第16話 有識者会議(?)

~鈴代視点


 香奈さんから押し付けられた物を合わせ、2本のモップを背負いながら、今井少尉の機体を清掃するべく、その元へ向かう。

 しかし、武藤中尉に初戦敗退してからすぐに格納庫に戻っていた今井少尉は、既に自身の機体の清掃作業を終えていた。


「鈴代がやってくれるって分かってたら仕事を残しておいて上げたのになぁ。お前が回し蹴りを決めた辺りではもう7割終わってたんだよなぁ。いやぁ残念だよぉ」


 その残りの3割をそのまま残しておく事も出来たのに、私に気を遣って全て自分でやってくれたんだろう。うちの隊は優しい人が揃っているよね……。


「まぁせっかくだから機材の後片付けだけ頼んでいいか?」

 そう言って掃除道具を私に押し付ける今井少尉。うん、まぁイイですけどね。


 さすがに3人分の道具を持ち歩くのはキツイので、余剰の道具を仕舞いに行く。

 誰に聞いたのか71ナナヒトから改装についての質問が来ていたので書面で可愛く返しておいた。


 用具室を出て、誰も居ない隣の休憩コーナーを通りかかった所で不意に「鈴代さん」と声をかけられた。

 誰も居ないと思って油断していた私は、思わず「キャッ!」と声を上げてしまう。


 驚いて声の主を確認する。私とそう変わらない身長の気弱そうな男性、矢島少尉だった。

 恐らく私が誰も居ないと思い込んでいただけで、矢島少尉は最初からそこに居たのだろう。この気配の読めない所が矢島少尉の強みだ。


「あぁ、驚かせてごめんなさい。そんなつもりじゃ…」


「いえ、私も大袈裟に驚いてしまってすみません…」


 2人して恐縮する。それにしてもなんだか昨日から不意を突かれて叫んでばかりな気がする。軍人として弛んでるのかなぁ?


「いえ、あの、僕の機体の掃除は自分でやりますから気にしないで下さい、って言いたくて…」


 申し訳なさそうに告げる矢島少尉。


「でも私が命じられた仕事ですから、そういう訳にも…」


「構いませんよ。どうせ隊長の思いつきの罰ゲームで、正式な命令じゃないんでしょ? それにさっきまで仲村渠少尉も一緒にやってたの見てましたよ」


 そこから見られてたのか。全然気が付かなかった。


「ええまぁ、それはそうなんですけど…」


「貴女はあの仲村渠少尉に勝った。それは紛れもない事実です。僕は格納庫ここの中継モニターで貴女達の試合を見て感動したんですよ? そんな勇者に掃除しろなんて恐れ多くてとてもとても…」


 微笑みながら冗談めかして言う矢島少尉。


「いえ、こちらこそお粗末な結果になってしまって、申し訳ないと言うか何と言うか…」


「お粗末な試合は僕の方ですよ。次の試合の時は僕も正々堂々と戦える様に頑張りますよ。お手合わせする機会があったらよろしくです」


 矢島少尉は爽やかに言うが、貴方の持ち味はその隠密性なので、それを殺す戦法は取るべきでは無いと思います。

 …って危うく口に出す所だった。私だってロボットじゃないのだから、それくらいの気遣いは出来る。


「ご苦労様です、他の機体の掃除を頑張って下さいね」


 と矢島少尉は差し入れに、と横の自販機からオレンジジュースを奢って送り出してくれた。


 さて、そうなると残りの掃除すべき機体は香奈さんの丙型だけだ。尤も右手の先を少し汚しただけなので、作業自体はすぐに終わるだろう。


 香奈さんの事だから「こんくらい別に良いよ!」と放置しようとするかも知れない。でも私がイヤなのだ。なぜなら『丙型は常に美しく在るべき』だと思っているから。

 香奈さんは今まで虫の攻撃を受けた事が無い。彼女の丙型が無傷で戦場の中心にいる事、それにこそ意味がある。


 丙型の集める情報と共に、彼女の駆る機体の存在そのものが、錦の御旗の様に私達に勇気を与えてくれるのだ。その丙型が汚れてちゃダメでしょ?


 という訳で丙型の駐機場所に来てみると丙型が居ない。何故か少し離れた私の3071サンマルナナヒトの横に立っている様だ。


 何やってんのかしら…?


