第15話 混沌の目覚め:後編

「んで、ここは何処? あんた誰? なんであーし、こんな所で寝てたの? てゆーかこの穴なに? あと首と左腕痛ーい」


 アンジェラが開けた穴を覗き込みながら矢継ぎ早に質問してくるギャル。向こうからは俺の世界がどういう風に見えているのだろう?


「ねぇ、今あーしをナンパしたのってそこのおにーさんだよね? へぇー、パッと見マジメそーなのにナンパとかするんだねー」


 俺はまさかの展開に頭がまるで付いて来ていなかった。相手が起き上がってくる事も、話しかけてくる事も、『俺』そのものを認識して貰えた、と言う事も……。


 …これどうしたらいいんだ?


 アンジェラを窺うも、アンジェラ自身この事態が想定外なのか、困った顔をして固まってしまっている。


「ねぇねぇ、この穴なんなの? あーしひょっとして拉致監禁されてる系? 出して欲しいんですけど~?」


 奴はそう言って空間に開いた穴に腕を突っ込んできた。こちら側ではアンジェラの胸から女の左手首から先が生えている、ちょっとしたホラー展開になってしまっていた。


「あ、あうぅっ! い、痛い… あ、ダメ… 裂けちゃう、壊れちゃうっ!」


 聞き様によっては凄くエロい言葉を発して苦しむアンジェラ。初めてがフィストファックとかハード過ぎるにも程がある。

 おっと、そんな事を言っている場合ではない。助けなければ。


 俺はアンジェラから生えている手を押し戻そうとその手に触れる。手と手が触れた瞬間、触れた指先からお互いの情報が一度にやり取りされた。

 その出入りされた情報に触感があるかの様に、俺の情報は彼女の中を駆け巡り、彼女の情報は俺の中を駆け巡った。


 その感覚は一言で言うと『気持ち良い』だった… いきなりの性的快楽に似た接触に反射的に手を引っ込める俺。

 そしてそれは向こうも同様だった様だ。腕が引き抜かれた穴から彼女を見ると、俺と同じく未知の感覚にどう反応すべきか戸惑っているように見えた。


 ほんの一瞬の接触だったが彼女の概要は把握できた。恐らくは俺の情報の同程度は彼女にも伝わったはずだ。


 彼女の名前は角倉かどくら まどか 17歳。千葉県在住の高校2年生で、好きな事は『おしゃれ』と『食べ歩き』。

 間違いなく言えるのは『俺の中に対処マニュアルが存在しないタイプの人間』だという事だ。これどう接すれば良いんだろう…?


「ねぇ…」


 彼女がおずおずと穴の中の俺に語りかけてきた。


《お、おぅ…?》


 俺もリアクションに困り挙動不審になる。


「今何したの? 何かアンタの名前とか住所とか頭に入って来て… その、何かエロかったんだけど…?」


《あ、あぁ… 俺も何が起こったのかよく分からない。とりあえず言えるのは俺は君を襲うつもりは無いって事かな? それからこの穴は壊れ物だから手荒に扱わないで欲しいんだ》


