第11話 はじめてのちょうごう 下
魔法水の作成を終えたレオンは一息つく。
実際魔石から水に魔力を移すのに5分もかかってないのだが、集中力を要する作業だ。
それに母から基本的な手ほどきは受けていたのだが、実際一人で作業するのは初めてであったために余計に気を遣った。
軽く身体をリラックスさせた後、改めて出来上がった魔法水を眺める。
魔法水。
現代日本だと詐欺を疑ってしまいそうないかがわしい名前だが、こちらの世界では至って安直なネーミングで、魔石の魔力を水に溶かしただけのものである。
ポーションの材料としての用途が一般的ではあるが、一応それ以外の用途もある。
まずそのまま飲むと魔力が回復する。
さらに武器に垂らして使うと、魔力を込めた武器と同等の効果を発揮する。
本来武器に魔力を込めるというのは付与系ギフト持ちにしか出来ない技術であるのだが、魔力の込められた武器でしかなかなかダメージを与えられないモンスターというのも少なくない。
これだけ聞くとこの魔法水は大変有用なように聞こえるのだが、実際これを持ち歩いている探索者はほとんどいない。
その理由は二つ。
効果が非常に弱いこと。
そして保存があまり効かないこと。
飲んだところで回復する魔力はわずかであり、武器にかけても効果があるのは一振りだけで威力も低い。
一応解決策として魔石のグレードを上げるという方法はあるのだが、魔石の価値は1ランク上がるごとに値段が数倍に跳ね上がるのでコストパフォーマンスが悪い。
それだけならまだしも保存がきかないことの方が致命的で、魔法水に込められた魔力は時間経過とともに抜けて行ってしまうのだ。
作られてから2、3時間もすると徐々に効果が落ち始め、ほぼ半日でただの水に戻ってしまう。
一応色々と保存の方法も研究されているのだが、どのような容器に入れて密封しても保存できる期間は変わらないことが分かった、というのが現状である。
そんな魔法水の性質から当然ポーションを作る過程においても、一度魔法水を作ったならばあまり時間をおかずポーションまで作り切ってしまった方がいい。
もちろんそれほど慌てる必要もないのだが、レオンとしても多少なりとも品質の落ちる可能性があるのならばなるべくそれは避けたい。
そのため一息入れたレオンはすぐに次の工程に取り掛かる。
次にインベントリを開き取り出したのは乾燥させたキュアリーフの束とレインボーベリーの実を10個。
ともに世界最大の迷宮、迷宮都市にある『頂きの迷宮』の一層でとれる素材である。
キュアリーフは通称『薬草』と呼ばれている迷宮内に生えている植物。
その名の通りポーションに調合しなくても、すりつぶして傷口に塗ったり、食したりしてもある程度の治療効果がある。
発見頻度は迷宮内を一時間歩き回って数回見かけるかどうかといったところであるが、稀に群生地が発見される。
昨日までなかった場所にいきなり生えていたり、伐採しつくしても問題なく生えて来る反面、群生地の一部を刈り取らず残していても増えることはなく、迷宮外での栽培の成功例もない。
ある程度生える場所の傾向はあるようだが、それを知っているのは一部の探索者のみ。基本的には発見できるかは運しだい。
そのため探索者の間では一種のボーナスアイテムとして認識されている。
一方のレインボーベリーとは植物ではなくモンスターの名前である。
一層の森エリアの後半に出現するモンスターで一層の中では強敵として知られている。
植物型の例にもれず生命力が強く非常にタフであり、近距離では鞭のようにしなる枝で攻撃、離れては実を飛ばして攻撃してくる。
レインボーの名を冠しているが、実の種類は赤黄緑青の4種類。
赤は甘酸っぱく、黄色は異常に臭くて、緑は毒、青は鉄のように硬い。
当然素材となるのも赤い実のみで他は廃棄される。
ちなみにこちらも運の要素が大きく、赤い実が大量に生っている個体もいれば、ほとんどない個体もいる。
特に前者はレッドツリーと言われ幸運の象徴扱いされているのだが、イエローツリーと遭遇した場合は悪夢と言われている。場合によっては3日ほど臭いがとれず宿泊や入店拒否なんてこともあるらしい。
まずはキュアリーフを手に取ったレオンは調合のギフトを発動し魔力を浸透させていく。
ちなみに今レオンが使っているキュアリーフは保存用に乾燥されているが、別に生のままであろうと特に問題はない。
キュアリーフ全体に魔力が行き渡るとそれを魔法水の上に浮かべ今度は魔法水にも魔力を通していく。
そして両者に通した魔力を混ぜ合わせて二つの素材をなじませていく。
十分魔力がなじんだところで今度はレインボーベリーの実を魔力でつかみ取り、錬金鍋の上に浮かべ調合のギフトを発動する。
レオンが魔力を一気に解放すると光を帯びたレインボーベリーの実を中心として魔法水とキュアリーフが渦巻き始める。
頭に描くのは魔法水とキュアリーフを、レインボーベリーの実を使って反応させて混ぜ合わせるようなイメージ。
徐々に回転は速度を増し、それに合わせて光も強まっていく。
やがてひときわ大きな光が発生し調合が完了する。
錬金鍋には透き通った青い液体がなみなみとたたえられていた。
それを確認したレオンはインベントリから小さな匙を取り出してわずかな量をすくい上げると、軽く魔力を通してから手足をキョロキョロと確認する。
そして足の皮がめくれている部分を見つけるとそこに液体を一滴垂らす。
すると液体が微かに光り皮膚が再生し始める。
そのまま再生する様子を確認して問題がないことが分かるとレオンはホッと一息つく。
(なんとか上手くいったか……しかしなんで緑の葉っぱと赤い実から、青い液体ができるんだ?)
そんなどうでもいいことを考えながらレオンは最後の瓶詰めの作業のために10本の瓶を取り出し、それぞれ蓋を開けて並べていく。
ちなみに蓋はコルク栓のようなものを半分押し込んでいるだけである。
これでも2か月ほど保存は効くし、ポーションの性質上とっさの場合にすぐに開けられないと困るのでこのような蓋が採用されている。
それが終わると今度は調合のギフトを発動し、出来上がったポーションを魔力でつかみ取ると空中に浮かべる。
そして宙に浮かべた液体を並べた瓶の中へと均等になるように注いでいく。
やがてすべてのポーションを注ぎ終えると瓶に蓋をしていく。
これでようやくポーションの調合の完了である。
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