ギルドを脅す勇者
「いやぁ、
こっちの酒も結構イケますね、兄貴」
ギルドに併設されている酒場で
異世界の酒を堪能する
勇者
酒が飲めない
本題である話を続けた。
「ここのギルドですが……」
二人は酒を飲んでいるが、
これは立派な
これから先を考えた戦略会議でもある。
「冒険者の職業人組合と言うよりは、
冒険者とクエストの依頼者を
マッチングするサービスを提供している
仲介業者のようなものですね。
冒険者がギルドに登録するのにも
それなりの金が必要となりますし……
クエストの依頼者からも
クエスト報酬の三十パーセントを
ギルドの取り分として
取っているようです……
あぁ、あと、
パーティーメンバー募集の貼り紙をする際も
告知板使用料を取っているようですね」
まだ来て間もない勇者一行、
マサはギルドについて
調べたことを報告していたのだ。
「かぁっ、両方から金取るとは、
ギルドっちゅうんはボロ儲けやな」
サブは頭は悪いが、
金に対しての嗅覚は鋭い。
「さらには、
冒険者が情報交換や
パーティーメンバー探しを兼ねて
この酒場を利用する飲食代、
それらを考えると中々の利益になりますね」
「ほぉ、
随分といい仕組みじゃねえか」
勇者石動は悪い顔をして
何かを企んでいる。
「人間社会であれば、
独占禁止法に引っかかるようなやり方ですよ、
この世界ならではですね」
ギルドを職業人組合と捉えずに
営利目的団体と捉えるならば
確かにそういうことになる。
このエリア一帯の者達に対して、
上納金を徴収する代わりに
身の安全を保障してやる、
守ってやると約束した極道の勇者。
だがこの世界で
本来それに近い役割を担っているのが、
ギルドにおけるクエスト依頼であった。
危険なモンスターが出たから
冒険者達に討伐を依頼する、
しかも成功報酬で。
必要な時だけ必要な額を払えば済む、
商売の競争相手としては
なかなか手強そうではある。
今風に言えば、
サブスクリプションと都度払い、
どちらがユーザーにとってはお得か、
ということだろうか。
「マサ、このギルドっちゅうんを
うちの傘下に出来んかのぉ?」
またとんでもないことを
さらっと言っている勇者石動。
もうそれならいっそ、
競争相手を力で捻じ伏せて
傘下にしてしまおう、
それがこの人の思考回路なのだろう。
「そうですね、
ここを傘下に出来れば、
うちの資金源もかなり楽になります」
マサも別段驚いている様子もないので、
これがいつもの彼等のやり方のようだ。
-
ちょうどその時タイミングよく
酒場に居た冒険者同士の
喧嘩騒ぎが起こる。
こういうところを
この人達は決して見逃さない、
飛んで火に入る夏の虫、
彼等に口実を与えたようなもの。
「サブ、ちょっと行って、
言い掛かりをつけるのは
日常茶飯事と言っても過言ではない。
「へいっ!」
威勢の返事をするとほぼ同時に、
サブは荒くれ者の
それなりに屈強な冒険者二人を
背後から酒瓶で殴った。
ガラス片が飛び散り
冒険者の頭からは血が流れる。
「テメエら、
兄貴が酒飲んどるのに、
何してくれてんじゃ、ごりゃぁ」
不意打ちを食らった冒険者二人は
サブに向かって来たが、
それを一瞬でのしてしまう、
頭は悪いが腕っ節は強いサブ。
そして、倒れる冒険者二人の元に
やって来た勇者石動は
詫びを入れろと言い出す。
「おぅ、お前等、
けじめつけろ、
今すぐここで、指つめろ」
「兄貴、こいつら
「馬鹿野郎、武器持って
命のやりとりしてるような奴等が、
堅気なわきゃねえだろ
それぐらいの覚悟が無くて
どうすんだよ?」
「ここにはヒーリングとか、
そんなのがあんだろ?
それで後で治しゃいいんだよ
要はお前等の詫びの姿勢を、
覚悟を見せろってことだからよ」
なにも勇者石動も
本気で指をつめさせたい訳ではない。
今回も勇者石動の本命は
ここではない。
彼の狙いはこの先にある。
-
案の定、騒ぎを大きくすると
ギルドの受付嬢がやって来た。
「よぉ、ねえちゃん、
せっかくの酒が
まずくなっちまったぜ
上の人間、呼んで来い
いや、人間じゃねぇかもしれねえな
上の
勇者が呼んでるって、
言ってな
迷惑料払って貰おうじゃねえか」
受付嬢を脅し、
ここのギルドの最高責任者を
連れて来させる勇者。
言い掛かりをつける、
因縁をつけるところから
いつも彼等の仕事ははじまるのだ。
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