第12話如月千紗

如月千紗という人間は、とても優秀で一歩後ろから付いてくる、しかし時には意見をハッキリと言う。料理や裁縫も上手く、基本的に何でも器用にこなす人間だ。

容姿は色素の薄い髪色に白く細い手足と、儚げ系の美人だ。

学園中の憧れの的である、早乙女藤二郎の専属のメイドであることも、有名である。


何が言いたいかと言うと


【こんな優秀な人材、うちにも欲しい!】


となる人間が現れるのだ。

まぁ、大体は『あの早乙女の専属だから…』と諦めるのだが、ごく稀に、諦めない者がいる。


そして、そのごく稀な者というのが、今回の赤城米数のことだ。



____☂♤☂____


ー私立朝倉学園・中庭ー


昼時。多くの生徒で賑わうこの学園の中庭。

そこは今、異様な空気に包まれていた。


中庭のシンボルである大きな桜の木の下。

そこで、ブレザーのボタンが今にも千切れそうな男子生徒と、3人の男女の生徒、遅れて私服の男性がいた。

言わずもがな、赤城米数と藤二郎、都華咲、千紗、そして優弥である。

藤二郎と都華咲は無表情。千紗も目を伏せ、少し後ろで、後から来た優弥に庇われるようになっていた。


赤城米数はニタニタと笑っているが、優弥が千紗を庇うように、隠すように前に立つと、顔を真っ赤にし怒鳴り散らす。


「お、お前!そこのブサイク!お前みたいなクズの分際で、ち、千紗に触るなんて!み、身の程知らずめ!!」


いや、ブサイクでクズで身の程知らずなのはお前の方だよ、と藤二郎たち、延いてはその場にいた生徒たちは思う。

ちなみに、千紗はというと


「(優弥さんはブサイクじゃねぇよ何言ってんのこいつ頭おかしいの?あ、おかしかったわwというよりもクズの分際で私に触るな?私はお前のもんじゃねぇよ第一クズはテメェだよ身の程知らずもテメェのことだろうがよ藤二郎様の、というより早乙女家に遠く及ばない弱小一族がよぉ…粋がってんじゃねぇよこの豚以下め!!というより優弥さんがブサイクとか目ぇいかれてんのか?というよりも鏡見たことあんのか?あぁ??)」


と大変荒ぶっていた。

地味に、というか結構煽っていらっしゃる。

まぁ、心の内では荒ぶりつつも、それを言葉に出さず、態度にも表情にも出さないのは、相手が“一応”自分より地位が上の人間であるということを考慮しているからだろう。

さすがである。


感情をその場その場の思いでぶち撒け、当たり散らすのは簡単なことだ。

しかし、大抵の場合は感情に流されず、冷静に考えなければならない。

それが常にできるところが、メイドとしての能力以前に、人間として早乙女家や周りから認められている千紗の力だ。


まぁでも、千紗はぶっちゃけ、今物凄く目の前にいるクソを殴りたい。

そんな千紗の空気に気づいたのか、小さく気づかれない程度にため息をついてから、藤二郎は喋り出す。


「これはこれは、赤城殿。私のメイドに何か御用ですか?」


にこやかに、しかし笑顔は明らかに作り笑顔である。

しかし、それを気にせず


「そ、そうだ!千紗を寄越せ!しょ、初等部の頃から、な、何年もずっと言っている、だろう!ち、千紗、ほら、そんなクソ野郎のとこじゃ、な、なくて、ぼ、ぼくの方へおいで〜?」


と言う赤城。

千紗は


「(おいで〜じゃねぇよこのクソ豚野郎めが!貴様なんざ、(ピーー)して(ピーーー)して宇宙の彼方に飛ばしてやらぁ!!)」


とさらに荒ぶっていた。

そんな2人の雰囲気を察し、藤二郎はあからさまにため息をつく。

そして


「申し訳ない、赤城殿。私とて、大切な右腕である千紗をお渡ししたくないのでね。今日はこれにて失礼する。行くぞ、都華咲、千紗、優弥」

「御意」

「「………御意」」


藤二郎は少し早口に、威圧感を出しながら赤城に言う。

足早に去ろうとする藤二郎に、千紗は即座に返事をし、都華咲と優弥は少し赤城を睨む、というより蔑むように見た後、返事をして付いていく。


周りの生徒はというと


「(うっわぁ…あのクソ豚(赤城)何やってんだろ。バカだなぁ…)」


と冷ややかな目で赤城を見ていた。

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