇は今もとてもいいです。やめる要素がありませんっ」


帰り際。刹那の両手を掴み、何度も何度もしつこく「僕のメイドになって」と言う飛華流。


「何で?どうしね早乙女にこだわるの?僕の家より地位が上だから?」

「そんなものではありません!私は、早乙女家に仕えたいから、早乙女家のメイドとしているのです!」

「じゃあ、早乙女くんに聞いてみようよ!」

「え?」


今の今まで、少し不機嫌そうに刹那を勧誘していたが、何を思ったのか機嫌良さそうにそう言う飛華流。

刹那は驚く。


「早乙女くーん!遠藤刹那さんは、どーしても早乙女家に仕えたいんだってー!早乙女くんはどう思う?僕のとこに来てもいいと思う?まぁ、君のところ、優秀な人たちばっかりだしね!こんな小娘1人抜けてもどうでもいいよね?」

「っ………」


刹那にとって、残酷すぎる言葉の数々が音として広がる。

唇を噛み締め、俯く刹那。

藤二郎が出した答えは










「…………好きにしろ」










飛華流の言葉よりも、残酷であり、刹那の心をズブリと刺した。



___☁︎☂☁︎___



『好きにしろ』。


好きにって、どうしろと?

私は、あなた様の元にいてはいけないのですか?

私は、あなた様の家族を突き放したから、もう側にいてはダメなのですか?


どうしよう、どうしよう、どうしよう、どうしよう。


頭がこんがらがる。ぐちゃぐちゃだ。

望月様のお屋敷から、どう帰ったのかさへも覚えてない。

私、どうやって動いてた?私、どうしてた?

私、働ける?大丈夫?まだ、お役に立てる?


「…わかんないよ、もう…」



___♤☂♤___



おいで、おいで、と悪魔は誘う。

綺麗な「物」が好きな彼は笑う。


『シンデレラのお城みたい』

綺麗な白と青だった。汚れ一つない、完璧な「外」。


『最近改修工事を終えたばかり』

綺麗なガラス戸だった。模様も素晴らしかった。


全て彼のようだった。

外にいる彼は、優しくて、穏やかで、さりげない人気者。

綺麗なものが好きと言った彼女のために、家の外装を綺麗に直し、温室の扉を改修し、ガラス戸に直した。


恐ろしいほどに、彼は真っ直ぐだった。

自分の欲望に真っ直ぐな、彼。



ほら、あの綺麗な桜の花が落ちてくるまで、あとーーー。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る