追い込みをかける勇者

勇者の威圧に縮み上がり、

受付嬢はすぐに

このギルドの最高責任者

ギルドマスターを呼んで来た。


「おうっ、

あんたが責任者かい?」


「この酒場は、

いつもこんな物騒なのかい?


こんなんじゃ

おちおちゆっくり

酒も飲めやしねえぜ


ここには勇者の助けが

必要なんじゃあねえのかい?」


迷惑料の話から

上納金の話にすり替える勇者。



こうして因縁をつけて来るやから

今までもいない訳ではなかったのだろう、

上納金の説明をマサが終えると、

ギルドマスターは

きっぱりとこれを断った。


「勇者様、ここは

冒険者のギルドですよ?


腕自慢の冒険者が

沢山おりますし、

大丈夫でございますよ


勇者様は是非

魔王討伐に専念なさってください」



「へぇ、そうかい……

そいつは残念だな……」


勇者石動がそう言うと、

突然ドラゴンがギルドの

建物に突っ込んで来た。


大型ドラゴンの体当たりで

窓が割られ、壁が半崩壊すると、

今度は一緒について来た

小型のドラゴン数匹が

酒場に入り込み、

その場に居た冒険者達を全員

尻尾で一瞬の内になぎ倒す。



「おいおい、随分と

話が違うじゃあねえかよ」


「いきなりドラゴンが

襲撃して来るなんざあ、

物騒にも程があるってもんだろ」


当然そんな偶然がある筈もなく、

勇者石動が

ドラゴンを使役する能力で操り

やらせているのだ。


勇者石動はギルドマスターを

チクチクネチネチと責める。



「あなたが

やっているんでしょ!」


それを見兼ねた

威勢のいい女冒険者が

勇者石動を非難した。


「テメエ!

兄貴になんてこと言いやがる、

殺すぞっ、ゴラァ!」


喧嘩っぱやいサブは

例え女であろうと容赦なく、

すぐにこれをぶちのめす。


「おいおい、ねえちゃん、

何言ってんだいっ、

証拠はあんのかいっ?」


この世界で証拠というのは

かなり難しい。


そもそもが魔法で

いろんなことが出来てしまう世界。


さらに勇者の

ドラゴンを使役する能力などに

確実な証拠などあろう筈もない。


何せドラゴン自身が

口を聞ける訳でもないのだから。


あくまで状況証拠しかなく、

本人が知らないと言い張れば

それ以上は力に訴えるしかない。


後は力尽くで

白状させるしかないのだが、

それこそは勇者の思う壺だろう。


もともと法整備などもロクにされていない、

無法者にとってはこの上なく相性抜群、

天国のような世界なのだ。


いずれにせよ、

最終的に力が物を言う世界で

彼等に目を付けられた時点で

既に詰んでいたと言える。



「いやぁ、このドラゴン、

ここが気に入ったみてえだし、

毎日来るかもしれねなぁ」


勇者石動の言葉通り

ドラゴン達は毎日ギルドを襲撃した。


もちろん勇者がやらせているので

当然ではあるのだが。


ギルド側もいろいろと

策を講じたが、

冒険者達に敵うレベルの

ドラゴンではなく、

次第にギルドを訪れる

冒険者もいなくなって行く。


さらには、

ギルド幹部達の自宅にまで

ドラゴンが出現する騒ぎが続出する。



毎日ドラゴンの襲撃を受けるギルド、

勇者はギルドに

毎日顔を出すことはせず、

訪れるのは数日に一度だけ。


ギルドの連中には、

怯えて恐怖を感じて貰うための

時間が必要なのだ。


不安や焦燥感、苛立ち

そうしたものが

獲物を追い詰めて行くということを

この勇者はよく知っている、

追い込みをかけるプロと言ってもいい。



「そろそろ、勇者の助けが

必要なんじゃあないか?」


初めは強気に

抵抗姿勢を見せていたギルドの者達も

ついには心折られ、

勇者の言いなりになるしかなかった。


当然、勇者の傘下に入ると契約した日から

ドラゴンは一切来なくなる。


どれ程、ルールをつくり

秩序を保とうとしたところで、

根本の土台が

力ある者がすべてを支配する世界、

最後は力が物を言う世界である以上、

こうなるのは致し方ない。


例えば、魔王が

この世界のすべての支配者になったとして、

その時ギルドが誰の物かと言われれば

それは魔王の物ということになるだろう。

ギルドだけ独立国、

もしくは中立国という訳にはいかない。


同じことを、今は勇者が

やって見せたに過ぎなかった。



その後、最終的には

この地域のギルドを手に入れ、

傘下に収めることに成功した勇者。


それは同時にこの地域の

すべての冒険者達を

手勢に引き入れたにも等しい、

機能していないとは言え

一応ギルドは冒険者の職業人組合であるのだから。


そして勇者はここを

勇者直営のギルドとして新装開店させる、

まるでこれまでのいざこざなどは

何事もなかったかのように。






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