上納金を求める勇者
人間世界での
マフィアの抗争も一旦休戦となったようで、
抗争で命を落としたマフィアの構成員達は
全員同じ異世界へと転移を済ませた。
異世界では
すぐに魔王軍側に付いた為、
敵対する
人間側に付くことになる。
異世界に転移したマフィア達は
法に縛られた人間社会から解放されたことを
嬉々として喜び、
今後の抗争に備えて
スキルや能力、魔法の修得に励み、
精進を重ねていた。
力が支配する世界に
武闘派集団を放り込んだら
当然の如くそうなる。
むしろ人間世界に居た頃より
真面目に熱心に努力をしているぐらいだ。
「やべぇな、掌から火が出るとか、
水とか雷もいけんのか? これ」
「馬鹿野郎、
肉体強化一択だろうがっ」
こういうのに限って
無駄に魔法適正が高かったりもする。
彼等を秩序か混沌かで分類するとしたら
誰もが間違いなく混沌を選ぶので、
魔の法である魔法適正が高くても
仕方ないということなのか。
そして、勇者として転移した
伊勢乃会の若頭として
この異世界でのし上がる為、
まずはこの世界での
基盤づくりをはじめるのであった。
-
石動不動には
二人の義兄弟がおり、
一人は転移の間で女神アリエーネに絡んだ
パンチパーマの男サブ、
もう一人は眼鏡を掛けた
インテリ極道風の男マサ。
他にも配下の者達は多勢いたが、
いつも行動を共にする側近は
サブとマサの二人で、
サブは行動力があり、
喧嘩は強いがお
一方のマサは
某有名国立大学出身の
変わった経歴を持つマフィアであり、
その明晰な頭脳を活かして
石動の番頭役を担っている。
-
武器・防具屋にやって来た三人は、
店内の武器や防具を見渡していた。
「おうっ、
石動のドスの効いた声に、
臆する店主。
「ポントウ?ですか」
店主もまた
強そうな体をしているのだが、
勇者石動の威圧感と迫力に気圧され
びびってしまっている。
異世界の住人でも
何かやばそうな人というのは分かるのか。
「馬鹿野郎! てめぇっ!
兄貴の得物は
決まってんの知らねえのかっ!」
また訳の分からない因縁を付けるサブ。
見た目のチンピラっぽさを裏切ることなく、
常に存分にチンピラ性能を発揮しており、
いつもなにかしら因縁をつけて行くスタイルだ。
マサはその間に日本刀の形状を店主に説明する。
「あぁっ、
サムライソードのことですか?
ちょっと待ってください、
確か在庫があったと思いますんで」
店主が奥から出して来た
サムライソードを検分する石動。
「まぁ、とても
いい刀とは言えねえが、
仕方がねえ、これを貰っていくぜっ」
おそるおそる店主は言う。
「あの、お代を……」
「勇者の就任祝いってことで、
いいだろっ、えっ?」
「えっ?あなた様は
勇者様なんですか?」
「おうっ、そういうことだな、
これからは俺が
ここのみんなを守ってやるよ……
ただ、まぁ、
タダって訳にはいかねえよなぁ」
そう、石動もただ武器を
ネコババしに来た訳ではない。
むしろここまでは前フリで
本題はここからということになる。
「これからは、勇者のこの俺が
お前等を守ってやるよ……
その代わり、お前等は全員
毎月俺に上納金を収めろ」
人々を守るのが
勇者の本分だとして、
その責任は果たす。
だがそれは有料であり、
そして毎月の前払い制度になっている、
簡単に言えばそういうことになる。
万一何かあった時のために
毎月上納金と言う保険料を支払い、
何事も無ければ
ただお金を払うだけになってしまうが、
何かが起こった時は
高いギャラを支払う事無く
助けて貰うことが出来る、
そういう仕組みであり
それだけならば保険や互助会の発想に近い。
今風に言えばサブスクリプションで、
剣客や用心棒を雇うようなものだ。
勇者としては画期的だが
みかじめ料やお花代と言った
慣習があるマフィアの世界では
よくある仕組みなのだろう。
そちらの方が利益も高く、
収益が安定している
マサはそう試算していたのだ。
「その代わり、
困った事や相談があったら何でも言って来な……
モンスター退治とか、魔王軍との戦争とか……
あと、客とトラブルったとか、
代金未払いの回収とか
そういうのの扱いも俺達は得意だからよ」
元々石動達は
任侠系のマフィアでもあり、
そんな負担になるような額を
要求することはしなかったのが、
唯一の救いか。
断り切れない店主を
半ば強引に契約させる勇者。
彼等はこの後、このエリア一帯を回り、
勇者の肩書きを利用して、半ば脅しを掛けながら、
全員に上納金を収めることを強制するのであった。
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