第48話 恐怖! 機動コロッサス
〜鈴代視点
米軍の特機『コロッサス』は東亜の零式やソ大連のT-1と同様に、2基の幽炉を使って運用する機体だ。
零式やT-1と決定的に違う点は、2基の幽炉を無理に同調させようとせずに違う役割を与えて独立させ、それぞれを2人の操者が扱う、という複座型の機体だと言う事だ。
具体的に言えば、1人が機体の機動制御、もう1人が火器管制を行い、それぞれの仕事に1基ずつの幽炉が割り当てられている形になる。
それにより各操者は各々の仕事に専念でき、尚且つ出力に余裕のある機体運用が可能になっているのだ。
その分、大型化した機体は機動性が損なわれるが、それを見越した様に大きな盾を装備し、また機体自体も厚い装甲を持ち、生存性を高めている。
しかも幽炉を開放すれば機動性は補強できるし、機動専用で戦闘面での消費も無いから一般の輝甲兵よりも幽炉は長持ち、或いは頻繁に幽炉開放できる。
火器担当の幽炉は、肩に持つビームキャノンが幽炉に直結されており、駆逐艦クラスの艦船なら1発で沈められる程の高い火力を持つ。
そして幽炉開放では、こちらの幽炉は火力と
零式やT-1の様な2基の幽炉を同調させる技術は、実は機体のテクノロジーレベルや整備の腕前よりも、操者の技量、或いはセンスや相性による部分が大きい。
現に我が軍の零式は、その開発から田中中尉が同調に成功させるまでの実に30年近く、誰も動かせずに研究所で塩漬けになっていたのだ。
そういった面倒な部分を敢えて捨てる事で、一般的な操者なら誰にでも扱える様に造られた輝甲兵が『コロッサス』なのだ。
例えばそう、『コロッサス』の操縦を香奈さん、射撃を渡辺中尉の2人で行っていたとしたら、田中中尉ですら霞む様な偉大な戦果が打ち立てられた可能性もある。
その機構特性上、幽炉の2段開放は不可能だが、個人的にはそれが欠点にならない程の完成度を誇る機体、だと私は思う。
嘘か本当かは分からないが、「米連は
そして、現在その『コロッサス』を駆る米軍のエースが、ガブリエル・ベイカーとアレックス・ベイカーという兄妹らしい。
名前以上の情報は知らないし、機動と火器管制をどちらが担当しているのかも知らないが、まぁそれは大した意味を持たない。
ただ、いかに機体が強力とは言え、凡百の操者が国際ランキングの2位に来る事はありえない。もし敵として遭遇する事になれば、零式の田中中尉に伍する相手が我々の前に立ち塞がると言う事を意味するのだ……。
現在私には米艦隊から出てきた120の輝甲兵全ての偏向フィルターを解除せよ、と言う命令が出ている。そして頭の痛い事に、この任務の活動はほぼ全て
「ねぇ、本当に120とか言う数のハッキングが出来るの…?」
私も弱気に、いや慎重にならざるを得ない。
《んー、とりあえず『アーカム』部隊の経験で分かったのは、偏向フィルターって技術士ごとにパスワードで管理しているっぽいんだよ。だからその120を1人の技術士が、1つの同じパスワードで管理整備していたなら、ハッキングは一瞬で終わる。逆にパスワードをいちいち個別にしていたり、複数の技術士が整備していたら…》
「それだけ時間がかかるってわけね。申し訳ないけど、私には『頑張って』としか言えないわ…」
虫が相手ならともかく、人間が相手では満足に戦えない。地上での第2中隊救出作戦の折に、その辺の踏ん切りは付いていたつもりではあったが、あの時はまだ偏向フィルターが生きており、機内の画面に映っていた敵の姿は『虫』だった。
しかし、今目の前の画面に映っているのは『虫』では無く米軍の輝甲兵。そして厄介な事に120機の米軍の目には私達は虫に見えており、こちらを殺す気マンマンなのだ。
私としても可能な限り戦闘は避けたいが、状況がそれを許してくれるかどうかは未知数だ。
相手を殺したくはないが、それ以上に自分が死にたくないし、部下を死なせたくもない。
『死ぬか殺すか?』私にその2択が突きつけられた時には、躊躇無く『殺す』決断を下さなければならないし、出来るはずだ。
そしてこちら側にも約1名、闘気をビンビンに
「田中中尉、1人で向こうの特機に突っ込まないで下さいよ?」
言葉は交わしていないが、田中中尉の考えている事は大体分かる。ランキング1位が2位に負けられない、とかの類に違いないだろう。
