シンビジウムの思い出

 子供のころは、植物がきらいでした。

 父が小器用こぎような人で、自分ちの庭で作るだけではらず、近所に畑まで借りて、トマトだの胡瓜きゅうりだの作っていたほど、園芸にっていました。

 当然、庭の整備もおこたらず、道行く人があしを止め、時には花の盗難とうなんにあい、地域のコミュニテイー雑誌の表紙を飾ることも度々たびたびでした。

 で、私の災難さいなんです。

 冬になったら、外の寒さに耐えきれない植物たちが、ぞろぞろと、家の中に入ってくるのです。

 居間は植木鉢で一杯いっぱい、父の寝室にも、それでもまだりず、向かう先はなぜか、私の部屋でした。

 昼間、居ないんだから、置いてもいいでしょ?、とは、大量の鉢を持てあましてる母の弁。

 中でも、のは、シンビジウムでした。

 シンビジウムはランの仲間です。

 有名な胡蝶蘭こちょうらん(よく、開店祝なんかで、リボンを付けて一番目立つ所に飾ってある、ひらひらした白っぽい花)は育てづらい(多分たぶん温室おんしつが無いと、難しいのでしょう)らしく、父ですら、枯らしてしまっていました。

 でもシンビジウムは丈夫じょうぶで、やたら増えまくるのです。よそ様にあげても、まだ余る、で、冬の間、私の部屋の半分を占領せんりょうしていました。

 こっちは、植物なんか、全く興味なし、なのに。

 おまけにシンビジウムときたら、細長い鉢に植わっていて、めちゃくちゃ安定あんていが悪いのです。ちょっと部屋を横切よこぎっただけで、足に引っかって倒れまくる。おまけに、植わっているのが水苔みずごけなので、乾いたチリチリした苔が、そこら中にバラまかれるのでした。

 今でも、シンビジウムだけは苦手にがてです。

 昔は、とんがった花びらの、濃い赤紫色の花で、たけの高いものしかありませんでしたが、最近は、可愛かわいピンク色やクリーム色の、小さくて丸っこい花で、丈も低いのが多く出回っていて、増えやすいだけあって、お値段も手頃てごろなものを見かけます。

 でも、

「これ、何ですか?」

「シンビジウムです。」

という返答を聞くと、あの冬の生活が、まざまざと目の前によみがえって、

「い、いいです……。」

と、そそくさと、お店を後にするのでした。


 と、いうわけで、おしゃれでゴージャスな花、「洋蘭ようらん」を育ててみたい、という初心者しょしんしゃのあなたにおすすめなのは、シンビジウムです。

 蘭を育てるうえで気をつけなければならない、温度管理と、光の当て方が、この仲間のうちではラクだからです。冬、温室おんしつも必要ないし、夏は外に出しておいて大丈夫だいじょうぶです。(だからといって、ギラギラ太陽の下に置いておかないでね)


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