悪ノリメイドとお坊ちゃん
ひかげ
プロローグ〜早乙女藤二郎の朝〜
日本有数の名家、早乙女家の嫡男、
日の出と共に起き、身支度を整え、まず向かうのが自室のクローゼットである。
彼は170㎝を超えるなかなかの高身長なのだが、そんな彼よりも頭五つ分ほど高く、幅も広いクローゼットには、私服や上着、カバンなどで埋められている。
そして、彼はクローゼットの中にある小さな引き出しを開け、ため息をつく。
中には
ウイィィィィン…カサカサカサ
「………………」
動くゼンマイ式のゴキさんのおもちゃ。
しかも、よく耳をすませば
ゥィィィ…カサ…サ
「………………」
まだ数匹はいるような音。
藤二郎はまたもやため息をつく。
そして、理想としていたコーヒーを飲みながら読書という至福の朝の時間を、頭の中のスケジュールから消し去った。
__*○*__
「…………」
起床から30分。
五月半ばの今頃は、もうすでに日がそれなりに昇ってきていた。
4時半過ぎには起きていたはずなのに、時刻はもう5時過ぎ。
手元には、あれから新たに見つかった走るゴキさん計15匹。
誠に虚しいことだが、犯人には目星がついている。
というよりも、藤二郎の部屋にこんなものを仕掛けるのは、あの2人しかいない。
今頃、その2人は今日の予定の確認だったり、お互いの髪を結ったりしているのだろう。
藤二郎が既に、このゴキさん計15匹を捕まえたことを予想しつつも。
分かっている。分かっているつもりではあるのだ。
この“些細なイタズラ”が、2人からの好意であることを。
名家の嫡男として、堅苦しい日々を送っている自分を、笑わせようとしているのだと。
だが、しかし。
いくら周りの人間に『完璧』だの『紳士』だの言われても、藤二郎とて人の子である。
分かっている。分かっているけども。
毎度のことなのだけども。
「
怒るのは、怒りたくなるのは、当たり前である。
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