第4話 煮卵追加中
「いがし君は、知ってるの?」
「……多分知ってる。」
バスローブを手馴れた手つきで羽織ってくる。
「シナがさ、姉さんは明るいけど淑やかで純粋な子って言ってたよ。だから、昨日初めて会った時、もっと別の雰囲気がある子だと思ってたんだ、勝手に。」
「え、……んまあ、シナの前ではそうかもしれない。」
深澤くん、ライター。
はい。
「深澤くん、彼女に連絡しなくていいの?今日は会えないって。」
「!?」
「……いるんでしょ、彼女。」
知っていたのか。彼女がいることはシナにも教えていない。
「……こんな場所にいちゃ、連絡できないでしょ。」
「何よ、罪悪感で?」
「まあ……。」
悪魔の鋭い目を避けて自分もタバコを吸う。
「なに、メビウス吸ってんの。マルボロのほうが美味しいのに。」
ほれ。と姉さんが吸っていたタバコを僕の口に差し替える。
か、間接キス……。
「なあに、照れちゃって。それともマルボロ美味しくない?」
前者なのはわかっている癖に聞く。本当に意地悪だ。
ベッドのバネは十分で、姉さんはこんな高級なホテルを予約もせずに顔パスで通した。通ったときは本当に驚いた。
ーーー
「もし?私だけど。」
ガタイのいい男の人がこちらを覗き込んで顔をパッとする。
「ああ!こんにちは、どうぞ、空けますので。料金は……。」
「あら、払うわよ?後払いでしょ?」
「いえ、いつもの通り、結構です。本日は、" いつもの坊ちゃん "は……。」
" いつもの坊ちゃん "、は、シナのことだ。
「ふふっ、煮卵追加中。そいじゃあね〜。」
軽くひらひらした手が震えている。
男の人は首を傾げている、当然だ。
この子はいつも無理をする。
ーーー
「……寝てて。」
肩をトンっとされる。男並みの力の強さだ。
「姉さん力強いね。」
「んっ。ほらあ、初めてのちゅー満喫して?」
この子はほんとに。
柔らかい二の腕を引き寄せて深いキスで愛の化身となった姉さんに溶け込む。
大きい目を更に大きくして口を押さえ仰け反る。
「……おどろいた?」
「別に。」
そうして我に返ったようにキスを繰り返す。
「……今日だって、来なかった。」
「うん……。姉さん、誘ったのにね。」
「私よりあの子を選んだんだ。」
「シナの話は禁止。」
返事を聞く前に姉さんにしゃぶりつく。
涙を必死に堪えている。
悪魔だって。
普通の女の子なんだから。
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