第12話 はじめてのちょうごう 蛇足



 レオンはとりあえず最初の調合を終えてから休憩がてら先ほどの調合について色々考えてみる。


 まず調合に必要な素材。


 魔石

 水

 原材料

 触媒


 魔石と水は魔法水の作成に必要。

 魔石の等級によって魔法水の質、最終的には作成物の質に影響する。

 魔法水は作成物に魔法的な性質を与えるために必要と思われる。これによって出来上がった作成物は魔力を通すことによってその効果を発揮するようになる。


 実際先ほど傷にかけてポーションの品質を確かめる時も軽く魔力通してから使用した。

 ちなみに魔力を通すのはあくまで効果を発揮させるための呼び水としてなので、消費する魔力は微量で済むのだが、一度魔力を通してしまうとその効果時間内使用しないとその効力は失われてしまう。


 例えば今回のポーションの場合、一度魔力を通してその効果を発動してしまうとたとえ使用しなくても10分もすればその効果が切れてしまい2度と使用できなくなってしまう。


 

 次に原材料。

 原材料は作成物のベースとなるもの。

 例えば傷を治すポーションの場合、原材料はもともと治療効果のある薬草と呼ばれているキュアリーフ。

 呼称に違和感があるかもしれないが、調合に必要となる魔石や触媒を含めて『素材』と呼んでいるので、それと区別するために『原材料』と呼ぶことにする。



 最後に触媒。

 

 これは原材料を変化させて特定の性質を与えるものとレオンは考えている。ちなみにこちらも便宜上、触媒と呼んでいるのだが調合に使用すると消費されてしまうので厳密な意味での触媒とは違う。

 

 レオンがこのように考えるのには根拠があって、彼が調合出来る他のポーションがこれに該当するからだ。

 作れるのはアンチポイズンポーション、そしてアンチパラライズポーション。その名の通り、解毒と麻痺治療効果のあるポーションだ。


 ここで注目すべきはその素材。

 それぞれ触媒がポイズントードの毒腺、フラッシーモスの鱗粉と替わっているものの、他の素材は魔法水にキュアリーフと変化はないからだ。

 つまり回復効果のあるキュアリーフにそれぞれ毒、麻痺といった属性をあたえたものと考えると納得がいく。

 そう考えると今回使用したレインボーベリーの実については単純に本来の性質を強化する効果があるのではないかと予想している。


 現状レオンが作れるのはこの3種類のポーションだけなのだが、この推測が合っていたならば夢が広がる。


 この世界の人々は調合士=ポーション職人という固定概念があり、作れるのも上記の三種類だけというのがほとんどだ。

 例外は一部の人だけがレシピを知る6~4級の上位ポーションくらいだ。

 しかしレオンからすると沢山のモンスターが生息するこの世界でさすがに素材や触媒がこれだけしかないとは考えられない。

 新しい触媒を見つければ新しいポーションが作れるし、原材料を発見すれば全く違うモノが作れる可能性もある。

 有用ではあるが面白みのないギフトと思っていたのでこれは嬉しい発見だ。


 そして素材の分量について。


 今回は10個同時に作ったのだが、9級ポーション1個分に使う素材は……


9等級の魔石を1個

水を約50グラム

キュアリーフ約20グラム

レインボーベリーの実1個


 これは一般的に定められた9等級ポーションのレシピでもあり、これ以外の分量で作ったものを9等級ポーションとして販売することは禁止されている。

 他の等級のポーションも同様で、魔石の質や素材の分量は変わるもの既定の分量が定められている。

 つまりはこれが最適な分量だということなのだろう。


 そうなるともし今後新しい素材などを発見した場合は最適な分量を探る必要があるということになるのだが、逆に分量によってその効能を調整できるということでもあるので一長一短といったところだろうか。

 

 


 次に肝心のギフトについて。


 調合のギフトでできることは3つ。


調合

浸透

操作

 

 まずは浸透。

 浸透は原材料や魔石の内部に自分の魔力を浸透させることが出来る。

 これは主に魔法水を作るときに魔石の魔力を水に移したり、調合を行う時に前段階として使用する。

 ちなみに触媒に対しては魔力を浸透させることが出来ない。


 調合はそのままで、原材料と魔法水を合成し触媒を使ってその性質を変化させる。


 調合はともかく浸透は他にも使い道がありそうに思えるが、残念ながら調合に使える素材にしか使用出来ないためあまり使い道は思いつかない。

 魔石から人体に魔力を移動させて魔力を回復、というのはできるかもしれない。

 ただ魔石は魔物からとったものがほとんどなので、どんな悪影響がでるか予想ができず怖くて実験はできない。

 もっとも魔法水を飲んでも悪影響はないため恐らく問題ないのであろうが、それなら多少手間がかかっても魔法水を作って飲めばいい話なので無理に実験する必要もないだろう。


 次に操作。

 これは調合に使える素材や出来上がった成果物を魔力で自由に動かすことが出来る能力だ。

 ポーションのような液体でも自由に操作できるため使い勝手がいい。

 しかしこれも調合に関係する素材にしか使えないうえに操作できる範囲が自分の周囲1メートル程度。さらにそれほど素早く操作もできないので現状あまり使い道が思いつかない。


 ただここで重要なのは調合に使える素材にしか使えないということ。

 逆にこの操作が使える素材は、調合の素材になり得るということだ。つまり素材の判別に使えるのだ。しかも浸透が使えるかどうかで、原材料か触媒かの区別もつく。



 そこまで考えたところでふと頭の中でひっかかるものがあった。


 それは幼少時の記憶。

 レオンがぐずった時に母が見せてくれた魔法のようなもの。

 確かポーションの瓶を運ぶ際に割れないように緩衝材として使われていたジェル状の物体……スライムゼリー?

 それに母が魔力を通すと突然グニャグニャと形を変え、ネコやウサギに変化して動き出したのだった。

 今思えば、あれは調合の操作を使っていたのではないだろうか?


(しかしあれが調合の素材であったとして、なにが出来るんだ?原材料であれば……毒ゼリー、麻痺ゼリー……凄いスライムゼリー??触媒であれば……スライムなポーション?……確かまだ瓶の在庫あったしスライムゼリーも残ってたよな)


 気になったレオンは納品分の仕事そっちのけでビンを収納している場所に向かうのであった。




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