「…おい、いつからお前は俺の隊長になったんだ? 俺の心配よりも自分の心配してろ。今回の作戦はお前にかかってるんだぞ?」
と、意外に冷静な答えが返ってきた。一応私の、いや
「…まず一番面倒な『コロッサス』を止めろ。もし止められなかったら『
「…了解、そうならないよう最善を尽くします」
「…別にそこまで頑張らなくても良い。むしろ失敗してくれて構わないぞ?」
……っ?! なんと失礼な言い草だろう。何か言い返してやろうと口を開けた瞬間、
《そろそろハッキングを始めるぞ。漫才なら後でやってくれ》
と
何それ? いつもふざけている貴方が今そんなこと言うの? なんか納得いかない。私1人バカみたいじゃない……。
どうにもやり切れない切なさで、ちょっとだけ泣きそうになった。
「米艦隊、『アーカム』ら国境警備艦隊に向けて攻撃開始! 投降勧告を含むあらゆる通信の確認できず。依然当方との通話意思、見受けられません!」
「お前ら聞いたな? 全部隊、発砲を許可する。ただしやり過ぎるなよ。…特に田中な」
『すざく』のオペレーターと長谷川大尉から、順に通信が入る。続けて田中中尉から「…うるせぇよ」と言う
「
私の声に隊員たちの「了解!」が被る。小隊員の機体にはペイント弾を持たせない代わりに、甲-四種装備をさせている。これは田中中尉の発案らしい。
追加装甲もある者は腕だけ、ある者は胴体と左脚だけ、とかなりチグハグな取り付け方をしている。人数分の装備が無かった為の応急措置だが、一見「寝起きのまま飛び起きてきた」みたいなカオス感がコミカルでもあった。
「各員は待機。『敵』がアーカム部隊の戦線を突破してきたら、防戦マニュアルに従い応戦する事。あと
再び隊員たちの返事、そして隊列を離れて田中中尉の元へと飛んでいく
《奥のデカイのが動き出したぞ。さしずめモ○ルアーマーかサ○コガンダムってところか…》
「それが何だか知らないけど、アイツからハッキングしてみてちょうだい。多分『コロッサス』が止まれば米軍全体を止められるわ」
《そしたらもう少しだけ接近してもらえ…》
その瞬間、一迅の光条が煌めき、『アーカム』の輝甲兵部隊の中央を刺し貫いた。
『コロッサス』からの長距離ビーム砲だ。今の一撃で輝甲兵1機が完全消滅、3機の輝甲兵が手足を破壊され行動不能になった。
あともう十数度ビームの射角がズレていたら、うちの隊にも被害が出ていただろう。
物理的な損害としては4機だが、心理的なダメージは甚大だった。
私達『すざく』の部隊はまだしも、『アーカム』の部隊はかつての友軍であり、強大な力の象徴であった『コロッサス』によって、自分達が
恐らくはもうアーカム隊は戦力にはならないだろう……。
《…なぁ、今持ってる盾であのビームって防げるかな…?》
「…さぁね? 少なくとも試す気は無いわね」
まぁ十中八九無理だろう。幽炉を開放して斥力場を展開した上で盾を構えたのなら、なんとか一発を耐えられるかどうか? と言うレベルだと思われる。
混乱し、隊列を乱したアーカム隊の穴を通って私は
「…一番槍は俺だ。
そう言って米軍の中に突入する田中中尉、途中の米輝甲兵の顔をペイント弾で塗りつぶしながら、私達が進む『コロッサス』への道を
田中中尉に
本来ならまず『コロッサス』の壁となっている、手前側の輝甲兵部隊をハッキングしてから進んだ方が確実なのだが、ハッキング作業中に後方から狙撃されては敵わない。
なにせハッキング作業中は
幸いな事に米軍の前衛部隊は、突入していった田中中尉らに気を取られて、私の方はほぼ放置されている。
田中中尉の奮戦のおかげで、予想よりも簡単に『コロッサス』をハッキング圏内に収められて、一息ついたのも束の間……。
《…んあ? 鈴代ちゃん、こりゃダメだ! あのデカブツはフィルターが2つ付いていて同時に攻略出来ない。1つハッキングする間にもう1つに
あらら… まぁ何となくそんな気はしてたのよね。『コロッサス』に関してはまだ偶然の沙汰なのだろうが、こんな
「田中中尉、聞こえますか? 申し訳ありません。『コロッサス』へのハッキングは失敗に終わりました。自分は当初の予定通り米軍の一般機のハッキング作戦に切り替えます」
「…………りょ〜か〜い!」
田中中尉… ものすごく嬉しそうですね……。
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