 まずは紳士的に接してみよう。主婦だろうとギャルだろうとエースパイロットだろうと、これならまともに話くらいは聞いて貰えるだろう。


《改めて自己紹介するよ。俺は宮本陽一、ここじゃ71ナナヒトって呼ばれている。よろしくな。君は角倉円さんで良いんだよね?》


「え? うん… 『まどか』でいーよ。あーしも『よーいち』って呼ぶからさ」


 フレンドリーなのは良いけど、いきなり近いなこの娘は。お兄さん少し戸惑ってしまっているよ。


「あ、よーいちは元カレの名前だからやっぱりヤダな。んじゃねー… 『みゃーもと』って呼ぶ事にするよ!」


 お、おう。お兄さんかなり戸惑ってしまっているよ……。


《さて、どこから話したものか…? 君も夢で『ロボットに乗りませんか?』って勧誘された口なのかな?》


「…あー、何か思い出した。キラキラデコってるロボットでしょ? あれ可愛いかーいーよねー?」


 デコってって… そうか、ギャルにはそう見えるのか…。


《…んで、そこで変な契約をしたと思うんだけど…》


 俺は今の俺達の状況とその問題の知っている限りを彼女に説明した。

 俺は美少女の胸に空いた穴から、向こうは恐らくは虚空に不意に空いた穴からお互いを見つめ合い話をする2人の男女。我ながらシュールな光景だよなぁと思う。


 それでもこの深刻な状態に気がついてもらえたなら、と俺は懸命に説明を続けたのだが、彼女から返って来た返答は、


「えー? それじゃ渋谷行けないじゃん。みゃーもとウソついたのー? サイテー」


 ダメだ… この女も話が通じない系だった。


 そもそも俺が彼女まどかの面倒を見ている今の状況からしておかしいんだよな。高橋なり円盤頭のかなさんが、この場を引き取るのが筋と言う物ではないだろうか?


 俺のその視線を受け、俺の意図を悟ったのか頷くアンジェラ。


「一度接続を切ります、彼女にその旨を伝えて下さい」


 創造主よりもかなり気が利く女だぜ。


《あぁ、えっと、この状態だと通信料が爆上がりでヤバいんだ、一旦切らせてもらって良いかな?》


 通信料とか意味不明だが、いちいち説明するより向こうに感覚的に伝わる言葉の方が良いと思った。


「あー、うん、確かに何か金がヤバそーな通信だと思ってたよ」


 な?


「…でもあーしこれからどーなるの? …ねぇみゃーもと、また電話してくれる…?」


 急に独りにされると理解して、心細そうに上目遣いでこちらを見ながら懇願してくるまどか、ちょっとアザといぞ? でもそういうのも嫌いじゃないからな。


《あ、あぁ、また後で…》


 と答えてしまった。選択肢間違ったかなぁ…?


 接続が切れ、空いた穴も塞がってほっと胸をなでおろすアンジェラ、俺も疲労感が半端無い。それもそのはず、俺の幽炉残量91%に減ってるやん! おいどうなってんだよ高橋?!


 高橋は操縦席に腰掛けたまま固まっていた。俺とまどかのやり取りは例によって数秒で行われたはずだから、人間の時間感覚ではようやくまどかが覚醒したのが認識出来てきた頃なのだろう。


「おい姉さん! こっちの幽炉がいきなり2%も回復したぞ! どうなったんだ?!」


 かなさんから通信が入る。…理解したぜ。ちゃっかり俺から2%吸い出していきやがったんだ、あの女……。


「やっっったよ!!! 遂に人工的な話す人トーカーの覚醒に成功した上に幽炉の回復も成功したよ!!!」


 急に大声を上げる高橋、幽炉の回復には成功してないからね? 俺のが移っただけだからね?


71ナナヒトくん! アンジェラちゃん! これがどれほど凄い事か分かるかい? これは車輪の発明、いや数字の発明に並ぶ人類の偉業なんだよ!!」


 わかんねーよ、こちとら慣れないギャルの相手させられて、ただでさえ残り少ない命を更に毟り取られただけだっつーの。


 高橋はそう言いながらも俺とアンジェラの存在を忘れたかの様に、端末を操作してブツブツ独り言を言っている。

 一言文句を言ってやろうとする俺をアンジェラが静かに抑える。穏やかな笑顔で『邪魔をしてやるな』と、そっと首を降る様は、デフォルメされた体型でありながら確かに聖女の風格を持っていた。


