第2話早乙女家の執事
早乙女家の長男坊、早乙女藤二郎には、専属のメイドと他に、専属の執事もいる。
役割的には、メイドたちは藤二郎の身の回りの世話を。もちろん執事たちも身の回りの世話はするが、主には藤二郎の護衛や仕事の手伝いをしている。
そんな執事たちも、合わせて2人いる。
1人目は、黒髪の藤二郎より5歳年上の
2人目は、紺色の髪の
この2人も屋敷ではとても優秀な部類に入り、よくメイド2人のストッパー役にも買って出ている。
幼い時より共にいるため、藤二郎にとって2人は主従関係以前に家族や友人らしく、よく自分たちのことを愚痴ったりしている。
まぁ、その話題のほとんどがメイド2人からのイタズラ被害に関してなのだが。
___♤♧♤___
「2人は何度言えば分かるんだ」
早乙女家現当主夫妻と、先代当主、そして子息の藤二郎が朝食を済ませた後、屋敷は賑やかになる。
それは雰囲気的な意味でもあるし、物理的な意味でもある。
そう、今のように。
「どうしてそう何度も何度も藤二郎様にイタズラをするんだ。毎回怒るこっちの身にもなってくれ」
藤二郎付きの使用人たちの中では最年長である優弥が、イタズラの犯人であるメイド2人を叱りつつ呆れる。
これはここ、2、3年で当たり前と化した朝の日常だ。
メイドの千紗と刹那が、主人である藤二郎にイタズラを仕掛け、それがバレて優弥に怒られる。
他の使用人たちは、微笑ましげに見つめている。その手はテキパキと動いているのだから、流石、プロと言えよう。
「わかったならもうするな。と言っても無駄だろうけどよ」
千紗と刹那。イタズラ常習犯であるこの2人が、イタズラを注意してやめたのは最初の方…刹那がやってきた頃の1、2回だけである。
優弥は無駄だと知りつつも、一応、双方の体裁のため、形だけ叱るのだ。
「優弥さーっん!千紗さーん!刹那ー!」
「都華咲?どうした」
「「?」」
一通りのことを言い終え、ふぅ、と息をつく3人。
と、そこへ、都華咲が小走りでやってきた。
優弥たちは、顔を都華咲の声がした正面階段の方へ向け、返事をする。
都華咲は階段の手すりを器用に滑って降りてくる。服装は、執事用のベストを着たものではなく、ブレザーを着ている。
「いんや、そろそろ学校だよーって」
「もうそんな時間か」
玄関ホールの、正面から見て、左側にある大きな振り子時計は今、7時15分を指している。学生は学校へ行く時間だ。
「今日優弥さんは?」
「昼から」
「いいな〜」
「「いいですねぇ…」」
優弥は大学、都華咲、千紗、刹那、そして藤二郎は高校である。
優弥の登校時間を知り、都華咲は純粋に羨ましげに、女子2人は可愛らしい笑みを浮かべていたが、少し嘲笑うように言った。
「おうおう、高校生は朝っぱらから勉強して来い」
「「「うあぁぁ〜…」」」
優弥の意地悪い、けれど明るいニカッという笑顔に、3人は項垂れる。
「どうしたんだい?3人とも項垂れて」
そこへ、そんな場面へ、彼らが主人藤二郎がやってきた。都華咲と同じ制服を着ている。
「藤二郎様」
「優弥、何があったんだ?」
「私の登校時間を羨んでいるだけです」
「あぁ。なるほど」
理由がわかると、その理由に対してか、項垂れている3人に対してか、クスッと笑う藤二郎。
クスクスっと笑うと、
「さぁ、お前たち。学校に行くよ。学生の本業は学業だ」
今朝、計15匹の走るゴキさんを手に持ち、子供のように拗ねていた人物と同じとは思えないほど爽やかな笑みを浮かべた。
今日もまた、彼らの1日が始まる。
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