第17話お祭り

「「…………」」


何も喋らず、前を歩く刹那と光太郎。

藤二郎たちは珍しげにその様子を見ており、海もクスクスと小さく笑いながら見ている。


刹那は藍色の生地に、水色と白のクラゲの模様の浴衣だ。帯ひもは赤。髪飾りは前髪にピンが一つ。そのピンもクラゲの飾りだ。


「刹那」

「何」

「お前、飴玉好きだったろ」

「…夕焼けの瓶」

「わかってるよ」


そう言うなり、光太郎は刹那の手を引っ張り、飴玉が売っている屋台へ行く。

刹那は不貞腐れながらも、連れて行かれるのが当然と言った様子で驚いてはいない。


藤二郎も、千紗も都華咲もそれに驚き、一瞬動きが止まる。

少しして、屋台から2人が戻って来る。

刹那は飴玉を買ってもらったことで機嫌が少し良くなったのか、先ほどよりはほんわかとした雰囲気になっている。


「せっちゃん、本当その飴玉好きだよね〜」

「美味しいんです、みかん味。食べる?」

「あ、いいの〜?じゃ、いただきますっ」

「千紗さんも、どうぞ」

「あら。ありがとう、刹那」


海が懐かしむような笑顔で話しかければ、飴玉をもらう。そして、刹那は千紗の方へ行き、微笑みながら飴玉を渡す。


「刹那、俺には無いんですか?」


都華咲がくれくれ、とアピールをしながらそう言う。

それに対し、刹那は


「都華咲さんには、昨日買った購買の【ドキッ!トリュフ味のソーダグミ】をあげます」

「…えっ、えっ!?」


顔色を青くする都華咲。

優弥はため息をつき、藤二郎と千紗は苦笑している。

都華咲がいけにえになることは、優弥は既に諦めているようだった。


「えー?何そのグミ」

「私の高校の購買に売ってたやつです」

「…その高校、大丈夫か?」


海と光太郎が微妙な顔をする。

まぁ、当たり前な反応だろう。


「失礼な。普通の高校ですよ。ただ…たまーに校長先生の頭にナニカいることがありますけど」

「「頭…」」


全く想像ができてないのか、ぽかんとした顔になる海と光太郎。

何度も言うが、これが当たり前な反応だろう。


「あ、刹那」


祭りの様子を見ていた藤二郎が、刹那に声をかける。


「どうされましたか?藤二郎様」

「射的、やってみたいんだ。何か取ってほしいものはあるかい?」

「、えっと、あの猫のぬいぐるみが欲しいです」


藤二郎の言葉に、一瞬詰まりつつも答える刹那。

棚に並んでいた、冷たい生地(正式名称は知らない)でできた青い猫のぬいぐるみを指差す。

わかった。藤二郎がそう言おうとした時。


「では藤二郎様。私はあのお菓子の入った小瓶を」

「では、俺はその隣にある小型ゲーム機を」

「それじゃあ俺は、その上に置いてある夢の国のチケットを」

「…っ!?」


上から順に、千紗、都華咲、優弥、藤二郎。

従者3人は藤二郎の横に並び、ニヤァっと意地の悪い笑みを浮かべる。

藤二郎はというと


「…あの射的、一回三発しか弾が入っていないようだが?」


と冷静(に見えるが実は結構焦っている)に答える。


「「「藤二郎様ならできますよね??」」」

「…っ…!!!あー、わかったよ取ればいいんだろう?取れば!」

「「「さっすが我らが藤二郎様!」」」


ヤケになった藤二郎を煽てる千紗たち。


「…」


すっかり置いてけぼりな刹那。

海たち2人は


「なーにやってんだか、早乙女も」

「そういえば成宮、早乙女様と同じクラスだったね」


少し呆れながら見ていた。



___♦︎♣︎♦︎___



ちなみに、早乙女一行、光太郎たちも楽しみまくった。

射的や、ヨーヨーすくいなどの店主を泣かせるほどには。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る