第1章〜早乙女藤二郎の周囲〜

第1話早乙女家のメイド

早乙女家の本家の屋敷は、少し意外かもしれないが都内にある。と言っても、都心部ではなく郊外に近い地域だが。

住宅街より少し離れた位置にある大きな3階建ての屋敷。それが早乙女家の屋敷だ。

その屋敷には早乙女一家4人と、住み込みの使用人が20人ほど暮らしている。


外見はダークブラウンを基調とした洋館だ。屋敷を囲むのは煉瓦造りの塀と芝生の広がる庭。敷地の入り口は鉄格子の門であり、屋敷の玄関はこれといった特徴は無いが、とても高価そうな木の扉だ。

ちなみに、両扉。



さて、この屋敷には使用人が20人ほどいる。住み込みで20人。

時には外部からも来るので、その人数は合計すると30人ほどとなる。

まぁでも、住み込みは基本、早乙女一家付きの者たちなので、庭の手入れや食事などは庭師や調理人がちゃんといる。


今回はそんな、早乙女一家付きの使用人達のうち、早乙女家の嫡男である早乙女藤二郎付きのメイド2人を紹介しよう。


__☆☆☆__


早乙女家の長男坊、早乙女藤二郎には2人の専属メイドがいる。


1人は灰銀の髪を肩ほどまで伸ばしている少女、名を如月千紗きさらぎちさ。歳は18歳で、藤二郎の二つ上。齢7つの頃から藤二郎の世話をしている。


もう1人は白に近い桜色の髪を耳下あたりまで伸ばしている少女、名を遠藤刹那えんどうせつな。歳は15歳で学年は藤二郎と同い年。12歳の頃から早乙女家のメイドとなった。


2人とも優秀であり、儚げ美人であり、屋敷のメイドや執事達からは娘や妹分として可愛がられている。



が。



バタンッ!!!


執事やメイド達が集まり、報告や休憩をする部屋に、老齢の執事達が赤ん坊の頃から見てきたこの早乙女御長男、藤二郎がやってきた。

扉を思い切り、力任せに開け、顔は能面のようだが瞳は確かに怒りに燃えていた。

そして、口を開き


「…千紗と刹那はどこだ」


静かにそう言った。

瞳だけじゃなかった。背後に般若が見える。

「今度は何があったんだろうか…」と老齢の執事達は苦笑混じりに互いを見つめ、四月から新たに入ってきた外部の使用人達は「何事だ!?」と焦っていた。


経験の差である。

少しして、早乙女家先代当主である、藤二郎の祖父の執事がやってくる。

そして


「千紗と刹那はここには来ておりませんよ。何かありましたか?」


と穏やかに、にこやかに聞く。

藤二郎は怒りを少し抑え、答える。


「2人が…イタズラしてきたんだ…」


と、少し膨れ、拗ねた子供のように。

執事は「ほほほ」ところころ笑い、


「それはそれは、いつものことではありませんか。今回は酷かったのですか?彼女達は、あなた様の本当に嫌がることはしないと思いますが」


優しく諭すように言う。

すると、藤二郎は


「………探してくる」


とだけ残し、部屋を後にする。

扉は来た時のように乱暴にではなく、そっと音も無く閉める。

その形は完璧で、まさに噂通りである。と外部の者達は思う。


先ほどの、怒りの感情を溢れんばかりに出している光景など、何かの間違いと消し去って。


小鳥遊たかなし執事長〜」


扉が閉まり、足音が遠ざかるのを確認してから、若い執事の青年が老齢の執事に声をかける。


「どうした?都華咲つかさ

「坊ちゃん、何であんなに怒ってたんですか?」


都華咲、という若い執事の問いに、小鳥遊と呼ばれた老齢の執事は笑いながら答える。


「いつもの通り、2人のイタズラでしょうね。…多分、今回は何かしらの数が増えていたのでしょう」



小鳥遊の答えが、間違ってはいないのだから凄い。



と、まぁ。このように、早乙女家のメイドは優秀だが、何故だか藤二郎付きのメイドはイタズラが大好きなのであった。



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