第22話望月邸

「…何というか、洋風の…シンデレラのお城みたいですね…」


刹那が遠い目をしてそう呟く。

それに対し、都華咲が苦笑する。


「まぁ確かに。俺も最初来た時そう思ったよ」

「青い屋根に真っ白な壁って、維持費にどれ程賭けているのでしょうか」

「刹那ってほんと、現実的なとこ突いてくるよね…」


微妙な顔で、半笑いしながらそう言う都華咲。


「…ねぇ、刹那」

「何ですか?」

「……何が、不安なの」

「?」


突然の都華咲の問いに、わからない、と言った顔をする刹那。


「何が、信じきれないの。何が、そんなに不安なの。言いたいことがあるなら、はっきり言えって。大丈夫だから」

「…ぁ…」


真剣な表情で、眼差しでそう言ってくる都華咲。

刹那は口から小さな音を漏らし、瞳を揺らがせ、


「…何でもありませんって言ってるじゃないですか。千紗さんといい、都華咲さんといい、心配性ですねぇ。私、そんなに疲れて見えますか?」


瞬きをし、にっこりと微笑んだ。


「っ…そうかよ。なら、いい」

「…」


都華咲は怒ったような、悔しそうな苦しそうな、そんな風な顔をし、藤二郎たちの方へ行ってしまう。


「…私の、バカなプライドのせい、ですね」


刹那は、恐ろしいほど完璧に綺麗な洋館を見つめそう言った。



どこか不安を誘う風が吹く。


___♧♤♧___



「よーこそ!早乙女くん!」

「お招きいただき感謝する。望月」

「いいよいいよ。今日は緩く行こうよ!」

「あぁ」


ハイテンションで藤二郎たちを出迎えた飛華流。


「今日は使用人さんが全員揃ってるからね!とっても楽しみにしてたんだ!」

「そうか」


ニコニコと、スキップをしそうな足取りで、茶会が開かれる望月家の温室へと案内する。

藤二郎と飛華流が並んで前を歩き、その後ろを使用人たちがしずしずと歩く。

広い廊下のため、10人ほどが歩いてもまだスペースがある。


「今日は僕のお気に入りのお菓子も用意してるんだ。よかったら食べておくれ!とても美味しいよ!」

「それは楽しみだ」


何が嬉しく、何がそんなに楽しいのか。

飛華流はずっと興奮状態である。


「はい。到着!」


飛華流が止まったのは、大きなガラスの二枚扉の前。

厚めのガラスに彫刻で模様が彫られており、それが光に反射して、廊下にも微かに影で模様を描いている。


刹那はそれをみて、ほぅ、と息を吐き目を輝かせる。

自身が綺麗な小物を集めることが趣味なので、こういったものには目が無いのだ。


「最近改修工事をしてね?それでこんなに綺麗になったんだよ」

「ガラスだと、それなりの値段になるだろう」

「でも僕、ほら、綺麗なものが好きだからさ」


ほわっと笑う飛華流。

その笑みは、幸せそうであった。


「さ、お茶が冷めないうちに始めよっか」

「あぁ」


藤二郎が頷き、飛華流が扉をゆっくりと開ける。


「僕の温室へようこそ」


静かに、そう言った。

逆光が飛華流を影に染める。

その姿は、瞳だけが輝いているように見えて、少し、不気味であった。



奥のテーブルには、湯気を揺らすティーポット、今はまだ伏せてあるティーカップ。

中央の皿にはマカロンとクッキー。その隣の皿には果物も置かれていた。



さぁ、運命の茶会の始まりだ。

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