 嫌な予感に突き動かされる様に71ナナヒトに向けて歩を早める。その時、


「武藤中尉ーっ! 仲村渠、修理明けの慣熟飛行に出てきます! 隊長に言っといてー!」


 香奈さんの大きな声が格納庫中に響く。そう言うが早いか丙型は格納庫の中をスイスイとすり抜けて外へ出て行った。


 あの香奈さんの事だ。慣熟飛行なんてしなくても普通に扱えるだろう。

 逆に初めての損傷でそれだけ丙型を心配している、という考え方も出来る。


 そんな事より71ナナヒトと一緒にいた事の方が気になる。私が居ないのに意味も無く香奈さんが輝甲兵ごとわざわざ71ナナヒトの場所まで行く理由が無い。


 先程高橋大尉が『丙型の幽炉を目覚めさせる為に71ナナヒトの力を借りたい』と言ってきた。『詳しい事はその時に話す』とも。


 嫌な予感が止まらない。


 高橋大尉の姿が見えないが、きっとまた71ナナヒトのコクピットに入り込んで、悪さをしているのだろう。

 これ多分、いや絶対『その時』来ちゃった後でしょ? 私、詳しい事を何にも聞いてないんですけど?!


 階段を駆け上がり搭乗口の前に立つ。モップを薙刀の如く構えて、恐らくは愛想笑いをしながら出てくるであろう高橋大尉を待ち受ける。


 腹部の搭乗口から蒸気が吹き出し開く。案の定高橋大尉が乗り込んでいた。


「や、やぁ、鈴代ちゃん、元気?」


「おかげさまで元気ですよぉ? 暴れ足りないくらいです」


 通信機が鳴る。71ナナヒトからだ。《落ち着け。まずは話し合おう》だそうだ。

 馬鹿め、こちらが何かを言う前に、その態度から既に共謀して何かをやらかした事が判明しましたよ?


「2人とも、私に無断で何をしたんですか? 大体の察しはついてますけど、その口で説明して下さい」


 2人からの説明を受け、香奈さんの丙型の幽炉の覚醒に成功した事を聞いた。それはそれで喜ばしい事なのかも知れないが、その過程で71ナナヒトの存在が香奈さんにバレてしまったそうだ。


 成り行き上仕方のない事だろうが、せめて長谷川大尉のゴーサインを確認してからにして欲しかった。

 たとえ高橋大尉が鴻上司令の許可のもと、基地内をフリーパスで活動出来るようになっていたとしても、だ。


 今の状況は高橋大尉も71ナナヒトにも想定外だったようで、2人とも口を揃えて《「どうしよう?」》と聞いてくる。


 私に分かるわけが無い。


 とにかく香奈さんの帰りを待って我々と長谷川大尉で今後どうするか? を話し合う必要がある、という点で全員の意見が一致した。



「鈴代ーっ! 聞いてくれよ、うちの『まどか』ったら可愛くてさぁ!」


 10分ほどして帰ってきた香奈さんが、いきなり私に抱きついてきた。

 その顔は『小学校のテストで初めて100点を取って親に自慢している子供』の様に誇らしげで華やかだった。彼女のフンスという鼻息が視覚化されているようだ。


「幽炉の覚醒に成功したそうですね、おめでとうございます。私も素直で可愛い女の子の幽炉が欲しかったです…」


 言いながら自分で目が死んでいくのが分かる。うちの71ナナヒトなんて……。


「なんか暗いぞ鈴代? あ、ひょっとして掃除押し付けて出て行っちゃった事を怒ってる? ゴメン! あたし一度夢中になると周りが見えなくなっちゃってさ…」


 そう言って表情を翳らせる香奈さん。


「…いえ、香奈さんは元々義理で手伝っていてくれただけなので居なくなっても怒りはしませんよ? 武藤中尉と仲直り出来たのも香奈さんが居てくれたからだし…」


「ホントか? ホントに怒ってない?」


「怒ってますけど香奈さんにじゃなくて、あっちの2人組にですかね?」


 私は71ナナヒトとその足元に立つ高橋大尉を親指で指差す。


「うーん、でもあの2人が居てくれたから『まどか』が目覚める事が出来たんだよ。あたしに免じて2人も許してやってくれないか?」


 私に手を合わせて懇願する香奈さん。もう、しょうがないなぁ。

「分かりました。とりあえず今後の事をどうするか、長谷川大尉も交えて皆で話しあいましょう。丙型の『まどかさん?』には、昨日の71ナナヒトの時みたいに勝手に機体や幽炉を動かさない様に言い聞かせておいて下さい。またパニックになります」