 しばらくカタカタやってた高橋だが、徐々に動きが鈍くなり、やがて止まってしまった。眉間にもの凄い皺が寄っている、なにやら異常事態らしい。


「…ねぇ、香奈ちゃん、ちょっと個別通信に切り替えてくれる…?」


 外部には聞かれたくない話らしい。数秒後、


「切り替えたよ姉さん、何かあったのか?」


「…えーっとね、そっちの幽炉の子の目が覚めたんだよ…」


 高橋の話の途中で「マジか?!」と、かなさんの声が割り込む。


「…うん、それでね、その子『まどかちゃん』っていう名前の女の子らしいんだけど、ちょっと香奈ちゃんの方から声掛けしてみてもらえるかな? 通信そのままで」


「おっけー! な、なぁ、まどかって言うのか? 聞こえるかい? あたしは仲村渠香奈、24フタヨン式丙型の操者だよ。よろしくな!」


 …………。


「…返事無いけど…?」

 大きな期待を裏切られて、その分大きく落胆したかなさんの声が響く。


《どうかしたのか?》


 この隙に俺も会話に参加する。


「…うん、どうやらまどかちゃんは目覚めたは良いけど、ボクらの声が届いてないみたいなんだよね。何の反応も無くなっちゃった…」


《原因は分からないのか? 意識探査のレベルを弄くってもダメなのか?》


 高橋は「うーん」と首をひねってしばし考える。


「やっぱりそれしか無いのかなぁ? 女の子相手にやりたくないんだけどなぁ…」


《何だよそれ? 男女差別なのか? 俺には散々恥ずかしくなる真似しといて似非フェミなのか?》


「いやいや違うよ。女の方がドス黒い事を考えているから、あまり見たくないなぁってだけの話だよ」


 お、おう… そう言われると怖くなるな。


「…姉さん? あたしはどうしたら良いかな? 誰と話してるの? そっちに鈴代か隊長かいるのか?」


 アワワワ、ヤバい。俺と話してるのがバレたら騒ぎになっちまう。


「あははは、ゴメン独り言だよ。もう少し待ってて貰えるかな?」


 高橋がフォローする。そして高橋は口を噤みキーボード入力で俺と『筆談』を始めた。


「そのやり方をする為にも、もう一度引っ張りだす必要があるんだよ。もう一回呼び出してもらえるかな?」


 俺は傍らで待機していたアンジェラを見る。アンジェラは使命感を滾らせて強く頷いた。この娘が一番苦しい思いをしているのが分かっている分、見ていて辛い。


 アンジェラが目を閉じ、胸に手を当て、何かに祈る様に身を屈める。やがて背筋を伸ばして手を下に下ろすと、先程と同じ様にアンジェラの胸に螺旋形に穴が開く。その向こうにオレンジに染まった『まどかの世界』が見える。


《えーと、まどかさん? 居るかな…?》


 こっそりと穴の向こうを窺う、見える範囲にまどかは居ない。


「みゃーもと!」


 大声と同時にまどかが下からぬっと現れ大アップになる。たじろいで後退あとずさりする俺。何だ? 穴の下でスタンバってたのか?!


「ここ死ぬ程退屈だよー? 原っぱだけで何にも無いし、どこまで行っても原っぱだし… 寝てた方が良かったよ…」


 口を尖らせてしょげるまどか。確かにこの状況で放置されたら精神に良くないだろう事は安易に想像出来る。


「ねぇ、あーしもそっちに行きたい。この穴は何なの? 通れないの?」


 まどかはそう言ってまた穴に手を掛ける。アンジェラの顔が一瞬痛みに歪んだ。


《待て待て、落ち着いてくれまどか。俺の世界もお前のと大して変わらないんだ。それよりも外から君に呼び掛ける声が聞こえないか?》


 まどかは穴から視線を逸し彼方を見やる。


「女の声がしてるのは聞こえた。でも何かヤダ」


《…え? それはまた何故だい?》


「あーし、知らない女って嫌い」


 …………。


《お前ふざけんなよ! こっちがどんだけ苦労してこの状況を作ってると思ってんだよ?!》


「そんなの知らないよ! あとみゃーもと怖い…」


《…あぁ、スマンスマン。とにかくその原っぱから出たかったら協力してくれ。声のした方に何か見えるか?》


「えー? なんも無いよー?」


 無いのかよ。どうすれば良いんだよ? これは俺が考えて分かる事じゃない。それだけは分かった。


《んー、ちょっと待っててくれ。また出直すわ》


 作戦会議が必要ですよ。


《なぁ高橋、あいつ出ようにも出口が無いって言ってるぜ?》


 俺の言葉に高橋はしばし思考する。


「うーん、何か幽炉の心から輝甲兵の体に意識を引っ張るアイデアは無いかな?」


 何で俺に振るんだよ? 高橋そっちは専門家なんじゃないのかよ?


