第五話:夜のお遊び(彩香side)
「……ふぅ」
「お疲れ様です。流石ですね!」
緊張から解き放たれた私はスっと無意識に入っていた肩の力を抜いた。
このゲームは一瞬の油断が命取りとなるから怖い。
どこかの誰かのように自分の力に慢心しているとすぐにやられてしまうのだ。
「本当は守るより守られたいのにな……っ!?」
ポツリと呟いてしまいてしまった言葉は気づいた時には後の祭り。
聞かれてしまっていないか不安になる。
だって、今結構凄いこと言っちゃったじゃん!!
もし、聞かれてたらもう顔見合って話せる自信が無いよ……。
「そう言えば大学の方はどうですか?」
「んー? どうって?」
聞かれてないみたいかな?
安堵と共に先程の質問に何か引っかかることがあったので尋ねてみる。
「今、失礼なこと考えてなかった?」
「いえ、普通にこんなんだけど大学生なんだなーって考えてただけです」
「それが失礼っていうの知ってる?」
予想通りからかわれていた事に少し腹が立った私はちょっと意地悪な質問をする。
「そんなことより君こそ高校の方はどうなの? その……彼女とかってできたりした?」
「三度の飯より二次元」という言葉が私の知る人の中で一番似合うと言っても過言ではない彼のことだからできている訳がないだろう。
初めはそんな安易な考えだったがよくよく考えてみるとそうでは無いことに気がつく。
…………いや、もしできてたらどうしよう。
彼自身は自覚がないだろうし、いつもは髪を下ろしていてよく見えないけど、結構美形な顔をしているからできないとは断言出来ないんだった。
どうか、どうかできていませんように!!
「できたよ」
「ふぁ?」
願いとは裏腹に突きつけられた彼の言葉にアホな反応をしてしまう。
……う、嘘でしょ?
「イ、イツデキタノ?」
現実を受け入れられない私はそんなことを聞いていた。
「いや、その前にどうしてカタコト?」
「そんなことは良いの!! というより、いつ君に彼女ができたの!?」
今は彼のツッコミなど頭に入ってこない。
ただ、いつできたのかだけが気になってしまう。
「できない」なんて何で決めつけてたんだろう。
ゲームに慢心しないで現実で慢心してたなんて馬鹿すぎじゃん……私。
後悔に打ちひしがれていると電話の向こうから何か言うような気配がしたので次の言葉に集中する。
「テッテレー! うっそでーす! できるわけないじゃないですかー。そして、市の病院の受診をオススメしまーす」
「……」
「え、聞こえてる?」
え、嘘? 嘘だったの?
病院がなんだか言っているような気がしたが今の私にはそんなことはどうでも良かった。
「……うぅっ……! 良がった……っ嘘だったんだ……っ!」
「ふぁ?」
溢れ出した感情は決壊されたダムの如く流れ出して止まらなくなってしまう。
「そう言う彩香さんは片想い中の男子とは進展ありましたか? まぁ、顔は良いんですから普通にしてたら普通の男子は落ちますよ」
「うぅ……本当に?」
気を利かせてくれたのかは定かではないが、話題を百八十度反転させ私に関係する話題になる。
ちなみにここで言う「片思いの男子」とは言わずもがな彼のことである。
というか、今私の事を可愛いって言ってくれた?
聞き間違いじゃない、よね?
自分の顔がありえないくらい熱くなっているのを実感しながら先程の「可愛い」の真偽を確かめる。
「だから、普通なら落ちるんじゃないですか?」
や……やっぱり可愛いって言ってくれてた!!
やばい、どうしよう。ニヤけが止まらないよ〜。
私はこの良い流れに任せて確信に近づくことにする。
「君に似た子なんだけどその子は落ちるとおm――……「俺に似てんなら無理っすね。まず二次が絶対条件だと思うので」
即答だった。
それも完膚なきまでのだ。
「…………死ねばいいのに」
流石にショックを受けてないと言えば大嘘になるが、それでも今日のところは彼がまだフリーだということが確認できたので少し毒を突くだけにしてあげた。
そして、今後の景気づけとしてFG●の十一連を回すと今回のピックアップ&限定キャラであるエレシュ●ガルが出てきてくれたのでいつも以上にぐっすり寝れたのだった。
♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢
その日、私は少し昔――詳しく言うと三年前の夢を見た。
高校入学を機に上京し、一人暮らしとなった私は不慣れな環境について行くので一杯いっぱいで、ストレスと不安に押し潰されそうになっていた。
そんな時ある少年と出会ったのだ。
その少年はいつも飄々としていて中学生ということを理解するのには近くの中学の学ランを着ていなければ無理なくらいに大人びていた。
それに凄くカッコよかったのだ。
だからなのか、頼る人も内気な性格のせいで友達もできなかった私は挨拶程度しか交わしたことの無い彼に助けを求めた。
今思えば馬鹿なことをしたと思う。
だって交わす言葉が挨拶程度の他人に助けを求めるなんて常識では考えられないだろう。
しかし、その頃の私はそれほどまでに追い詰められていたのだ。
「……ねぇ、君は何でそんなに大人びているの?」
挨拶以外で初めて交わした言葉は今思うとやっぱり他人に質問するようなことではなかったと思う。
「? いや、大人びては無いと思いますが……というかくまが凄いですけど大丈夫ですか? 悩み事とかあるなら家もお隣ですし話くらいは聞きますよ」
しかし、彼はそれでも無視することなく答えてくれ心配までしてくれた。
あの頃の私はきっと人と離さないで溜め込んでいたのが悪かったのだろう。
彼からの心配が凄く心に染みた。
それから私はその時抱えていた不安や愚痴を彼にぶつけた。
三分ほどぶっ通しで話終えると、彼は少し悩んだ後にさも平然と言うのだった。
「嫌なら嫌で良くないですか?」
その言葉で何かが吹っ切れたのだろう。
「なんもいいこと言えなくてすいません。でも、またなんかあったら上手く答えられる保証はないですけど相談乗りますよ。じゃあ、それでは」
そう言って立ち去ろうとする彼の手を、私は自然と掴んでいた。
そして、私は挨拶程度しか交わさないただの他人にまた質問をすることにする。
「名前はなんて言うの?」
放った言葉と共に私の中で恋という感情が芽生え始めたのだった。
負けヒロインなら頂いてもいいですか? みかん @mikann526
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