第9話みんな二次元人かよ

と思う日が時々あります。

そう。


『これは早い!四月一日選手、5位からどんどん追い抜いているぞ!!』


今日のように。



___♪◇♪___


五月の第2日曜日。

今年はその日、藤二郎様や千紗さんたちが通う、私立朝倉学園高等部の体育祭の日でした。

仕事が忙しく、泣く泣く参観を諦めた早乙女当主夫妻に代わり、私と執事長、メイド長でビデオなどを撮ることになりました。

中等部の体育祭は、私がどれも風邪をひき欠席してしまったので、何気に藤二郎様たちが参加する“学校行事”を見るのは初めてです。


しかし、


「(…あれは、運動神経良すぎでしょう)」


目の前の光景は、都華咲さんがバトンリレーにて、3、4人を一気に抜いています。

藤二郎様ならまだ、「いやぁ、あの藤二郎様ですから〜」で済ませられるますが…これは…うーん。


「おや…都華咲、張り切ってますね」

「え?」


そう言ったのは、私の右隣でビデオを撮っていた執事長。

ちなみに私は、日差しが強いので自分とメイド長に日傘をさす役です。


「張り切ってる…んですか?」

「えぇ。でも、意外ですね。都華咲は普段、全力は出さないタイプなのですが…」

「…たしかに」


都華咲さんは勉学でも運動でも、基本全力は出さずに一定の点数をキープしています。

言われてみれば、珍しいですね…。


まぁでも、ひとまず思うことは


「………………」


『やだぁ!四月一日くん、かっこいぃ〜!』

『流石ですよね!』


『四月一日ヤベェな。やっぱ陸部誘うか?』

『誘って承知してくれたら簡単なことこの上ない』

『たしかに』


この学園の顔面偏差値の平均数、高すぎかよ、です。

何なんですか、もう。

みんなあれですよ、ただの会話でも周りに何かキラキラした靄が漂って見えます。


みんな二次元人なんですか。


そんなことを考えていると、近くにある学生席がざわめき始めた。

何事かと振り返れば


「よっ、刹那」


先ほどまで、グラウンドを全力疾走していたはずの都華咲さんが居ました。

ポンッと私の頭に手を乗っけて、ニコニコと笑います。


「お疲れ様です。都華咲さん」

「あ、見てくれた?」


嬉しそうに笑う都華咲さん。


「見てましたよ。全力疾走でしたね」

「まぁーね。妹分にイイトコ見せたいのは当たり前でしょ?」

「そうなんですか?」

「そうなんですよ」


私が首を傾げれば、笑顔のまま、私と同じ方向へ首を傾げる都華咲さん。

ほんの少し、そのままでいれば、都華咲さんはパッと頭から手を離し、私の後ろから抱きついてくる。


「小鳥遊執事長〜、次の次、1年のリレーですよ。その次が3年女子のリレーです。午前は基本的、リレーがメインです。午後はダンスとかありますから」

「それはそれは。ありがとうございます、都華咲」

「いえいえ。メイド長、暑くないですか?テント、まだ空きありましたよ?」

「ありがとうございます、都華咲。刹那さんが日傘をさしていてくれているお陰で、暑くありませんよ」

「わかりました」


私に抱きつきながら、執事長とメイド長にこの後の予定を告げたり、体調を聞く都華咲さん。

少し暑苦しいので離れて欲しいですね…。


「おい四月一日ー!お前実行委員召集されてんぞー!」


少し離れた場所から、多分都華咲さんと同い年であろう男子生徒が声をかけてくる。


「え、マジ!?今行くー!」

「…」

「じゃ、執事長、メイド長、刹那、また来ます」

「頑張ってくださいね」

「私も執事長も刹那さんも応援してますからね」


都華咲さんはそれに返事をし、少し急ぎ目に走っていく、が。

少ししたところで振り返り


「刹那ー!藤二郎様も千紗さんも、みんな張り切ってるから見てろよー!」


と笑顔で手を振ってくる。

それに嬉しくなった私は


「…わ、わかりましたっ!」


と、大きめの声で返事をした。


これからの種目が、今まで以上に楽しみになった。


___☆♤☆___


ちなみに、この後に行われた、1年男子バトンリレーと3年女子バトンリレーは、藤二郎様と千紗さんのチームが圧勝したことを言っておきます。


頭良くて運動できて身長高くて美形だなんて…皆さん、本当に二次元人か何かですか。

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