第1章〜早乙女藤二郎の周囲〜
第1話早乙女家のメイド
早乙女家の本家の屋敷は、少し意外かもしれないが都内にある。と言っても、都心部ではなく郊外に近い地域だが。
住宅街より少し離れた位置にある大きな3階建ての屋敷。それが早乙女家の屋敷だ。
その屋敷には早乙女一家4人と、住み込みの使用人が20人ほど暮らしている。
外見はダークブラウンを基調とした洋館だ。屋敷を囲むのは煉瓦造りの塀と芝生の広がる庭。敷地の入り口は鉄格子の門であり、屋敷の玄関はこれといった特徴は無いが、とても高価そうな木の扉だ。
ちなみに、両扉。
さて、この屋敷には使用人が20人ほどいる。住み込みで20人。
時には外部からも来るので、その人数は合計すると30人ほどとなる。
まぁでも、住み込みは基本、早乙女一家付きの者たちなので、庭の手入れや食事などは庭師や調理人がちゃんといる。
今回はそんな、早乙女一家付きの使用人達のうち、早乙女家の嫡男である早乙女藤二郎付きのメイド2人を紹介しよう。
__☆☆☆__
早乙女家の長男坊、早乙女藤二郎には2人の専属メイドがいる。
1人は灰銀の髪を肩ほどまで伸ばしている少女、名を
もう1人は白に近い桜色の髪を耳下あたりまで伸ばしている少女、名を
2人とも優秀であり、儚げ美人であり、屋敷のメイドや執事達からは娘や妹分として可愛がられている。
が。
バタンッ!!!
執事やメイド達が集まり、報告や休憩をする部屋に、老齢の執事達が赤ん坊の頃から見てきたこの早乙女御長男、藤二郎がやってきた。
扉を思い切り、力任せに開け、顔は能面のようだが瞳は確かに怒りに燃えていた。
そして、口を開き
「…千紗と刹那はどこだ」
静かにそう言った。
瞳だけじゃなかった。背後に般若が見える。
「今度は何があったんだろうか…」と老齢の執事達は苦笑混じりに互いを見つめ、四月から新たに入ってきた外部の使用人達は「何事だ!?」と焦っていた。
経験の差である。
少しして、早乙女家先代当主である、藤二郎の祖父の執事がやってくる。
そして
「千紗と刹那はここには来ておりませんよ。何かありましたか?」
と穏やかに、にこやかに聞く。
藤二郎は怒りを少し抑え、答える。
「2人が…イタズラしてきたんだ…」
と、少し膨れ、拗ねた子供のように。
執事は「ほほほ」ところころ笑い、
「それはそれは、いつものことではありませんか。今回は酷かったのですか?彼女達は、あなた様の本当に嫌がることはしないと思いますが」
優しく諭すように言う。
すると、藤二郎は
「………探してくる」
とだけ残し、部屋を後にする。
扉は来た時のように乱暴にではなく、そっと音も無く閉める。
その形は完璧で、まさに噂通りである。と外部の者達は思う。
先ほどの、怒りの感情を溢れんばかりに出している光景など、何かの間違いと消し去って。
「
扉が閉まり、足音が遠ざかるのを確認してから、若い執事の青年が老齢の執事に声をかける。
「どうした?
「坊ちゃん、何であんなに怒ってたんですか?」
都華咲、という若い執事の問いに、小鳥遊と呼ばれた老齢の執事は笑いながら答える。
「いつもの通り、2人のイタズラでしょうね。…多分、今回は何かしらの数が増えていたのでしょう」
小鳥遊の答えが、間違ってはいないのだから凄い。
と、まぁ。このように、早乙女家のメイドは優秀だが、何故だか藤二郎付きのメイドはイタズラが大好きなのであった。
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