第2話 令和弐年の二月十九日は『アップルパイ』で日常系。

駅前にできたアップルパイ専門店。

開店した日から、絶えることなくバターとシナモンの香りが充満するようになり、気付けばその駅の名物となっていた。

それをお土産に選ぶのは必然で、未だ付き合いのある男連中五人組の集まりにアップルパイを持って行くことも仕方のないことであった。


そして顔を合わせた五人は、机に土産を並べて唸った。全員がアップルパイを買ってきたのである。

「気が合うにもほどがある。」

「五十年も付き合いがあれば似てくることもあるが。」

「これはない。」

「お前んちの嫁さん今日いなかったよな。」

「いたところで、全員ホールではどうしようもないなぁ。」

男五人がうなだれながら、この五つのアップルパイ(ホール)を苦心惨憺食べるのかと、集まったばかりだというのに疲れた表情になっていく。


一つ目は良かった。白髪が目立つ初老とは言え、男が五人もいれば一ホールは食べることができた。

しかし、二ホール目ではすでに甘さに飽きてしまい、三人が食卓から離れてしまった。大半を二人、勝典と忠幸が食べて、残り三ホールとなるも見るのも辛いと言う体になる。

「酒に行こう。これだけ被ってしまったのだから仕方がない。」

早々に脱落した広志は、自分で酌をしながら、食卓でいまだ格闘する勝典と忠幸を呼んだ。

「勝手なもんだ。アップルパイに加えて、コンビニでアイスまで買ってきたのはお前だっていうのに」

つられて、横であたりめを齧る鉄也が広志の肩をこづく。


勝典と忠幸はそんな二人を恨めしそうに見ていたところで、誠二がお茶を持ってきた。

「まあ相変わらずの二人だね。ほら、お茶。」

「助かるわ。」

「もう見るのも無理だ。」

二人の呻き声に苦笑いしながら、誠二も自分のお茶を置く。そしておもむろに三つ目のホールに手を伸ばした。勝典と忠幸は思わず「「おい」」と制止する。

「大丈夫、ラップするだけだよ。」

誠二は言うや、ホールを切り分けて、それぞれに家族分のお土産になるようタッパーに詰めていった。

「お前は昔から気が利くよなぁ」

誠二はてきぱきと片付けていく。

「昔からそうだ。俺とかっちゃん、てつやとひろしの二対二になって、気付けば誠二が審判役だ」

と、忠幸が答える。二人は思わず学生時代を思い出して言っていた。

「なんだやるのか?」

「俺たちが上ってこと、改めてはっきりさせてやろうか?」

広志と鉄也も酒を片手に会話に戻ってきた。

「ふふ、では第二百回目となる勝忠と鉄広対決を開催しますか。」

そして誠二が、自然な流れで新しい遊びを提案するのだった。


誠二はほどよく酔っ払った四人を見送って、静かになった家の中に戻った。アップルパイが机にある。冷蔵庫にしまうと、片付いた部屋は平日の空気が迫っているようだった。しかし、冷蔵庫を開ける度にアップルパイが出迎えてくれる。何日にわけて楽しむかは分からないけれど、きっと、見る度に今日の休みを思い出す。それだけで、ソファで酒にのまれる二人や、食卓で突っ伏す二人が戻ってくるのだ。次の集まりまで、その香りが途切れることはないだろう。

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