悪魔の囁き

「君がね、

勇者になればいいんだよっ、君がねっ」


突然目の前に現れた悪魔の一言。


「なっ!」


ペドロはもちろん驚嘆する。


「そうすれば友人どころか、

この先勇者狩りにあうかもしれない人達を

みんな救えるんだぜ」


それはこれから

勇者に成りすまして生きろ

ということなのか。


「僕が、君に

勇者と同じぐらいの力を与えてあげるよ、

僕と契約してくれればね


こう見えても僕は

それなりに高位の天使だったんだぜ、元々は、

まぁ今は堕天しちゃったけどね


そんなんだから、

真の勇者よりは

ちょっと落ちるかもしれないけど、

それなりの力を君に与えることは

僕にだって出来るんだよ


その力で君が

勇者に成りすまして、

『俺が勇者だ』って叫んで

広場に出て行き、その力を使えば

君が真の勇者ってことになってさ、

お友達は助かるって訳さ


なんならそのまま

魔王も倒せるかもしれないよ?」


悪魔と契約して、

悪魔の力を借りて、

真の勇者に成りすます、

どんな悪い冗談だと

いつものペドロならば思っただろう。


だがこの最悪の状況の中では、

それは案外悪くない手のように

思えてならない。


これも悪魔の術中なのか。



「お前の目的は、一体何だ?」


こうした悪魔の囁きには

裏や悪巧みがあるというのは

この世界では常識とも言える。


「さっきもちょっと言ったけどね、

今の魔王が、魔王軍が

気に入らないのさ


出来れば今の魔王を倒して、

僕がその後に

着きたいと思っている、ぶっちゃけ


ほら、今の魔王を倒すってとこまでは

目的は同じだろっ?


せめてそこまでは手を取り合っても

いいんじゃあないかと思うんだけどね


君が今の魔王を倒した後で、

真の勇者が僕を倒せば、

人間からしたら

それでオッケーなんじゃない?」


この悪魔の言う事、

一応の筋は通っている。


魔王軍の内紛、内乱と言うのは

確かに珍しい話ではないだろう、

そもそもカオス属性の集まりなのだから

一枚岩という方が無理がある。


しかし他にも魂胆がありそうな気もする、

そもそもこんなに目的を

ペラペラと喋るものであろうか。


いろいろと疑心暗鬼になって

考えてみるペドロだが、

この飄々としている悪魔の真意を

今ここで問い詰めることが

出来る筈もないだろう。


-


「僕の知り合いにね、

本当にとんでもない勇者がいてね、

目的の為なら一切手段を選ばず、

どれだけ大量に人間が死のうが、

どれだけ世界を破壊しようが

本当に全くお構いなしでね、

随分と酷いもんだったよ


それに比べれば

君の方がよっぽど

勇者らしいというものさ、

正解かどうかは置いておいても

正しさを求めようとする君の方がね、

よっぽど勇者らしい、

僕はそう思うけどね」



悪魔の話を聞き、

思い悩んでいる内に

すっかり日が暮れて、

広場では火炙りが

今まさにはじめられようとしていた。


男達が縛り付けられている柱、

その根元にある焚き木に

魔法によって炎が燃え移る。


「おやっ、

もう火を着けちゃったね、

このままだと君の友達、

焼け焦げちゃうよっ?


さぁどうするんだい?」


もはや切羽詰ったこの状況、

断れる余地も無く

持ち掛けられる悪魔との取引き。


やはりこいつは間違いなく悪魔だ、

とペドロは思う。


「クソッ、この悪魔めっ」


「いやだなぁ、だから

今は堕天使と呼んでってば」






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る