ワイルドスピリット 〜赤〜

はすき

第1話 別に 星人

え。こんな子なの?

「お待たせ。」

「あ、あ、初めまして……。」

俺が聞いてた子と全然違うんだけど。

赤リップに真っ黒のストリートファッョン、腰にはゴツめのチェーンがついている。

「ユカくん、だよね?」

「はい、深澤です。」

「なんで敬語。」

ふっと笑う。

「こんなとこで話しても仕方ないし、早くラーメン屋行くか。」


今日は俺と、俺の友達二人、この子の合計4人でラーメンを食べる約束をしていた。俺の友達とこの子がカップルで、俺は今日、ある目的があって、どうしてもこの子に会わなくてはいけなかった。

「シナとは一緒に来なかったんだ?」

「あー、バスケの練習あるから現地集合にしてくれって。」

「まああいつも、理人もすぐに来るから。」

「うん。」

「……シナとさ、付き合ってて、今どう?」

突然の質問に真横から鋭い視線が飛んでくる。鼻は寒くて微かに赤くなっている。

「どういうこと?」

そして、恐ろしいくらい察しがいいのかもしれない。

「シナと付き合っていることに違和感があるか、とかそういうこと?」

俺が今日ここに来た意味はないのかもしれない。

「そ、そう……。」

「……別れようとしてる。浮気してるでしょ、シナ。」

「え……。」

ついぞ言い当てられてしまう。

「な、なんで?」

「女の勘。」

そう言って愛用しているマルボロを差し出す。

実は、俺とこの子は会うのが初めてだが、電話やLINEを幾度なくしている。

「あれ、ライターがない……。」

「ね、姉さん。使いますか?」

「だから敬語じゃなくていいって。」

ライターで満遍なく火をつけてあげる。

「いーんじゃない、別に。」

浮気が、だ。

「よくないでしょ。君のこと裏切っているんだ。」

「いんじゃない、別に……。」

本当に

"別に''

が口癖で困る。

「私だって、シナがタバコ嫌いなのに、吸ってる。シナは知らないわけだし?それも裏切りじゃないの。」

種類が違うよ。

「私、別に、いいよ。」

「……。」

「え、というか、まさか今日すごく会いたがってたのって、これを伝えたかったの?」

本当に察しがいい。

「そ、そう……。君が傷つくかなとは思ったんだけど、早いうちに言わなきゃって……。」

「あら、そいつはどうもお。」

灰皿にポイッとする。

「男なんてそんなもんでしょ。別にさ。」

無理しなくていいよ?

「すぐ、そうやって。」

「意地を張る〜……って?」

爆笑しながら当たった?と嬉しそうにする。

「ほら、早く行かないと。」

さりげなく俺の手を引いてラーメン屋に誘導する。今回のラーメン屋はこの子が決めた店だ。

「え、シナじゃなくても、手を繋いだりするの?」

「シナは他の女と寝てんのに、私は手を繋ぐことも許されないわけ?」

「いっ!いえ!!滅相もないです!」

醤油の芳醇な香りが漂ってきて、いよいよラーメンを食べることになる。

「シナ!」

さっきの話を信じたか否かわからないほど元気に、清々しくシナに手を振る。

「おまたせ。」

「あ、はじめまして。」

もう1人の友達も合流する。

「食券、買うか。」

2月。バレンタインも過ぎて世のカップルは幸せに満たされている頃。

演技が上手すぎる友達の彼女と、友達との地獄のラーメン会が始まろうとしていた……。





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