第3話 仲良くするためにすることは鑑賞会でした。

翌日 学校


昨日はあまり眠れなかった。

寝不足のまま教室に入ると、やかましいのに声をかけられた。


「おう、五代!」


「やめろ、頭に響く。」


友人、八神 健二。コイツはいつも朝が元気だから寝起きには堪える。


「どうした?寝不足か?昨日あんなに意気込んで映画に行ったのに.......」


「映画に行ったからだよ。」


昨日は色々ありすぎた.......映画の内容と南條さんと色々.......

その夜はずっとネットで色んな人の感想を読み漁ってた。

同じ趣味の人っていいなぁなんて思いながら色んな人の感想に対して1人で共感していた。


「映画館って眠くならないのか?」


「初見の映画でそれは無いだろ。ましてや、こちとら1年前から楽しみにしてたんだからな。初見でも眠くなるのはお前ぐらいだよ。」


前に八神が俺の見てる映画に興味持ったっていうから一緒に見に行ったんだが、こいつはすぐ寝てたからな。


「まぁ、俺は映画で時間使うよりは彼女に時間を使いたいからな。」


「今年に入って初めて彼女できたくせに何言ってんだか.......」


「恋愛に興味のないお前には言われたくねぇな。お前同じクラスになるまで南條さんのこと顔すら知らなかったじゃねぇか。」


「なんで、南條さんが出てくるんだよ。」


「やっぱりみんなが崇める女神様はこの学校の異性代表みたいな所あるだろ?」


なんというか、コイツは失礼な奴だよ。

そんなこと言ってたら彼女に刺されるぞ。

俺はそんな風に思っていた。


確かに俺が南條さんを認識したのは2年生が始まってからだった。


それは、今年のクラス替えの時.......


.......1か月前.......


「お、五代。同じクラスだな。」


「ハズレを引いた気分だよ。」


「んな事は無いだろ.......ほら、見てみろよ?」


そう言って八神はある人物を指した。


「今年は女神様が同じクラスだぞ!」


八神の指す先にいたのは、女神様こと、南條あやみだった。

しかし、俺はこの時、別の認識をしていた。


「あ!あの人この前レンタルでクモーマン探してた.......」


少し前になるが俺は南條さんを南條さんと認識する前に会っていたのだった。


その時は、ただ、綺麗な人で俺と同じ趣味の人かな?というイメージだけ持っていたのだが.......


「あの人が女神様か.......」


「お前今まで知らなかったのか?」


「見たことはある。」


「信じらんないぐらいお前は周りに対して無頓着だな。」


この時、初めて南條さんを認識した俺を八神は溜息をつきながら呆れていたのだった。


...................................


それから1ヶ月が経った訳だが、俺はあの時のレンタルビデオ屋の女の子が噂に聞く南條さんと聞き、多少なりとも気になった。

というのも、女神様だからとかではなく。


俺は趣味柄、同じ趣味を持つ同志とか仲間というのに恵まれることが殆どない。というか、今までゼロと言える。

そんな俺が初めて同じような趣味を持つかもしれない人を見かけたら嬉しくなるのは当然だと思うのだ。


しかし、彼女は人気者と呼ばれる人間。

俺のような日陰者はあまり関わらない方がいい.......なんて考えてしまうのだ。


「.......くん!」


八神との会話に戻ることにしよう。

これ以上考えると変なとこまで思考が進みそうだ。


「ご.......くん!」


おい、八神なんでそんな驚いた顔してるんだ?


「五代くん!」


「はい?」


突然大きな声が耳に届いた。

その声の方に振り向くとその先にいたのは.......


「南條.......さん。」


「五代くん.......あのね。」


「はい。」


「い、一緒に!映画の.......鑑賞会.......しませんか?」


.......え?


***


クラス替えの日、五代くんと同じクラスになった。

もしかしたら同じ趣味の人かもしれないって思って、仲良く出来たらなって思ってた。


私は、あまり他人付き合いが好きではない。

それは、お互いに好きでもないものに対して流行りがどうとかそういう空気が好きじゃないから。

『好き』を強調すると煙たがれてしまう。

でも、学校では上手くやらないと。

だから、学校では極力笑顔をするように心がけてる。

きっとこれからもそうなんだって思うと途方も無く思えてきた。


私のことをわかってくれる人なんて居ない。

そんな風に思ってた頃に出会ったのが五代くん。


彼はいつも堂々としてた。

自分の気持ちに素直に生きてるように思えた。

自分の『好き』を隠さない姿に思わず.......

