薔薇 お勧めのバラ

 毎年、様々さまざまな種類の新作のバラを、各国のナーセリー(苗木を育成する業者のこと)が販売していますが、私のおすすめは、人気バラランキング上位の、古典的こてんてきなバラたちです。

 皆が長年ながねん育ててみて、良いと言っているのはやはり、理由があると思うからです。

 沢山たくさんのバラたちをあの世に送ってきた私が、なかでもおすすめするのは、


   普通のバラ部門  アイスバーグ


   ツルバラ部門   スパニッシュビューティー


です。

 いずれも、私にとってバラを選ぶ基準きじゅんである、香りが良く、とげが少なく、丈夫じょうぶなバラたちです。


 なにがし園芸雑誌の読者投票で堂々どうどう第一位、殿堂でんどう入りの白バラ、『アイスバーグ』は、こおりしろ、という意味です。ドイツ語で別名『シュネーヴィッチェン』、白雪姫しらゆきひめともいいますが、随分ずいぶんたくましい白雪姫です。

 微香びこうということになっていますが、花に顔を近づけると、フルーツの良い香りがします。

 ドイツ産のワインも、フルーツこうがするので、ドイツ人好みの香りかもしれません。

 うちのアイスバーグは、大苗おおなえで買ってきて、翌年、ずっと花を咲かせていました。

 秋になって、他の鉢の花が終わってもまだ、枝いっぱい咲いていましたが、手入ていれしてやろうと、鉢を手にしてみると……なんか、軽い。

 みきさぶって、土の中を見てみると……な、無い!

 鉢の中には、根が全く無かったのです。

 こんな状態でよく、咲いていたものです。

 あわてて花を全部落とし、鉢をさかさにしてみると、出るわ出るわ、コガネムシの幼虫があふれんばかりに出てきて、クラクラしました。

 水をけて、根から土を全部落とし、鉢もよく洗って、鹿沼土かぬまつちを入れました。苗を植えて、日陰ひかげに置き、毎日、様子ようすを見ていました。

 もうダメかと思いましたが、一年後には葉が出てきて、二~三年するともう、何事なにごとも無かったかのように元気に枝を伸ばし始め、その後は順調じゅんちょうに、毎年、花を咲かせています。

 年を取って、大分だいぶくたびれてきましたが、それでも咲かない年はありません。

 アイスバーグを作出さくしゅつした百年以上の歴史を持つドイツの名門めいもんナーセリー『タンタウ』の主人が、新作のバラで、香りの良いバラの賞を取った時のこと。

 インタビューに答えていわく、

「香りはともかく、丈夫じょうぶなバラを作るのが、我が社の目標です!アイスバーグが丈夫だと皆さんめてくださいますが、私たちにとっては到底とうてい、満足のいくものではありません。」

 折角せっかくの賞を蹴散けちらしていました。

 ドイツの花は一般的に、丈夫じょうぶで香り良く、とげも少なく、おすすめです。


『スパニッシュビューティー』は、スペインの古いバラです。

 私はほかにスペインのバラを知りません。

 唯一無二ゆいいつむにのツルバラです。

 フラメンコのスカートのように、ひらひらした花びらを持つ、大きく華やかなピンクのバラです。優雅ゆうがな甘い香りがします。咲くのは春のみですが、本人のお気に召せば、かえきしてくれます。

 神様がスペインに、世界一の美女を恵んでくださったという言い伝えがあるそうですが、このバラも、そのうちに入っているのでしょう。

 特に病気をすることもなく、虫に食われることもなく、いつも元気いっぱいですが、元気過ぎて、大きい鉢が必要です。水も結構けっこう、欲しがるので、気を付けてやってください。

 世界一の美女の要求なのですから、聞いてあげてくださいね。


 変わったバラを育てたい方には『ヘル・シューレン』がお勧めです。

 産地も又、珍しい、オランダのバラです。

 葉が斑入ふいりになっていて、花は清楚せいそな桃色、とげも少なく良い香りがするという、欲張よくばりなバラです。

 コンパクトにまとまって、剪定せんていに悩むこともありません。


 お勧めとは別に、私の一番、好きなバラはというと、

春芳しゅんぽう

 これにきます。

 日本の育種家いくしゅかのレジェンド、鈴木すずき省三せいぞう氏が作出した淡い桜色のバラです。

 昔、ケーキといえば、バタークリームのケーキでした。生クリームは、滅多めったにお目にかかれないものでした。お誕生日たんじょうびの丸いケーキは、その上に、バタークリームで作った形良かたちよい、白やピンクのバラがかざってあるのが定番ていばんでした。

 このバラはその、バタークリームのバラにそっくりです。

 このバラの姿をけば、だれしもバラの絵だとすぐ、わかるでしょう。

 香りは甘く清々すがすがしく、上品じょうひんです。

 大きく成長するので、庭植えが適当てきとうですが、大鉢でも、それなりに咲きます。

 育てるのに、特に気をつかうことはありません。通常の栽培で大丈夫です。

 形良く、香り良く、棘も少なく、バラの中のバラだと思います。

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