義賊のペドロ

広場前の廃墟と化した教会、

その屋根の上に身を潜め

火炙りになる寸前の友を見つめている男、

その名をペドロ。


ペドロはシーフであり、

自ら義賊を名乗っている。


幼い頃から両親はおらず、

生きる為に仕方なく

盗む事を生業なりわいとして来たが、

貧しい人々からは盗まず、

貴族や金持ちからのみ盗む、

盗んだ金は生活に困窮している人達に分け与える、

それがペドロの流儀であり

自分なりに出来る正しい事をしていると

信じている義賊だった。



この広場で柱に縛られ

火炙りになるのを待つばかりの友

サンタナとは幼い頃からの盗人仲間で

兄弟も同然に育った仲、

いわゆる義兄弟と言う奴だ。


そのサンタナは数年前に

好きな女が出来たと言って、

盗人稼業から足を洗っている。


もちろんペドロも

それを止めるような野暮な真似はしなかったし、

兄弟が堅気になるのを

誰よりも喜び祝福してやった。


その後、サンタナは

その女と夫婦(めおと)になり

二人の子供をもうけて

今も幸せな生活を送っている筈だった、

魔王軍が勇者狩りなどをはじめなければ。



「クソッ、本物の勇者は

一体何をしてやがんだっ」


ペドロは魔王軍による

勇者狩りがはじまってから

ずっと思っていた、

本物の勇者は一体何処で

何をしているのか。


まさか真の勇者たる者が

怖気づいて、自分の代わりに

犠牲になっている人々を見殺しにして

逃げ回っている訳ではないだろう、

いやペドロはそうではないと思いたい。


ペドロにとっては

真の勇者は憧れでもあり、

出来れば自分も勇者になってみたかったと

そう思い続けていたのだ。


自分が義賊なんぞと言っているのも

正しき勇者に憧憬があったからこそ、

自分なりに信じる正義の道を求めた結果でもある。


だから何かしら出て来られない事情がある、

そうは思うがこの状況では

恨み言の一つも言いたくもなるというものだ。


-


そうこうしている内に

日は暮れはじめ、

日が沈み切るまでに

残された時間はわずかしかない。


「いやぁ、君、

何とかして友を助けたい、

そう考えているようだね」


ペドロが声に反応して

後ろを振り返ると、

そこには全身黒い衣装の男が立っていた。


一体いつからそこに居たのか、

全くその気配に気づかなかったペドロ、

背筋にゾクゾクする気配を感じる。


「あ、悪魔……」


その黒衣装の男は

頭に角を生やしていた。


「いやだなぁ、

堕天使と呼んでくれよ、

今の魔王軍と一緒にされるのは

僕も心外なんだよね」


優男やさおとこ風のいわゆるイケメンで

滲み出る色香を漂わせ、

いかにも人をたぶらかしそうな悪魔、

その喋り方は飄々ひょうひょうとしており掴みどころがない。


「じゃぁ僕が、とって置きの、

君の友達を助ける方法を

教えてあげるよ、特別に」


悪魔はニヤニヤ

薄ら笑いを浮かべながら、

ペドロを薄目で見つめる。


「君がね、

勇者になればいいんだよっ、君がねっ」






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