「かっこいい」なんて言葉が出てきた。


初めて出会った同じ趣味の人.......仲良くなりたい。


そんな風に思って私は昨日ある考えに至る。


私から動かないと!

同じ趣味の人と仲良くなるには.......同じ趣味を共有するのが一番だよね!


そして.......現在


「五代くん!い、一緒に!映画の.......鑑賞会.......しませんか?」


振り絞った言葉.......今にも死にそうだった。

恐る恐る五代くんの顔を見上げると。


「へ?」


え?なんの反応!?私、何か変なこと言ったかな?

周りの人もなんか私のこと見てるし.......何かまずかった?

私はひたすら戸惑った。


***


何か、非常にまずい気がした.......。


「五代のやつ、南條さんと話してやがる。」


「南條さんから話しかけたのか?」


「五代何した?」


南條さんからの突然の誘いなのだが.......周りの視線が俺に集まりだしていた(特に男子)


「えっ.......と、五代くん?」


南條さんが不安そうになってる。

周りのザワつきも強くなる。


「な、南條さん!こっち!」


なんで突然こんなことに?確かに昨日は一緒に映画見たけど.......


周りの視線が怖い.......だから注目されるのは嫌なんだ。


廊下


あまり人通りのない廊下まで逃げたところで俺は南條さんの方に向き直った。


「突然、ごめんね。」


「え?あ、うん。私の方こそいきなりで.......」


南條さんは少し俯きがちに謝ってきた。

ちょっと顔が赤かった。

俺はその様子が気になった。


「どうしたの?」


「えっ.......と.......あの、手.......」


その南條さんの視線の先には俺に握られた南條さんの手があった。

俺はそれを見て慌てて離す。


「あ、ご、ごめん。」


「う、ううん。私の方こそ.......」


流れる無言の空気.......


「それで、南條さんはどうして俺を誘ってくれたの?」


このままではいけないと思い、俺は本題を切り出すことにした。


「それは.......」


口ごもる南條さん。俺はゆっくり言葉を待つ。


「その.......あの.......私.......映画が好きで.......」


「うん。」


「それで.......私、今まで同じ趣味の人と仲良くなったことないから.......」


そして南條さんは次の言葉を精一杯に言った。


「五代くんと仲良くなりたいな.......って」


ここまで聞いて俺はまた呆然とした。

あの南條さんが俺と仲良くなりたい?

聞き間違いじゃないよな?

ひたすら思考を巡らせた。

落ち着け!五代 明!こういうのって自惚れてはいけないって確か前になんかで読んだろ!


「ごめんね。五代くん.......嫌だった.......よね?」


不安そうに言う南條さん。

そんな弱々しく言わないでくれ。俺だって.......


「嫌だなんてそんなことは!俺も.......同じだから。」


「え?」


つい本音が出た。

確かに俺は今まで一人で趣味を楽しんでいた。

周りに趣味を共有できる友というのがどんなものなのか。気になったし、羨ましくもあった。

南條さんの気持ちもきっと同じなんだ.......

そんな風に思うと言葉はスムーズに出てきた。


「俺で.......良ければ.......」


「え?」


「鑑賞会.......やろう。」


こういうのって慣れてないからすごい恥ずかしい.......。

精一杯に言った言葉を南條さんはどう受け取るのか怖いと思った。

俺は恐る恐る南條さんの方に顔を向ける。

すると、そこには目を見開いた南條さんがいて.......


「嬉しい.......」


笑顔でそう言ってきた。


「.......ッ!?」


なにこれ、胸が.......


その笑顔を見た俺は、今まで八神の言っていた南條さんへの話を全肯定してしまいそうだった。


この笑顔は確かに.......学校中の男子が惚れるものかもしれない.......

そんなふうに納得してしまったのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

好きな映画を観に来たら隣にいたのは好きな人でした。 岬鬼 @sinonomerabbit950

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