ビー・フライ、悪魔の力を借りて勇者に成りすます義賊
ウロノロムロ
勇者狩り
現代人間社会の農業で、
受粉を行うのに欠かせないのが
ミツバチであるらしいのだが、
このミツバチが最近
著しく不足しているとのこと。
農園や農場でイチゴなどを
栽培するには欠かせない
受粉用ミツバチ。
その代替として選ばれ利用されているのが
ビー・フライと呼ばれる
無菌ハエ。
もちろん通常のハエとは異なり、
無菌で衛生面にも配慮されている。
ビー・フライは
農業用花粉媒介昆虫として、
ミツバチの代わりに
農業の受粉作業を行い、
働いているという訳だ。
それでは
勇者不足の
勇者の代わりとなって
魔王軍と戦うのは一体誰なのであろうか。
-
ここは魔王軍に
全土をほぼ制圧された異世界。
人間だけではなく亜人や他の種族達もみな
魔王軍の顔色を窺いながら
日々の生活を怯えて暮らしている。
その魔王軍が、
神によって勇者がこの世界に遣わされ
転移して来ているという情報を掴んでから
もう数か月が経とうとしていた。
絶対的な存在として
この世界に君臨している魔王だが、
勇者の出現を恐れ、配下の者達に
人間の中から勇者を探し出し
殺すようにとの命令を下す。
どれだけ磐石な支配体制を敷こうとも
魔王にとって勇者は天敵であり宿敵。
勇者が降臨して
一点突破で魔王だけを狙い
暗殺でもしようものなら、
魔王軍は雪崩れのように瓦解し
一気にこの世界の形勢が逆転し兼ねない、
それが真の勇者が持つ力。
-
魔王の命を受けた魔族、魔物達は
人間達の中から勇者を探すべく
勇者狩りをはじめたのだった。
過去の経験則から
転移の勇者と成り得るのは
十代後半から二十代の男に限られる。
その年代に該当する人間達をすべて調べ上げ
疑わしければ処刑する、
それが勇者狩りの幕開け。
幼い頃からこの世界に住んでいた者達が、
転移して来た勇者である筈がないと人間達は主張したが、
勇者の転移した魂が憑依している可能性があるとして
魔王軍がこれを聞き入れることはなかった。
引き抜いた者が勇者とされる聖剣を
魔王軍は大地ごと移転し首都の広場に設置、
集められた該当年齢の男達は
その剣が引き抜けるかどうかを試される。
だがそれは真の聖剣ではなく
力ある者であれば誰でも
引き抜けるような紛い物に過ぎない。
引き抜いてしまった者達は
捕らえられ、牢に投獄された後、
まとめてその広場で火炙りとなり
公開処刑される。
これには、
勇者転移の報に淡い期待を寄せる
人間をはじめとする
魔王軍に抵抗する者達の心をへし折り、
反逆の火を消す為の策に他ならない。
-
街の広場で行われる
公開処刑の火炙りを
何度も見せられた人間達は
誰が勇者なのか疑心暗鬼となり、
互いが互いを監視し、
疑わしい者が居れば
魔王軍に密告する、
密告社会へと成り果てていた。
そう、自らが助かろうと思うならば、
誰かを勇者だと密告すればいい、
例えそれが間違いであったとしても
魔王軍は咎めることはしないし、
むしろ密告した者は
勇者ではないと認められる、
密告するような者が勇者である筈がない、
魔王軍はそう吹聴して回っていたのだ。
確かに自分が助かりたいが為に
他者を密告して魔王軍に売る、
そんな暗黒面に落ちた者が
勇者であるとは考え難い。
人々は自らが
勇者ではないことを証明する為に、
自分と関わりがない者達を
我先にと密告していく、
まるで地獄のような有様。
-
今晩火炙りの刑に
処される者達十名が、
街の広場に立てられた十本の柱に
それぞれ縛り付けられている。
今はまだ陽が明るいが
もうじき夕暮れとなる、
完全に日が沈み切ると
柱の下にある焚き木に火が着けられ
嫌疑を掛けられている者達は
火炙りにされてしまう。
広場の前に建っている
今は使われていない教会、
その屋根の上に隠れて
その様子を窺う一人の男。
彼の幼馴染みサンタナは
まさに今柱に括り付けられており、
日没と共に火炙りにされる運命にある。
『クソッ、
なんとかして、助けられないのかっ』
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