 体に意識を引き寄せるのは、単純に言えば寝ている奴を起こすような物だ。それなら話は簡単だ。『引っぱたいてやればいい』

 かと言って実際にぶん殴るわけにもいかない。事実、鈴代ちゃんはアレを蹴っ飛ばして壊してしまい、絶賛罰ゲーム中なのだ。


《そんなこと言われても、ぶん殴るか、あとは『幽炉開放』くらいしか思いつかないよ…》


 だがしかし、格納庫で幽炉開放したら大騒ぎになるのは、昨日の俺で実証済みだから簡単に出来るわけ無いだろうが……。


「幽炉開放か。やっぱりそれしかないよね…」


 高橋が何かを観念したかの様に呟いた。自分でもその答えに至っていたのに口に出さなかったのは、本意ではない為に俺に後押しして欲しかったのだろう。


「香奈ちゃん、ボクから言うのも心苦しいんだけど、ほんの2、3秒でいいから幽炉を開放してもらえるかな? 3071サンマルナナヒトに触れたままでね」


「ん? 分かった。姉さんに従うよ」


 そうか、幽炉を開放すると中の人間の命が削れる。幽炉の中の人の精神を救いたい高橋からしたら、開放は出来ればしたくない選択なんだな。


71ナナヒトくんも『まどかちゃん』の様子を見ていて」


 みたびアンジェラが空間をまどかの世界と繋ぐ。不安げにこちらを窺うまどかが見える。


「仲村渠だよ。ちょっと幽炉使うから整備員は離れてて!」


 円盤頭の外部スピーカーからかなさんの声が鳴る。オイオイマジでやるのかよ? これ何かあったら発案者の俺が、ひいては鈴代ちゃんが責任取らされる、なんて事無いよな…?


 円盤頭の幽炉が開放され、外装の煌めきが強くなる。それと同時に穴の向こうのまどかが、見えない何かに連れ去られる様に掻き消えた。


 そして静寂……。


《…え? ここ何処…? ねぇ、みゃーもと居るぅ? どこぉ…?》


 まどかの心細そうな声が俺の左肩から聞こえた。そこは円盤頭の右手が置かれている。接触による個別通信でまどかの声がしている、という事なのか…?


《あぁ、俺はすぐ横に居るぞ。お前の右手に居るイケメンなロボが俺だ!》


 俺の肩に触れる奴の指がピクリと反応した様な気がした。


《え? 本当にみゃーもとなの? ドッキリとかじゃなくて…?》


《あぁ、正真正銘そのロボが俺だ》


 なんか良い雰囲気じゃね? 見てくれと口調は『アレ』でもまどかも若い女の子、きっと根は素直な良い子だと思うん…。


《えー、マジでロボとかキモくない?》


 俺やっぱりこの女も嫌いだわ……。


《言っておくが今はお前もロボなんだからな! しかも俺より不細工な円盤頭してんだからな!》


《………》


 答えに詰まるまどか、ちょっと強く言い過ぎたかな? 軍人の鈴代ちゃんや変態の高橋と違って、この娘は一般人だから加減する必要がある……。


《えー? ヤダぁ…》


 こいつっ。


《ヤダぁ、じゃねーんだよ。さっき説明しただろ?!》


《みゃーもと怖いよ…》


 ああああぁもうっ! 話が進まねぇ!


《アンジェラ、パスっ! あと任せたっ!》


 ぶん投げた。


「えぇっ?! は、はいっ!」


 アンジェラの姿が俺の前から消える、きっと向こうの機体に移動したのだろう。


「初めまして角倉円さん。私はKRR-T37564、対輝甲兵搭載型幽炉用メンタルケア人工知能の ANGELA アンジェラと申します。今日は貴方の為に頑張りますね」


 アンジェラが定型文の挨拶をしているのが聞こえる。


《えー? 何か意味分かんないから要らなーい》


 2秒で切り捨てるまどか。


 アンジェラが無言の帰還を果たす。目にいっぱい涙を貯めて。


71ナナヒトさぁん。聞いて下さい、酷いんですよあの人…」


 カオス過ぎるだろ、もうどうすれば良いんだよ、この状況?! あとアンジェラはメンタル弱すぎ!!


