第21話すれ違い

「………………」


梅雨特有のぼんやりとした雲の中。

夕暮れの太陽だけが清々しいほどに輝いている。


「…ぁーぁ…かえりたくないなぁ…」


そう、小さく呟いて、自嘲するように笑う。

電車の中だから、きっと誰も気にしてないはずです。


手紙が怖い。皆さんの目が怖い。

信じきれない私が嫌い。


「……は、ぁ」


ダメだなぁ、珍しく気弱になってしまっている。らしくないらしくない。

…あぁ、屋敷に戻ったらいつも通り。だから、人気のない、今だけは…







「あ〜……キレイ、本当にキレイですねぇ…」


___☂☂☂___



「ただ今帰りました」

「おかえりなさい、刹那」

「あ、千紗さん。ただいまです。今日は私よりも早かったんですね」


勝手口から入ると、千紗さんが既に使用人の服を着てそこにいました。


「えぇ。少し用事があって早退はやびきしたのよ」

「そうなんですか」


少し微笑みながら会話をする。別に違和感は無いと思いますが…


「今日は特に忙しく無いから、五分ほど休憩してからいらっしゃい」

「わかりました」


うん。特に何も無しですね。


「…刹那」

「?はい」


靴を履き替えてぽてぽてと歩いていると、千紗さんが声をかけてきた。

何か用でもあったんでしょうか?


「あなた、何を隠してるの?」

「…」

「何を抱え込んでいるの?ねぇ、私たちじゃ信用できない?相談すらもしてくれないの?」

「っ…」

「大丈夫だから、言ってちょうだい。あなたが不安な顔をしていると、私や、藤二郎様まで「藤二郎様まで何だっていうんですか」…刹那?」


プツンと、何かが切れた。


「………大丈夫です。千紗さんたちには、藤二郎様にも絶対、迷惑はかけないので。心配せずに、千紗さんたちはいつも通りでいてください。では」


にこりと笑って、後ろを向き部屋に向かう。

千紗さんは驚いているのか、動いてくる気配は無さそうです。



あぁ、せっかく手を差し伸べてくれたのに。

私は、なんてバカなんでしょうか。


ーーー

ーー


ばふっ


「はぁ……っ〜〜!!」


ベッドに飛び込んで、枕に顔を埋めて、足をバタバタする。


やってしまった、やってしまった、やってしまった。


嫌われてしまったかな?

もういらないって言われてしまうかな?



どうなるんだろう


「……ねむい…」



あぁ…すごく、ねむい…な…


このまま、覚めなければいいのに。



ーー

ーーー


「静かにして!起きてしまうでしょう?」

『静かになさい!起きちゃうじゃないの』


あ、れ…


「いやぁ、あまりにも可愛かったもんで」

『いやぁ、すごく可愛かったから、つい』


だれ、かな


「あ、しまっ、起きた!」

「だから静かにしろと!」

「お、か…さん?」

「「!……」」


あ、ねちゃう…だれ、だれか、


「こ、わ…い」


たすけて




「「…………………………」」


___☁︎☂☁︎___



「お茶会、ですか?」

「そうよ。望月様個人でのものだから、学校関係無く参加するように、と」

「…初めてですね」

「そうね」


土曜の朝。シャワーを浴びて着替えて部屋を出ると、千紗さんが待ち構えていて、手紙を渡してきた。

何の手紙か聞いてみれば、お茶会の誘い、と返ってきた。


初めてです。藤二郎様付きのメイドとして、他家のお屋敷に行くのは…。


「明日の午後2時半からだから。お昼を食べたら身支度、させてね」

「ぅ…はい…よろしくお願いします」


有無を言わさない笑顔と、疑問形ではない言葉に、頷くしかなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る