第2話 煮卵追加

「シナ、何にする?」

「俺は黒。」

黒ラーメン。ここの名物で、シナはいつもこれの追加無し。

「私は赤。」

赤ラーメンは名前の通り辛くて、辛党のこの子がいつもビールと一緒に頼むみたいだった。

「深澤くんは?」

「金欠だから白かな〜。」

白は1番ノーマル。だがこれが舐めることなかれ。ミルクっぽい深みがある。

「え、金欠なら出してやったのに。」

ぼそっと言う。いや、女の子に奢られるとか可哀想すぎな俺。嫌だよ?

「いがしは?」

いがしは俺のもう1人の友達だ。

「ラーメン!ラーメン!」

今日はシナがいるからなのか、ビールは頼まないみたいだ。

「深澤くんって、シナと同じ学部?」

「そうだよ。」

「理系か〜、私には縁がないな。」

「姉さん、何学部?」

「私は法学部。そいで、サークルは邦楽部。面白いでしょ?」

ホウガク、という音が同じと言いたいらしい。

「黒ラーメン、煮卵追加、おまたせしやしたあ!」

店員さんが元気に運んでくる。

「え、シナ、煮卵追加したの?」

「うーん、たまにはね。新しい味が欲しくなるって言うか。こいつがデフォだー!って思ってても程々に刺激は欲しいよ。」

「そうね。刺激は大事よ。」


遮るように姉さんが言う。


怖い。怖すぎる。

「私も煮卵追加してやればよかったわあ。そういう味が恋しいし。」


俺はかつてこんな怖い"煮卵追加"を聞いたことがあっただろうか?否。


「シナ、明日お前バイトないよな。遊ぼうぜ〜。」

いがしが煮卵の話を変えようとする。こいつも浮気のことを知っているのだろうか?

「ん?明日は無理なんだよ、ほら。」

ほら、あれがさ。みたいな会話をする。

「ほら、あれがさ……って?」

冷や汗をかきまくって、しかもそれをラーメンのせいにする俺をまじまじ見て姉さんがぼそっと言う。

姉さんは1番隅のカウンター。シナたちには聞こえない。


怖い。怖いから。


「ねえ、明日、アソんでよ。」

ゴツめのチェーンを音たてながら俺の足にカウンターの下でちょんっとしてくる。

やめろやめろ……。シナが見てないからって……。

「シ、シナにバレてもいいの?俺、友達なんだよ?」

「ふっ……。」

不気味に笑う。小悪魔通り越して魔女だ……。

「煮卵追加、でしょ?」

「それとこれとは!」

ちょっと大きい声を出すとシナがどうした?と首をこちらにぬぅっとする。

「ふぇ、いや、明日さ、また皆で集まろうよ!ね?」

「昨日の今日でか?」

「だ、だからこそだよ!もっと普通にどっか行ったりしようよ!」

「まあ、深澤がそう言うなら考えとくわ……。」

そうしてスマホをいじる。浮気相手に断っているのだろうか……?

「「煮卵追加だけど……。」」

二人でハモる。

「なによ、そんなに怖いの?」

「怖いっていうか……。」

怖いよ、普通に。

姉さん。

「悪かったわね、怖がらせて。」

そして本当に察しがいい。

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