「な、なぁ、そっちに居るのは誰なんだ? 男の声だし長谷川隊長でも無いし…」


 あー、ほら『かなさん』に俺の事がバレちゃったよこれ? 高橋のせいだよ、どーすんの?


「姉さん、何がどうなってるのか説明してくんない…?」


 今まで無言でまどかと俺のログを読み込んでいた高橋が顔を上げる。何かを奥歯に物が挟まった様な顔をしている。


「あー… うん! とりあえず香奈ちゃんは降りていいや。あとはボクが引き受けるよ!」


「えぇっ?! そりゃ無いよ?! あたしだってここまで付き合ったんだから最後まで付き合う権利があるよ! …なぁ、お前が『まどか』なんだろ? あたしはお前とずっとこうやって話しがしたかったんだよ!」


 高橋は苛立たしそうに頭をボリボリと掻いている。彼女にとっても良くない方向に進んでいるのが見て取れる。


《はぁ… おねーさん誰? 知らない人と話しちゃいけないって親に言われてるんで…》


「あぁ、んじゃあ改めて、あたしは仲村渠香奈。…んー、なんつーかお前のパイロットだよ。あたしらコンビは今までもずっと一緒に戦ってきたんだぞ? 覚えてないのか?」


《はぁ… ねぇ、みゃーもと、この人の言ってる事は本当なの?》


 俺に話を振るなよ! 俺がかなさんと話さなきゃいけなくなるだろ?!


「なぁその『みゃーもと』って何者なんだ? ひょっとして鈴代の3071サンマルナナヒトなのか? お前も意識があって喋れるの?」


 高橋の端末に俺の送った『どうすんだよ?』の文字が現れる。ここは大きな選択肢だぞ?


 数秒の沈黙。


「高橋は考えるのをやめた!」


 マジかよ、やめんなよ、もう少し頑張れよ。お前この場の責任者だろ?!

 あー、もうなるようになれ! だ。


《…あー、ども、初めまして。3071サンマルナナヒトの『中の人』こと宮本と言います。俺も昨日からここに世話になってて、香奈さんの事は鈴代ちゃんからよく聞いてますから、自己紹介は省いていいですよ》


「マジかよ?! 何か昨日から鈴代の様子がおかしいと思ってたらそういう事だったのか。なぁこれ姉さんも知ってたのか?」


「…うん、ボクも偶々この71ナナヒトくんに意識があるのを知ってね。それで色々動いていたんだよ。これはちゃんとした研究成果が出るまでは最小限に秘密扱いにしたかったんだけど… まぁこれで香奈ちゃんも当事者だから、晴れて共犯者になったって事だね」


 またも数秒の沈黙。


「なんか… なんかすげー! あたし今スッゲー感動してるよ! 今この場に居られるのがスッゲー嬉しい!」


 苛立ちから諦めの境地に移った高橋が今度は右頬をポリポリと掻く。


「これは一度、長谷川隊長さんや鈴代ちゃんも交えて皆で今後の事を話し合った方が良さそうだねぇ…」


「なぁ、そしたらあたしちょっと飛んでくるわ! どうせ今、隊長は会議だし鈴代は罰ゲームだし」


 香奈さん。鈴代ちゃんの手伝いしてたのと違うのか? もうそれどころじゃねーか。


《ねぇみゃーもと… あーしどうすれば良いの?》


 まどかの心細そうな質問に答えたのは俺ではなくて香奈さんだった。


「まずは飛ぼうぜまどか! これが香奈さん流の新歓パーティだよ!」


 円盤頭は俺から手を離し、格納庫の奥の方を向き、


「武藤中尉ーっ! 仲村渠、修理明けの慣熟飛行に出てきます! 隊長に言っといてー!」


 と外部スピーカーから大音量が鳴り響かせてから、格納庫から飛び出す。


 通常の天井に設けられた発着用のシャッターでは無くて、大きく開かれた格納庫の出入り口へと横方向に飛んで。

 他の機材やら他の輝甲兵やらが雑多に並んでいる中を、器用に水中を泳ぐ魚の様にすり抜けながら、それは嬉しそうに飛び出して行った。


 …おいこれどうすんだ? 鈴代ちゃんが知ったら間違いなく激怒しそうな展開なんだが、俺は悪くないよな…?

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