枝垂れ桃の作り方

 古株ふるかぶの植物たちのうちの一つです。

 元・農家だったらしい園芸店からやってきました。

 店の奥に大きな温室おんしつがあり、御主人みずから、植物を増やしたり、盆栽ぼんさいのように植物を作りこんでいました。

 よそでは見かけないような小さな苗や、あじのある鉢が沢山たくさんありましたが、引退されたのか亡くなったのか、残念ながら、私が通うようになってすぐ、店じまいしてしまいました。

 みきへびのようにくねった枝垂しだ花桃はなももで、レジにいた娘さんらしい人が、まあ、こんなものもあったのね、と、びっくりしていました。

 春になると、どの植物にも先駆さきがけて、ピンクや白や赤にけます。

 花を楽しむ種類で、実を食べるものではありません。それでも花が終わるとすぐ、実をつけたがりますが、体力を消耗しょうもうするので、花殻摘はながらつみをします。

 私の一番のお気に入りで、映画の『レオン』を見て、もし火事にでもなったら、さきにコイツを毛布もうふにくるんで、助けようと思っていました。引っ越しのさいも、これだけは、前日に自転車の前籠まえかごに積んで、あらかじめ引っ越し先に持っていっておきました。

 大事にしぎるあまり、軒下のきしたに置いて、ありが巣を作ったり、しつこいカイガラムシの住処すみかになったりして、結構けっこう、手のかかるヤツでしたが、うちに来て十余年じゅうよねん力尽ちからつきて、春になっても葉が出なくなってしまいました。

 あきらめきれずにそのまま置いておくと、根元から、元気のいいが何本も出てきました。

 秋になってきて、勢いの優劣ゆうれつが付いたので、一番よさそうな一本を選んで、残りは根元で切ってしまいました。

 先端を切ると、何本か出ていた側枝そくしの先っぽにビニールひもを結び付けて、えがくように鉢にくくりつけました。

 冬の間中あいだじゅうしばっておき、春になってはずしてみると、かさのような形になっていました。

 残念ながら幹はぐになってしまいましたが、もっと幼いうちに針金はりがねけておけば、蛇のようになったと思います。

 これから何年生きるのか、楽しみです。

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