第四話:夜のお遊び

「ダメぇ、そこダメなところぉ」

「……」


 妙な声が聞こえてきた気がするが、俺は気にせず攻める。

 どれくらい攻めるかと言うと、髪を切ってもらっている美容師にも引かれるほどに、だ。


 初めての頃は彩香さんにおんぶにだっこ状態だったものの、今となっては少しは上達したと自負している。


 上手くなったし今日ならいけんじゃね!?

 ……そんな油断が命取りとなったのだろう。


 突然窓から何かが放り投げられ、カランカランという音と同時に大爆発。

 次の瞬間にはハイハイ状態になった俺の完成だ。


「……やべぇ」

「……」


 先程まではあれほどうるさかった彩香さんが今度は静かになる。

 ここからじゃ見えないが、きっと下ではワンパーティーを一人で翻弄しているのだろう。


 ハイハイ状態になりはや三十秒程経ち、すり減っていく体力にヒヤヒヤしているとそこにヒーローが登場した。


「すいません。ありがとうg――……「なんで一人で行ったの? ねぇ、馬鹿なの?」

「……すいません」


 先の雰囲気とは一変し張り詰めた空気が電話越しでも伝わって伝染する。


「いや、すいませんで済めば運営なんかいらないよ? あと、今聞いてるのは何で一人で突っ走って行ったのかだよ?」

「……はい」


 もはや恒例行事となりつつあるお説教タイムのスタートだ。


「はいじゃなくてさぁー、理由を聞いてるの! まぁ、どうせ上手くなったしいけると思いましたーとか何とかなんでしょ?」


 完璧なまでに当てられてしまい口ごもってしまっていると「やっぱ馬鹿じゃん」と吐き捨てられ悲しくなる。


 そして彩香さんは「だいたい――」と前置きして俺への追撃を始めた。


「君のそういった軽率な行動によってパーティーが困るの! 実際世界でもそういう行動しか取れない人を自己中とか社会不適合者って言うの知ってる? 君がそうやって味方に迷惑かけないように単独行動するには普通のことが完璧にこなせるようにならないとまず無理。というかさ――……」


 俺の運は悪かったが、アンチ運は良かったということもあり、五分間ほど俺のハートは傷付けられ続けるのだった。


 ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢


 その後も順調ゲームは進み、残るは三人。

 彩香さん対一人対一人の構図か、彩香さん対二人の構図だ。


 え? 俺はどうしたのかって?

 説教の後すぐ死んじゃったよ。

 HAHAHA。


 ということで手持ち無沙汰になったので、まずはもう気づいているだろうが俺と彩香さんが今何をヤっているのかを説明をしよう。

 前話から楽しみにしていた諸君らには悲報だろうが聞いてくれ。

 今、ヤっているのは男女のそれではなく、百人のプレイヤーが一つの島に降り立ち、銃器を漁り戦い一位を目指すという至極単純なバトルロイヤルゲームなのだ。

 ちなみに、最近はモバイル版も出たらしいが俺らはPCの方が使い慣れているのでPC版をやっている。


 っとまぁ、本当に楽しみにしていた諸君らには申し訳ない限りだ。

 なので、代わりと言ってはなんだが、彩香さんのプレーを実況してあげよう。

 いらないとは言わせない。だって暇だから。

 今、彩香さんに話しかけるときっとキレるから……。


 ……ということで今、彩香さんは木裏に隠れて、先程、奥の二階建ての家で視認したそいつを殺るチャンスを狙っていた。


 なかなか顔を出さないことにしびれを切らした彩香さんは、俺が先にダウンを取られたようにグレネードをタイミング良く窓の中に放り投げる。

 すると、逃げる隙も与えず爆発。


 画面中央に相手のダウンを知らせる表示が出たことから、相手は二人でワンパーティーということが分かる。


 それからの彩香さんはというと仕事人さながらだった。


 すぐに火炎瓶に持ち替え、もう一度窓に投げ入れると確キルを奪取。

 そして間髪入れずに家の中に詰める。

 クネクネ動きながら相手の位置を把握して、毎回愛用しているMP5Kで腰撃ち!

 リーンをしていたためひょっこり出ていた相手の頭にちょちょちょんとすると、画面の右上に表示される「#1」が全ての結果を示していた。


「……ふぅ」

「お疲れ様です。流石ですね!」


 労いの言葉をかけると「まーね」と軽く流される。


 折角ドン勝したのに反応薄いと思ってしまうだろうが、彩香さんは例えどんなに圧勝しても鼻につくような態度を取らずにへなへなしているのだ。

 いや、単に喜ぶのが面倒なだけなのかもしれないがな。


 待機画面に戻されるも、なかなかに準備が整わないところからするに今日はもう少しお話をして解散なのだろう。

 なので俺から話題を振ることにする。


「そう言えば大学の方はどうですか?」

「んー? どうって?」


 前も言ったようにこんなのだが実は大学生なのだ。

 信じられないだろうが本当に大学生なのだ。


「今、失礼なこと考えてなかった?」

「いえ、普通にこんなんだけど大学生なんだなーって考えてただけです」

「それが失礼っていうの知ってる?」


 少し怒り気味なのだろうが、ゲームの最中と比べると高校生と中学生ほどの差があったので別段怖いとも思えなかった。


「そんなことより君こそ高校の方はどうなの? その……彼女とかってできたりした?」


 失礼な奴である。

 俺にそんなのが出来るとでも思っているのだろうか?

 もしそう思っているなら市にある大きな病院への受診をオススメしてあげたいくらいだ。


「できたよ」

「ふぁ?」


 全くの嘘であるが信じてしまう彩香さんは本当に病院に行った方が良いのではないだろうか?


「イ、イツデキタノ?」

「いや、その前にどうしてカタコト?」

「そんなことは良いの!! というより、いつ君に彼女ができたの!?」


 カタコトになったと思ったら今度はキレてきたので本気で精神科をオススメしようか悩んでしまう。

 なんか、これ以上すると面倒になりそうなのでここでネタばらしすることにする。


「テッテレー! うっそでーす! できるわけないじゃないですかー。そして、市の病院の受診をオススメしまーす」

「……」

「え、聞こえてる?」


 少しやりすぎたか?と不安に思っていると突然、電話越しに鳴き声と鼻をすする音が聞こえてきた。


「……うぅっ……! 良がった……っ嘘だったんだ……っ!」

「ふぁ?」


 俺に彼女が居なくて良かったと言われて少しカチンと来てしまうのは自然だろう。

 まぁ、たしかにこんなクズ男に毒されてる女の子がいないのは良かったけど、泣いて喜ばなくてもいいじゃん!

 というか、まず俺に彼女ができるわけないじゃん!


「そう言う彩香さんは片想い中の男子とは進展ありましたか? まぁ、顔は良いんですから普通にしてたら普通の男子は落ちますよ」

「うぅ……本当に?」


 おっと反撃するつもりが要らぬことまで口が滑ってしまった気がするが……良しとしよう。


「だから、普通なら落ちるんじゃないですか?」

「君に似た子なんだけどその子は落ちるとおm――……「俺に似てんなら無理っすね。まず二次が絶対条件だと思うので」

「…………死ねばいいのに」


 そして突然切られる電話。

 残るはただ急に暴言を吐かれた我のみ。


 ……やっぱり精神科行った方がいいよこの人!


 イライラが止まらず、FG●の十一連でスッキリしようと試みるも、爆死してしまい余計にイライラが募った俺は、それでも案外ぐっすり寝てしまうのだった。

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