第20話手紙

『この手紙が置いてあったのは…刹那さんのベッドの上なの』

『………え?』

『何もいじられたりはしてなかったけど…旦那様に相談して、お部屋、移してもらいましょうか?』





「大丈夫です…って、言ってしまいましたね」


1人、月明かりだけの自室でベッドに寝転び、手紙を胸元に抱き苦笑する刹那。

手紙は、ずっと握っていたせいか少しよれている。


「…」


手紙を持ち上げ、見上げる。

何度見ても変わらない。白い封筒に、自身の名前。怖いくらいに綺麗に書かれている。


心配そうにしていたメイド長を思い出し、大丈夫と言い張った自分も思い出す。

大丈夫。その一言で、助けを断ち切ってしまった。もう、後には戻れない。




手紙からは、密かに匂いがした。



___*♧*___



「…なんで…」


朝。使用人の服から制服のブレザーに着替え、いつもの勝手口から出ようとした時。

刹那のローファーの中に、紫色の小さな花が挿されたメッセージカードを見つけた。

昨日の手紙の中身はまだ見ていない。が、同じ差出人ということは直感的に分かった。


刹那に起こっていることも問題だが、刹那が一番気にしているのは


「(この屋敷に…外部の者を入れてしまっている?………もし、もしも皆さんに何かあったら…っ)」


そう。警備が厳重なこの屋敷に、外部の者を入れてしまっていることだった。

まだ中に入っていると決まったわけではないが、監視カメラや警報にも反応しないということは、ほぼほぼ確定だろう。


「(この屋敷に、裏切った…裏切らせてしまった人がいる…)」


ずるりと肩にかけていた学生カバンが落ちる。

せっかくできた、仲間であり、先輩たちだった。まだ…まだ本当に決まったわけではない。けれど、外部から来ている者で夜まで残る者はいない。

かといって、最近この屋敷に越してきた者はいない。元から居た人だろう。


「(違う…違うはず…大丈夫、大丈夫…)」


心配する調理人に微笑み、立ちくらみだと告げ、ローファーを出す。

その際、カードは袖の中に器用に隠す。

薄手のカーディガンを着ていて良かったと思った瞬間であった。



___◆♧◆___



「………」


登校時間。賑わう下駄箱。

刹那は自分の上履きを見て、言葉を失う。


また、メッセージカード。

今度は染料で染めたのか、黒い花だ。


「遠藤さん!おっはよー」

「あ、清水くん。おはようございます」

「今日は曇りでなんかやだねー」

「そうですねぇ…曇りは私も嫌いだな」


やっぱり袖に隠して、知らん振りで上履きを履く。



こんな無愛想女に、ストーカーじみたことをするなんて、とんだ物好きだ。


刹那はそう思い、ひとまず手紙に関して考えるのをやめた。


ーーー

ーー


「…っ」


ここまで来ると、相手方が病気なんじゃないかと錯覚する。

今度こそ刹那は驚きの表情を浮かべ、眉を顰める。


「どうかした?」

「ううん。何でもありませんよ」

「そう?なら良いけど」

「…」


有希は刹那の席から離れた自席へと向かう。


今度は紫と黒。半々の色の花。

人工的に染めているのだろう。綺麗に半分になっている。

それにしても、小さな花だ。


「…相手方は、余程暇なんですね」


そう言って、またカードに関してのことを頭の隅に追いやり、授業に集中しようと意識を切り替えた。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る