第13話特別
我らが主人、藤二郎様にとって、一番最後に俺たちの仲間になったあの子…刹那は特別だ。もちろん、俺らにとってもすごく大切だけども。
大切な妹分で、可愛い後輩。
大人に、汚い感情に、ドロドロとしたものに揉まれてきた俺らからしたら、とても綺麗な子で…いや、そうでなくとも、とても優しくて、可愛い子。
だから、藤二郎様含め、俺たちは皆、屋敷の人たちも皆、刹那をそういう、お家同士のドロドロとしたものには極力巻き込まない。
今回の、千紗さんの件もそう。
千紗さん本人だって、刹那を絶対に巻き込むなと口すっぱく言う。
そんなん、当たり前ですよって言うと、安心したような顔をするのだ。
千紗さんだけではなく、藤二郎様も、優弥さんも皆。
だから、今も、今までも、これからも、あの子は巻き込まない。
全部、俺たちだけで解決するのだ。
____☂♧☂____
私、刹那は、千紗さんたちの中で一番最後にこの屋敷にやってきました。
藤二郎様と過ごした時間は、三年半と、当たり前ですが短いです。
皆さんは十年以上、共にいる仲です。
千紗さんも、都華咲さんも、優弥さんも、藤二郎様も、みんながみんな互いを大切に思い、家族以上の家族の様です。
皆さんは優しいので、まだ短い時間しか過ごしていない私にも、本当の家族の様に接してくれます。
嬉しかった。楽しかった。
血の繋がりだけしかない、ハリボテの家族しかいなかった私に、本当の家族ができたように思えたから。
でも、それでも。
結局、私はまだ三年半という時間しか藤二郎様たちを知らず、皆さんは十年分も知っている。
仕方がないこと。当たり前のこと。
わかってる、わかってるんです。でも
羨ましい。
そして
どこか遠い。
そう思ってしまうのは、私がまだ完全にあの人たちを受け入れられていないからか。
あぁ、自分が嫌になってくる。
でも、そんな私を受け入れてくれる、包み込んでくれるあの人たちは。
笑顔を、幸せを教えてくれたあの人たちは。
私の、特別だ。
___☂☂☂___
ー私立朝倉学園・体育館ー
『ここに、赤城当主とその子息、赤城米数の悪行を証明する数々のものがある』
早乙女家嫡男早乙女藤二郎の言葉に、全校集会という理由で集められた生徒の驚きの声が、体育館に広がる。
しかし、それを無視して藤二郎は続ける。
『これほどの罪を犯しているにも関わらず、私の専属メイドである如月千紗に対し手紙を送りつけ、自分の専属になれと言い寄る始末。皆さん、どう思いますか?』
その言葉に、皆の視線は壇上の端にいる千紗に向く。側には小柄な知らない制服の生徒がおり、千紗を守るように立っている。
少しの沈黙の後、
「さ、早乙女藤二郎ぉぉぉぉぉ!!!」
藤二郎や千紗たちには聞きなれた声が体育館に響く。
声の主、件の赤城米数がその巨体(笑)を必死に動かし、ドスドスと走りながら壇上へ上ってくる。
「さ、早乙女藤二郎ぉ!お前、よよ、よくもぉぉ!!!」
「私の家族に手を出したのが運の尽きですね」
冷ややかに赤城米数を見下す藤二郎。
その絶対零度の空気を空元気で振り払い、赤城米数は千紗に近寄ろうとする。
と、その時。
「千紗さんに触れるな!」
可憐な声とともに赤城米数に投げつけられたのは
「ぎ、ぎやぁぁぁぁぁ!!!ゴキ〇リィィィィ!!!」
赤城米数は転び、ゴロゴロと床を転がる。そのうち、壇上から落ち「ぐえっ」というなんとも言えない声を上げて動かなくなる。
多分、体力切れだろう。
そして、赤城米数にゴキさんを投げつけた張本人はというと
「千紗さんに触れないでください、変態さん。」
とムスッとしながら両手を腰に当て、赤城米数を壇上から見ていた。
こうして、藤二郎たち早乙女家のチートじみた力により、千紗のストーカー野郎は世間的にも精神的(笑)にも潰されたとさ。
めでたしめでたし。
___☆♡☆___
「終わり方、こんなんで良いんですかねぇ」
「言うな都華咲。刹那は満足そうなんだから」
「優弥さん……そうスッね…千紗さんは千紗さんで幸せそうですし」
「おう…」
「はぁぁぁ!刹那が私のことを守ってくれました!可愛かった!」
「落ち着け、千紗」
「藤二郎様、見ましたか!?あの腰に手を当てた時の可愛さ!」
「わかったから」
事件は終われど、早乙女家は賑やかであった。
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