第2話 セレネシティにて

『詳細不明』……か。


 別にいいかな……この狼さんは用心棒だから味方だし、きっと僕を守ってくれる、強力な能力に違いない……


 それに分からないのは僕の『トゥルーアビリティマ』がまだ不完全な能力なんだと推測してみる。


 ……そう、伸び代があるかもしれないと希望を持っていこう、でなければ僕は記憶を取り戻せないまま一生を迎えるに決まってるからだ。基本悲観的にはならないようにしてる。


 しかし、疑問に思った事に関しては答えを見つけようと思う。こんな事思ってはいけない気がするが……とりあえず保険だ……


 答えを見つけよう。



「そんじゃシゼ、ここにサイン頼むぜ」


 警備会社シールオンザクラウンから来た狼の獣人は持ってきていた会社のカバンから書類を出している。


 僕はそれをレギトに言われた通りに書く。


「それにしても用心棒って1000円でいいの?命がけじゃない?」


「そうだな、まっ、俺は最近入ったアルバイトだからよくわかんねぇなぁ。ただ依頼人を守るだけだし」


 命がけにアルバイトかぁ……すっごいね、最近のアルバイト……人生デンジャラスライフまっしぐらじゃん。


「そうだ、はいこれお代」


 僕は1000円をレギトに手渡そうとお札を取り出した。それをレギトは手で制する。


「お代は今じゃねぇ、しっかり依頼人を守り終えてからだ」


「お、なんかプロフェッショナルだね!頼もしい!」


「まっ、バイトだけどな」


「あははは」


 2人は思わず笑いあった。


 初対面だけど、なんか馴染みやすい。僕も以前やったアルバイトでこういう人柄が良いような人に会ったなぁと思い出を振り返る。


 ーーそれから僕とレギトはまず"セレネシティ"へ向かう。


 大型デパートだ、着いた、時刻は23時49分。


 外には結構人が歩いていたが、ここは人気が無くなっていた。



「んで、誰を探してんだ?」


「知らない人……かもしれない」


「何だよ……訳ありか? 手がかりは?」


「僕の奇能きのうで探すね」


 狼の獣人は驚いた。


「まじか、奇能きのう使えんのか?俺と同じだな」


 うん……知ってる、と思いつつ。


「えぇ、すごい偶然だね、レギトは一体どんな奇能きのう?やっぱ用心棒っぽい力強い感じなのかな」


 レギトは口角を上に上げ少し自慢げな表情でシゼを見下ろして言った。


「それがよぉ、俺の奇能きのうはちょっと特殊なんだよ」


 そういうとレギトは灰色のコートのポケットに手を入れ金色のコインを掴むとシゼに見せた。


 これは? 犬のマークかな……まぁ、犬と言っても神々しい犬って感じ?というかフェンリルとかアヌビス神と言った感じみもちょっとあるな。


「これを俺は……」


 レギトの説明を、聞いているつもりつだったがそれを上回る情報が入ってきた。


 そう。僕の『トゥルーアビリティマ』が反応したのだ。


『ブレインカノス』 記憶系統の奇能きのう


このように当初僕は情報を得ていたが、それが、


『ブレインカノス』 記憶を閉まう奇能きのう


に変わったのだ……


「おい、シゼ?」


 僕は直ぐに周りを見渡した、何処だ? 何処にいる? そういえば僕とレギト以外このセレネシティ1Fの中央エリアに人が全くいない事に気づいた……


 その時店員に声をかけられた。


「お客様〜閉店のお時間ですよ」


「あっはい、すみません、もう出ます」


 そうだ、セレネシティは10時開店の0時閉店だったわ。


「行こう、レギト」


 僕達はデパートの外に出て徒歩15分で着く大通りのカマルロードを目指した。


 あぁぁ……完全に見失った……あれから能力の詳細が変わらない……6階層あるデパートの何処かにいたのかも、屋外駐車場から車で来ている人だったかもしれないし。


僕の能力の範囲もいまいち分かりづらいという事もあるんだけどまぁ仕方ないか。


 上の階も調べたかったなぁ、来る時間を間違えた……


「とりあえずカマルロード探したら今日は終わりだから」


「今何時だっけ?」


 とあくびをしながらレギトは聞いてくる。口を開けるとギラリとした歯が光っている。うん、狼だ。


「夜中の12時4分だね」


 僕はスマホを取り出して見た……ちなみにスマホは最近買い換えていて家族の電話番号らしきものがいくつかあったが電話を掛けてみると"現在使われておりません"だそうだ。


 それと"トゥークス"という連絡を取りあえるアプリにもその情報は無かった……


「もう2日だな」


「うん、やっぱ夜中は寒いねー、今何度だろう?」


 とスマホに聞いてみた。


 只今3度ですとスマホが言った。


「3度か〜まぁまぁだな」


「えっ? めっちゃ寒くない?」


 僕は今なかから耐寒用の赤色の長袖のTシャツを着てその上から厚手の黒色のジャンパーを着ている。ズボンは青色のジャージで。


 頭部は無防備なのでもう僕の顔色は白いんだろうなぁと思うくらいの寒さが来ている。


「俺の故郷はもっと寒いんだよ」


「へぇ、何処なの?」


「スノウエデン」


『スノウエデン』! マイナス20度にもなった事がある国じゃん!ここ『クレサント』から行くには電車で丸2日かかる場所じゃん!


 雪原の景色が綺麗で、それで。


「そこ、チーズフォンデュがうまい国だよね?」


「ん? あぁそーだな、かまくらで溶かしたチーズフォンデュの事だよな?」


 それだよ!それ! よく分かんないけどチーズが溶けるほどの熱を発する雪のかまくらで溶かされたチーズが美味いってネットの口コミに書かれてたなぁ!"絶品の雪解け"とか粋なコメント書きやがってちくしょう、食いてぇよ!


 雪が溶けないのが不思議だなぁ、どんなかまくらだろう。


「レギトはそこでも用心棒してたの?」


「あぁ、でもシゼ、俺がこうして用心棒すんのはお前が初めてだよ」


「えっ?」


「何かみんな怖がってドタキャンすんだよなぁ、別に噛みつこうとしている訳でもないのになぁ」


 そう言ってレギトは目を皿のようにして口を開きシゼに牙を見せる。


「これ、俺の笑顔」


 おう、かわいいなと言いたいとこだが、なんかその表情、おまえ、旨そうだなという表情とも読み取れる。


 誤解は全ての始まりと言いそうだし。


「だからよ、嬉しいんだよなぁ、俺、初用心棒だからよ、雑用しなくて済むぜ」


「そうなんだ、僕は全然怖くないんだけどなぁ」


「あぁ、しょんぼりしてたんだよなサングラスかけようか迷ってたとこなんだよな」


「それつけても、バレバレだと思うけど?」


 というか、厳つくなるぞもっと。狼にサングラスとか強、面白。


「いや、やってみないと分からねーだろ?」


「いいねぇ、一緒にかけてみる?」


「おっ!? お前も乗り気か?」


 と半信半疑の目線をレギトがぶつけて来た。


 そうやってしばらくするとカマルロードについた、現在2020年8月2日0時19分。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る