「お、おう。んじゃちょっと言ってくるよ」


 香奈さんが踵を返して丙型に向かう。


「あと私と71ナナヒトとの経験から幾つか助言出来る事もあります。その辺はまた後ほど」


「おう、助かるよ先輩。でも鈴代はアイツの事、71ナナヒトって呼んでるんだな」


「ええ、それが何か?」


「まどかは『みゃーもと』なんてアダ名みたいな呼び方してたから、性格が出るんだなぁって思ってさ」


 まどかさんってついさっき覚醒したばかりなんじゃないの? 男性相手に随分近しい立ち位置を取れる子なのね。どんな子なのか少し気になってきた……。


 ☆


「それでは何とも異色な面子だが、作戦会議を始めようか」


 長谷川大尉の仕切りから作戦会議という名の秘密会合が始まった。この会議は記録には残らない、完全な悪巧みの類いだ。


 会議室に集められたのは長谷川大尉、高橋大尉、香奈さん、私、そして71ナナヒトと通話状態の私の通信端末。

 壁面のモニターに私の端末の画面が映っている。71ナナヒトから返信があればダイレクトに場の全員が閲覧できる形だ。


 そして機体が接触状態であれば、丙型の『まどかさん』と71ナナヒトはお互いに会話ができるそうなので、『まどかさん』からの意見があれば71ナナヒトが中継してくれる予定になっている。


「まず丙型の『まどか』という人物について俺は何も聞かされていない。まずはその件について詳しく聞こうか?」


 高橋大尉が立ち上がり長谷川大尉に答える。


「…仲村渠少尉の丙型の幽炉が一個の魂から構成される純粋な一人ピュアワンだった事が判明したので、『もしかしたら3071サンマルナナヒトの様に覚醒する可能性がある』と思い覚醒実験を敢行。実験は無事成功し中の人格『角倉円』が覚醒しました」


 長谷川大尉が頷き続きを促す。


「今まで不可能だと思われていた輝甲兵の幽炉の回復が実現した事、それに伴って人格が覚醒した幽炉が出現した事、これは軍や縞原重工と言う小さなスケールの話ではなくて全世界的に前例の無い快挙であります。そして今回現れた人格を備えた輝甲兵達を、独立した一個の人格として遇するべきだとも考えます」

 何かのプレゼンテーションでもしているかの様にスラスラと言葉を紡ぐ高橋大尉、こういう場に慣れていそうな人ではある。


「内々の会議だ。鯱矛張った言い方はしなくて良い。ざっくり言うと頭痛の種が1つから2つになった訳だ」


 俯いて指で目頭を揉み出す長谷川大尉、朝と見比べて5歳くらい老け込んでいる様に見える。


「まずはこの『幽炉の中の人格』という存在を公表すべきかどうかを考えたい。とりあえずだが…」


 長谷川大尉から呈示されたのは、

 A案 ここにいるメンバーだけに留める

 B案 基地司令の鴻上大佐に報告し後の指示を仰ぐ

 C案 全世界に公表し縞原重工の非業を晒す

 D案 秘密としたまま3071サンマルナナヒト24フタヨン式丙型の幽炉を取り外し他の幽炉を装着、『71ナナヒト』と『まどか』を縞原重工の研究室に送る。

 の4つだった。それぞれにメリットデメリットが存在する為に即断は難しい。


 A案は秘密は保持できるが、現状以上には事態は好転しない。それに万が一どこかに秘密が漏洩して問題とされた場合、我々はそれを私情から越権行為で隠匿した犯罪者として裁かれる可能性がある。


