勇者ビー・フライ

「俺がっ!

俺が真の勇者だっ!」


悪魔と契約し、悪魔の力を身に付けて

真の勇者になりますペドロ、

今までは隠れるように教会の屋根の上に居たが、

今度はその姿が見えるように

堂々と立ちそう叫んだ。


その背中には羽が生えている。


それは白くて一見

天使の羽根のように見えるが、

ただ色が白いだけで

蝙蝠の羽根であった。


ペドロはその羽根で

教会の屋根から空を飛び

旋回しながら颯爽と地上に降り立った。


-


友を救う為、

悪魔と契約したペドロ。


自分の意志で

出し入れ自由の蝙蝠の羽根を

付けてもらったのはいいが、

蝙蝠の羽根というのはいかにも悪魔っぽい、

自分が成りすまし勇者であることが

バレるのではないかと懸念する。


「いやぁ、

さすがにこれはバレるだろ?」


「大丈夫だって、暗いんだから

色さえ白けりゃわかりゃしないよ」


空を飛べれば機動力が全然違うし

羽根があった方がいいのは間違いない、

そこは仕方ないかと諦めることにしたペドロ。



「そういや、

まだお前の名前

聞いてなかったな?」


これからペドロのパートナーとなる相手、

名前ぐらいは知っておかないと

いろいろ不便ではある。


「あぁ、そうだねぇ、

まぁ、サルバドルとでも

名乗っておこうかな」


「思いっきり、

今考えました感が半端ねぇな」


「まぁまぁ、いいじゃないか、

こっちにもいろいろ都合があるんだよ」


偽名で契約しても

契約は有効なのだろうか、

そんなことを考えなくもないペドロ。



「それより君さ、

そもそも泥棒なんだし、

本名で勇者名乗る訳には

いかないでしょ?」


「シーフな、

もしくは義賊と言え」


「どっちも大して変わらないよ」


「だから源氏名考えてあげたよ」


「源氏名? なんだよ、それ」


「君、勇者ビー・フライって名乗りなよ」


「どういう意味だそれ?

おかしな意味じゃないろうな?」


「君のように、

ハチの代役を務めるハエの名称さ、

君も勇者の代役を務める

シーフなんだからさ」


「へぇ」


『その名前、

絶対使わねぇな、多分』


悪魔サルバドルと

そんなおかしな会話の末、

ペドロは勇者ビー・フライとして

今魔王軍の前にその姿を見せた。


-


火炙りの燃え盛る炎を

魔法で自在に操り、

その炎を使って逆に

処刑を見守る魔王軍兵士を

攻撃する成りすまし勇者。


身体に火が着いて

逃げ惑う魔王軍兵士達。


「これで、

火炙りにされる奴の

気持ちが分かったろっ」


その隙に偽勇者は

柱に縛り付けられている友の拘束を解き救出、

それから二人で他の九名の者達を助け出す。



そこに駆け付ける

魔王軍兵士の増援部隊。


ペドロは広場に設置されている

勇者でなければ

引き抜けないとされている聖剣、

その紛い物をこれ見よがしに

まるで大々的にアピールするかの如く

引き抜いてみせた。


「俺がっ!

俺が真の勇者だっ!」


再びそう叫んだペドロは

増援部隊に向かって行き、

手に持つ剣で次々と兵士を切り倒して行く。


確かに悪魔サルバドルから

もらい受けた力は滅法強かった。


シーフであり、身体能力には

自身があったペドロだが、

そんなレベルではない

次元が違う強さだということが

本人にはハッキリ分かった。


『これは、本当に、

勇者に等しい力かもしれない』






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