第10話千紗さん
私の学年的にも、メイド歴的にも先輩である千紗さんは、怒ると1人自称が変わります。
普段は敬語で、自分のことを「私」と言いますが、怒ったり、ものすごく焦ってたりすると、3回に1回という確率で自分のことを「オレ」と言います。
ですが、そうなるのは基本的に屋敷の中でのことです。
外では焦っていても自分を押し殺し、的確に指示を出します。メイドの、というか人の見本のような人です。
頭も良く、学年次席で、運動もできます。
しかも、すっごく美人さんです。
灰銀の髪に、色白な肌。身長も高く、手足は細くてスラリと長いです。
そして、胸も程よく大きい。
お風呂を一緒に入る時があるのですが、毎回思うのです。
美乳とは、まさに千紗さんの胸のようなことを言うのではないか、と。
まぁ、要はめちゃくちゃ美人さんなんです。
しかも、頭良くて運動できる。料理や掃除も得意です。
もう、あれですよね。
嫁にもらいたい!って感じの完璧女子です。
そんな、頼れるお姉さんの様な千紗さんですが、最近何かに悩んでいる様なのです。
学校から帰ってきて、今までならすぐ仕事をしていたのに、近頃は少し休み時間を入れてから仕事をしています。
疲れているのだろうかと思い、奥様やメイド長に聞いたところ
『少し疲れているみたいだから、刹那さん、少し千紗さんのそばにいてあげてくれませんか?』
と言われたので、一緒にお風呂に入る回数を週に1回から2回に増やしたり、お風呂の入浴剤を疲れが取れるアロマのものにしたり。
私ができそうなことはやっているのですが、あまり効果は無さそうです…。
他に何か出来そうなことを聞いてみるのも良いかもしれませんが、私が踏み込んでいい事情なのかもわかりませんし…うーん…
「どうしましょうかねぇ…」
玄関の外の掃き掃除をしながら、ポツリと呟く。
本当は、仕事中に考え事をするのは良くないんですけどね。と思いつつも、手を動かす。
ある程度ゴミを集め、袋に入れようとしたその時。
カチャンッ
「?」
ふと、金属音が聞こえ、辺りを見渡す。
よく見ると、屋敷の周りを囲っている壁の間、綺麗な模様の鉄格子から、何かを入れようとしている男の人がいた。
髪はテッカテカにクリーム?をつけてオールバックにし、服装は礼装。これで痩せていたのなら似合っていたかもしれませんが、ぶくぶくと太っていて(言い方は悪いですが)脂ギッシュな方でした。
その人は太い手指を駆使し、何やら紙を屋敷の敷地内に入れようとしているみたいでした。
「…」
あまり音を立てぬ様に近づくと
「ふんぬ!!ぎぎぎっ…入りやがれっ、このっ!」
と顔を真っ赤にして紙をねじ込もうとしていました。
もしも刃物や危険物が入っていたら危険だと思い
「すみません」
試しに声をかけてみる。
「!」
脂ギッシュな方はパッと顔を上げ、惚けた顔をする。
頬がパンパンなせいか、口はタコの様になっていて、それを少しパクパクとさせている。
「申し訳ありません。早乙女様に何か御用でしょうか」
そう聞き、30秒たったくらいでしょうか。
脂ギッシュな方は気味悪くニコォ…っと笑い
「こ、この手紙を、いい今はまだ、ここの使用人であろうち、千紗に渡して欲しいんだ。お、お金はあげるよ?」
言葉をつっかえながら、そう言った。
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