 B案は責任の一切を鴻上大佐に押し付ける事が出来るが、指揮権が移譲する為に、我々の意に沿わない命令を下される可能性がある。

 しかも鴻上大佐が幽炉の人格をどう捉えるかが不透明で、大佐が否定的な感情を示した場合、機体を破棄されたり我々が精神病院送りにされる事もありうる。


 C案はヒューマニズム的には効果があるが、それにより幽炉が生産中止に追い込まれる可能性が高い。幽炉でしか動かせない輝甲兵もまた然りだ。

 輝甲兵が無ければ虫とは戦えない。正義の心は大切だが、命を捨ててまで行う事ではないと思う。


 D案も一見良さそうで難しい。メーカー返却前の幽炉(残量10%以上)は個性と言うかくせの様な物があり、装着された機体は時間をかけてその幽炉に体を馴染ませる。

 その癖が残っているうちに幽炉を取り外した場合、他の幽炉を装着しても機体が新しい幽炉を拒否してスペクトナイトが反応しないのだ。


 しかも幽炉の扱いは縞原重工の技術士にしか行えないし、操者側からの希望はその理由を根掘り葉掘り詮索される。

 幽炉の個性を機体から抜くのに3日、新たな幽炉に馴染ませるのに3日掛かると聞いた事がある。都合1週間近く輝甲兵が使えなくなる訳だ。


 ちなみに残量10%以下からの交換は、既に癖が抜けていて、新幽炉を馴染ませる時間が半日あれば事足りる。


 更に研究室に送られた所で、そこでの生活が彼らに喜ばしい物かどうかは疑わしい。昨日71ナナヒトが危惧していた様に、実験動物扱いを延々受け続ける可能性も有るのだ。


 C案は除外するとして、他の3案を各々が無言で吟味する。


「ボクから意見言わせてもらって良いかな?」


 高橋大尉が軽く手を上げる。


「ボクとしてはB案に1票。大佐にはボクから説明するから味方になってもらおうよ。このままじゃ長谷川さんか鈴代ちゃんが腹を切らされる羽目になるかもよ?」


 確かに責任を基地司令に投げてしまえば、少なくとも長谷川大尉の頭痛の種は減るだろう。


「高橋大尉、貴女は今『大佐に説明する』と言われたが、何をどう説明するつもりなのだ? 幽炉の回復をネタに話を持って行こうとしているのかも知れないが、幽炉の回復が叶ったと言っても1%や2%では作戦上は誤差にしかならない」


 長谷川大尉の冷静な声に言葉を詰める高橋大尉。


「それに失礼を承知で言わせてもらうが、現在貴女の行動がほぼフリーパスなのは、功績が認められたからではなく『小娘に好き勝手やらせても影響無いだろう』と侮られているからに過ぎない」


 高橋大尉は何かを言い返そうとするも、すぐに俯いて不満気に口を尖らせ押し黙る。


「仲村渠、お前はどうだ? 意見はあるか?」


 話を振られてしばし考え込んでいた香奈さんだったが、眉をしかめ数秒後『ハァ~』と大きく息を吐き出した。


「あたしはバカだから考えても分かんないよ。でもまどかや71ナナヒトは別の世界から無理矢理連れて来られた人達なんだろ? 帰してやれるなら帰すべきだと思う。まどかが帰りたいって言うならすぐにでも帰らせてあげたいし、もしまどかがここに居たいって言うならあたしが最後まで面倒見るよ」


 香奈さんの言葉に長谷川大尉は特にコメントせず、「71ナナヒトくん、君はどう思う?」と71ナナヒトに話題を振る。


《俺は…》


 壁面モニターに文字が打ち出される。


《俺は戦いたい。罪もない人達が宇宙怪獣に襲われていて、自分に助ける力があるのなら助けてやりたい》


 普段ふざけた言動ばかりなのでとても意外に感じるが、これが71ナナヒトの本心なのだろうか?


《だから変に事を大きくするより鈴代ちゃ、…少尉の仕事のサポートに徹したいと考えている》


 それならそうともっと早く言ってくれれば、余計な喧嘩もせずに済んでいるのに、と思わなくもない。


《あと、まどかは『帰れるなら帰りたい』って言ってます。あ、『でも香奈姉かなねーの空中アクロバットは気に入ったから暫く居てもいい』だそうです》


 壁面に映る71ナナヒトの言葉に香奈さんはほっとした様に頷く。


「ふむ… 次は鈴代、お前はどうだ?」


 私としてはA案を採用し、71ナナヒトとまどかさんに恙無つつがなく退役してもらう方法がベストだと思っている。

 香奈さんは言うまでもないが、私だって過去に被弾こそ幾つもあったが、撃墜された事は無いのだ。幽炉を退役させるまで保たせるのは難しくないと考える。


 彼らを無事に過去に送り返す方法があるのだと、つい先程71ナナヒト達から教えてもらった事もあり、私の心はほぼ固まっていた。たとえ帰ってからの寿命が残り数年だとしても、この世界の事情に振り回されて余生を過ごすよりはマシだろう。


