第6話 令和弐年の二月二十三日は『籠の中の鳥』でファンタジー①

 ガタガタと幌馬車が街道を進んでいた。道路が整備されなくなって何年が随分と経つ。荒れ果てた道は草木が生え、旅人が踏みしめた足跡、行商人達が通る轍で、どうにかその跡を残している。

 彼らは”行商人”の一団であった。定期的に小麦粉と木の実を山村から漁村に運んでいる。また、現在は流通と通信が壊滅している為、手紙やそれ以外の荷物も、依頼があれば何でも持っていく運び屋であった。この日は三通の手紙と、小さな小鳥を一羽預かっていた。


 鳥は未来を告げると伝えられている鳥『チルバード』だと聞かされていた。

「本当か?」

手持ち無沙汰にしていた傭兵のダンは、鳥の世話をする吟遊詩人セイムに訊ねる。

「さーあ? どうだろうね?」

セイムは鼻歌でも歌うかのように返事をした。いつも本気か本気だか分からない感じで喋る男で、ダンは肩をすくめながらもう一人に聞いた。

「そんなもの、嘘に決まってるじゃない。」

もう一人は常に地図に張り付く学者の女性だった。名をシエラと言う。

「確かに、あの村に伝わってた未来を告げる鳥チルバードの特徴は併せ持っているようね――掌に乗るくらいの大きさで、滅多に鳴くことは無く、花のように輝く明るい黄色の毛並みを持った――そんな鳥、いくらでもいるよ。もちろん邪見にするつもりはないけれど、なんにせよこれから長い時間をかけて様々な検証が必要なの。わかる?」

シエラは辛辣なほど正確に喋る女性だった。

「はいはい。余計なことを聞きましたよっと」

ダンは結局、聞く相手を間違えた。と、手持ち無沙汰に外の風景を眺める他ない。

「で、町まではあとどれくらいよ?」

馬の手綱を持つ行者、ポーリーに声をかけた。かけた所で喋らない張り合いのない男であったが、他の面子よりはマシだった。


 ポーリーは手綱をしっかり握っていた。全身は緑色で、固い麻布の服に身を包んでいる。相棒の馬の手綱を握り、流れる風景をぼんやりと見ていた。ごとごとと小気味良い速度で馬車は進めていく。左手に見える川と平行しながら、遠くに見える山は色とりどりの木々が賑やかだった。

「あー……盗賊を警戒する。少し速度を落としてくれ。」

 横で軽口を言っていたダンが、急にピリッとした表情へ変わる。ポーリーは馬車の速度を落とすと、ダンはすぐに飛び降りた。すると、示し合わせたかのように盗賊が一人、二人、三人と出てくる。川沿いに街路樹がまばらに並ぶ程度で、見晴らしが悪い訳ではない。どこに隠れていたと言う訳でもないが、ダンはすぐに”気づいた”のだ。


 ダンは古ぼけた剣をさっと振り抜く。剣戟の音が響きわたった。馬車はその隙に道を進む。

 荷馬車の中で、地図を広げたシエラが行先を指示する。ポーリーは小さく頷き、返事はしない。ガタタタと馬車は先を急いだ。その時、ピッと籠の中の鳥が短く鳴いたのを、セイムは聞いたような気がした。


*続く*

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