第二話:喫茶店にて2/2
「だったら……だったら、アンタが私の告白を手伝って!!」
先程、声が大きいことを指摘したはずなのにまた声が大きくなる糸洲さんだったが、今回俺は再度注意することが出来ないでいた。
何故ならば、声量よりも内容の方がえげつない気がしたからだ。
「ちょっとごめん。なんでそういう流れになるのかが不思議過ぎてやばいんだが……」
根っからのリア充とソロ充では考え方も全然違う事に気づき、両者の共存は難しいのだなと考えてしまう。
「だから、あんたに手伝って欲しいの!!」
それでも頑なに意志を変えない糸洲さんであるからどうしたものか……。
「言いたいことは分かった。だが残念かな俺は恋愛に疎いので止めておいた方がいいと思うよ」
先程からあれこれ言っていたが、実は……というより、見ての通り俺は実際、誰かとお付き合いなどした事がないのだ。
逆に俺から言わせてみれば、そんな事を俺に頼んでくる糸洲さんには恐怖を覚えるくらいだ。
しかし、前方では首を傾げている糸洲さんがいる。
逆に俺が首を傾げてたいくらいなのだがな……。
「アンタって恋愛経験豊富じゃないの?」
「……」
クラストップレベルのモテ女にそんなことを言われると嫌味にしか聞こえないのだが気の所為だろうか?
いや、そうならどれほど良かったことか……。
糸洲さんのキラキラと輝いている目を見ると「コイツガチダ……」と思わざるおえない。
「自慢じゃないが……いや、自慢になるのか……?
まぁ、俺は今まで付き合ったことも、告白したことすらもない恋愛赤ちゃんなんだぞ」
「恋愛赤ちゃん?」
頭に? が浮かんでいるであろう糸洲さんに追撃をする。
「あぁ、恋愛赤ちゃんだとも。そんな奴に聞くなんて糸洲さんはショックで少し頭がイッちゃっているんじゃないかな? だからさ、もう一回落ち着いて考えた方がいいと思うよ」
あくまで糸洲さんの気持ちを尊重したかのような、そんな誘導尋問を仕掛ける。
さぁ、騙されてくれ! そして、面倒事から俺を遠ざけてくれ!
祈る俺に対して糸洲さんは何かを思案している。
そしてこの喫茶店に来店して何度目にもなる沈黙がこの空間を満たす。
手持ち無沙汰になった俺は窓側に置いてあったメニューに目を通し始めた。
色んなメニューがあるんだな。
コーヒーはもちろん、ポテトにピザもあるのか。それに、コーヒーにも色々な種類があるんだな……。
本屋も近いし今度時間とお金に余裕があったら、帰りにでも寄ってみよう。
考えるだけでワクワクしてしまうな。
そんな上機嫌になった俺とは裏腹に、糸洲さんはまだ考えている様子だった。
チクチクとどこかに掛かっているであろう時計の心地よい音にゆすられること数分。
やっと前方で何か動きがあったようだったので話に集中する準備をする。
「確かに、今の私の頭は少し……うんうん、結構イッちゃっていると思う。……でも! それでも落ち着いてなんていられない!! だって、どのゲームのキャラもそんなことはしていないから!! だから、出来ればだけどアンタに協力して欲しいの! アンタが恋愛赤ちゃん? だということも含めても、それでも私はアンタがいいの!!」
「っ!? 」
一応言っておくが、今一瞬ドキッとしてしまったのは決して告白っぽいセリフを言われたからではない。
ただ、あまりにも考え方が、色んなアニメやラノベなどの作品に出てくる「ゲーム好きな純粋女子」のセリフだったからついグッときてしまったのだ。
糸洲さんの覚悟は揺るがないみたいだな……。
じゃあ……。
「……分かった。協力しよう」
先程、どれほど恥ずかしいことを言ってしまったのか自覚して、俯いてしまっていた糸洲さんだったが、俺のその一言だけで顔をパァーっと明るくして顔を近ずけてきた。
近い近い。なんでこんなに距離感ないんだよ。
何? 片目でも潰れてんの?
(片目だけだと距離感がつかみにくいそうです)
そんなことを思ってしまう始末。
「ほんと!?」
「そんなに目を輝かせて言われても困る……手伝うだけで、付き合えるようになる訳じゃないからさ」
そして「まぁ」と一拍置いて続ける。
「ただ、手伝わせてもらうからには全力でフォローするよ。なんか、その……糸洲さんのゲーム愛とかキャラ愛とかがすごく伝わってきたからさ」
凄くキモイ、痛いことを言っている自覚はある。
しかしこれは伝えられると案外嬉しいものだと俺は思っているからして伝えたのだ。
しかし、プルプルと震えている糸洲さんを確認して悟った。
あぁ、それでも、キモイことなんか言わなきゃ良かったな……。
そんな心配をする俺のことなか知ったこっちゃないといったように、糸洲さんがバっと顔を上げて嬉々とした様子で話し出した。
「ありがとう! 本当に嬉しい! これかよろしくね!」
「っ!」
一応言っておくが、今一瞬ドキッとしてしまったのは決して不覚にも凄く可愛いと思ってしまったからではない!
ただ……なんというか……。
とにかく、決して凄く可愛いなんて思ってないからな!!
その時、糸洲さんのスマホからブーブーとバイブレーションが鳴り、糸洲さんはそれを慣れた手つきで止めて、少し操作した後にそのままスマホを俺に向けてきた。
「ごめん。もう帰らないといけないから。連絡用にLENE交換しよ?」
画面を覗くと、LENEという幅広い年代の人々に使用されている無料で電話もチャットも出来るアプリのQRコードが表示されている。
LENEか……。
なんか、前聞いたけどもうクラスLENEができてるらしいなー。
まっ、俺には関係ないがな……。
少し悲しい気持ちになってしまったが、務めて平然にそのQRコードを読み取った。
「今日はありがと! これからも協力関係なんだから相談乗ってよね?」
糸洲さんはそう言って千円を机に置き立ち上がり「じゃあね」と一言残して去っていってしまった。
……なんか、めっちゃくちゃ疲れたー。
テーブルにグダっと身を乗せて脱力する。
持っているスマホはLENEが起動しており、そこには糸洲さんから「よろしくね」とクマが敬礼しているスタンプが一つ。
勢いで協力することにしたけど、大丈夫かな……?
そんな疑問に似た不安を抱きつつ今日のところは家に帰ることにしたのだった。
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