 私は頭が良い方ではない。冷静に物事を多角的に俯瞰して考えられる能力も無い。すぐに感情的になり視野を狭めてしまう。だから必ずどこかでミスを犯す。ドラマの中にいる様な冷徹な女性になりたくて真似をして全然なりきれない、それが私だ。

 もちろん上の考えが正しいなんて毛程も思っていない。でも頭が悪いなりに考えた私なりの最良な方法だ。


 そんな気持ちを乗せ、持論を述べる。私の発言の後、全員が下を向き、何かを考え込んでいた。


「最後に俺の意見だが…」


 長谷川大尉が顔を上げ口を開く。


「俺も鈴代の意見に賛成だ。操者と幽炉の関係は一心同体と同時に一期一会だ。別れれば次に会う機会はまず無い。だから今ある出会いを大切に別れの時まで育んでいくべきと考える」


 真面目な顔で意見を述べる長谷川大尉、そして大きく『ふぅ』と息をつく。


「俺と鈴代は今回の出来事に対して、極力穏便に部隊に要らぬ混乱を起こさない事を第一義に考えている。高橋大尉と仲村渠はどう考える?」


 長谷川大尉の問いに2人は、


「ボクも功を焦り過ぎてたよ。71ナナヒトくんとまどかちゃんの研究は縞原重工かいしゃに戻ってからでも間に合うしね」


「あたしはまどかと居られるなら何でもいいよ。あ、でもさっき結構ハシャいじゃったから何人かは感づかれたかも…」


 香奈さんは『ヤバい』という顔をするが、長谷川大尉は笑顔で返す。


「お前が『幽炉の中の人格』どうこう言ったって、今更誰も驚かないから大丈夫だろ。『あぁ、遂に名前付けだしたのね』ってなもんだよ」


「ちょっと隊長、どういう意味スかそれ?」


「よし! 鈴代と仲村渠の機体に関しては現状通りとして、幽炉の覚醒に関しては当面口外禁止とする。これは中隊のメンバーや鴻上司令にもな。その上で恙無く軍務を全うし、メーカー返却を経て元の世界に帰ってもらう。それでいいな?」


 抗議する香奈さんを無視して長谷川大尉が会議を締めた。


「あと、大事な問題だが、丙型のまどかに関しては『残るなら軍人になってもらう必要がある』んだ。71ナナヒトくん、本人に今意思確認できるかい?」


 数秒後、《『まだ分かんない』って言ってます》と投影される。それはそうだろう、最初から戦うつもりでいた71ナナヒトはともかく、まどかさんは一般生徒なのだから混乱するのも無理は無い。


 尤も幽炉の入れ替えで丙型を1週間遊ばせる事は事実上不可能なので、拒否の選択は受け入れられない訳であるが……。


「まぁそうだろうな。よろしい、明日一杯までで考えをまとめておいて欲しい。と伝えてくれ」


《了解、『分かった』ってさ》


「それでは…」


 長谷川大尉が椅子から立ち上がる。


30サンマル式と違って丙型は通信能力を制限したら作戦に支障が出るから、丙型の通信機器を幽炉から分離するのは許可できない。しかし、それ以外は71ナナヒトに許可した項目は同様に許可するから、後はノウハウのある鈴代と相談して2人でやってくれ。俺は司令の所に誤魔化しに行ってくる。高橋大尉、付き合ってくれるか?」


 長谷川大尉の声に「あいよ!」と元気に席を立つ高橋大尉。


 残された私と香奈さんは暫く見つめ合う。


「鈴代先輩、色々教えて下さい! よろしくお願いしまっす!!」


 香奈さんの芝居めいた口調に一気に肩が重くなる。また仕事が増えたんですけど?


 まぁ他ならぬ香奈さんの為だし、もともとそのつもりでもあったし、一肌でも二肌でも脱ごうじゃありませんか!


「まずは腹ごしらえしませんか? 私、お腹が空きました」


「賛成! 隊長に奢らせてやろうぜ!」


 2人で肩を並べて食堂に向かう。


「まずは通信の確立ですね。これをなんとかしないと…」


「おぉっ、そうだよなぁ。んじゃさぁ…」

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