第10話・鍛えろ!歴坊!

「聖徳太子!!あの、十人の話を聞き分けられるっていう?」

歴坊が1人驚く。

「五月蝿いわ!!」

「いや、お前が五月蝿い。」

ヤーコプ・グリムの説教に、冷静に武蔵坊弁慶がツッコんだ。

「そうですね。僕は十人ぐらい聞き分けられますね。」

「やっぱり!」

聖徳太子の返答に歴坊は、目を輝かせた。

「試しにここでやりましょうか。」

「是非お願いします!」


機密組織ヒストのメンバーはそれぞれ、フリップを渡された。

「それでは、どうぞ!!」

聖徳太子の合図に合わせ、一斉にヒストのメンバーは言葉を発した。その後、それぞれ自分達のフリップに、発した言葉を書き出した。

「では、左側の源内さんから。」

聖徳太子がそう言うと、平賀源内はニッコリ笑うと、フリップをオープンした。

「ゲンコツ煎餅」

次に弁慶。

「ろくでなし」

次にヤーコプ。

「バカ」

次にヴィルヘルム・グリム。

「ミュージック」

次にヤマトタケル。

「切羽琢磨」

次にナイチンゲール。

「みんな仲良く」

次に歴坊。

「聖徳太子さん」

そして、最後に聖徳太子は、答え合わせのフリップをオープンした。

「ゲンコツ煎餅、ろくでなし、バカ、ミュージック、切羽琢磨、みんな仲良く、聖徳太子さん」

「全問正解!!これが聖徳太子さんの”偉能力”!?」

歴坊の興奮の中、弁慶がため息をついた。

「別に長の”偉能力じゃない”」

「えっ?」


「私の得意分野ですね。楽しめたみたいで光栄です。」

「じゃあ、聖徳太子さんの”偉能力”は!?」

「さて、本題に変わろうか。」

源内の言葉で歴坊の質問は遮られた。


「今回の件は非常に深刻だ。」

「ヒトラーですか……」

「そういえば、ヒトラーについて情報あったんですか?」

歴坊がコチラの世界に来る前、すでにヒトラーの情報はヒストだけでなく、一部の人にも知れ渡っていた。

「まぁな。それにアイツはよりによって、”ラボトーブ”の一員だ。」

「”ラボトーブ”?」

ヤマトタケルが説明する。

「”ラボトーブ”は”偉能力”を利用して、数多の犯罪を繰り返し、被害者も出ている最悪組織だよ。」

「被害者で思い出したんですけど、あの時の刺された人達は!?」

それは歴坊の目の前で、ヒトラーの洗脳により、かかった人がナイフで別の人を刺した事だ。

「安心して。歴坊君。病院で目を覚まして、回復に向かってるそうだよ。」

「良かった……」

「良くねぇ!!」


歴坊の安堵の言葉に反して、ヤーコプの怒りの言葉をぶつけた。

「貴様は何も分かってねぇ!!」

「えっ?」

「貴様のせいで被害者が出たんだ!!見ていただけだろ貴様は!!何も出来ず、ただ勝手に絶望していただけだろうが!!」

歴坊は黙り込む。

「黙り込めば何とかなると思うな!!」

「兄さん。これぐらいにしてやってよ。」

弟であるヴィルヘルムが話に割って入った。

「兄さんの言うことは分かる。確かに歴坊君は甘かった。でも、歴坊君はまだ子供だし、歴坊君なりに頑張ったんだよ。」

「ヴィル……でもな、コイツは、コイツは……」

「あの、皆さん。」

歴坊が突然、口を開いた。

「子供だからという理由で言い逃れ出来ません。それに、ヤーコプさんの言う事は分かります。」

「ふん、分かればいいんだよ。」

ヤーコプは照れ臭そうに言い、ポケットに手を突っ込んだ。

「兄さん。ここは禁煙だよ。」


「歴坊君の力について知りたい!」

それは以外にもナイチンゲールの発した言葉だった。

「力?あの訳が分からないやつ?」

「やっぱりな。初めて発動したのか。俺も正直、心配したんだ。」

弁慶が照れ臭そうに言い、ポケットに手を突っ込んだ。

「弁慶さん。ここは禁煙です。」

「違う違う。ちょっと見て欲しい物があるんだ。」

弁慶がポケットから取り出したのは、くしゃくしゃの紙だった。

「忘れないようにメモってたんだよ。」

「何をですか?」

「お前の言った言葉だよ。今から言うぞ。覚えてるなら覚えてるって言ってくれ。」


「だいたい覚えてるのか。」

メモに書いていた言葉の殆どが歴坊が覚えてるという結果になった。

「何がしたかったんですか、結局?」

「別の誰かがお前に乗り移ったような気がして。」

「僕にもよく分からないんですけど、あの時、頭の中に声が聞こえたんです。」

「声?」

「はい。その後、力を貸すと。」

さっきまで黙っていた源内が口を開いた。

「借り物の能力か。どうやら、本が光った時、そこにいるやつの仕業と考えていいのではないか?」

歴坊の愛読書である歴史辞書の1つのページが能力発動の際、光っていた。

「坂本龍馬ですね。」

歴坊は歴史辞書を取り出し、坂本龍馬のプロフィールが書かれたページを開いた。

「今は特に何も起きませんね。」

「特別な条件が付く能力かもね。」

今度はヤマトタケルが口を開いた。

「今後も急に能力発動するかもしれない。名前とか決めちゃう?」

「名前って、この能力の名前ですか?」


「龍馬変身?坂本憑依?良い名前が決められないな。」

「まだ、そんな事を考えてたのかよ。今は仕事の事を忘れて呑め!」

ヒストのメンバーは一つの酒場に来ていた。歴坊の歓迎会だ。

「やっと皆集まったからな。」

「そもそも僕は未成年ですよ。」

「だったら炭酸にするか?」

「別にお茶か水でいいです。それにやっぱり仕事の話をしましょう。」

歴坊と弁慶が話していると、源内が話に割って入ってきた。


「ダメだぞ。今日は歓迎会だ。仕事は一旦忘れて、共に楽しもう。それに、今後今日みたいに、楽しく皆集まる事なんて滅多に無いと思うよ。」

そう言うと源内は炭酸の入ったジョッキを歴坊に手渡した。

「ありがとうございます。でも、仕事の話と言えるのか分かりませんけど、源内さんの”偉能力”って、電気を操る感じですか?」

すると急に源内は手先から電気を流し、弁慶に直撃した。

「いかにも。電気は電流、電圧自由自在に変えれるよ。」

「おい、急に能力使うな!」

「少しは性格良くなったかな?」

「良くなるか!いや、元々性格悪いみたいに言うな!」


「僕も自由自在に力を扱える様になりたいです。」

源内はビールを一気に飲み干して言った。

「だったら身体的・精神的に鍛えていかないとね。」

「確かにそうですね。」

「だったら良い話があるんだよ。」

源内はビールのオカワリを注文すると、話を続けた。

「実は知り合いに歴坊君の事を任せて見ようと思うんだ。」

「まさか、知り合いって”偉人”ですか!?」

急に歴坊は声が大きくなってしまったため、周りに見られてしまい、恥ずかしくなってしまった。

「すいません。続けて下さい。」

「まぁ、知り合いは”偉人”だよ。」

「やっぱりですか。どんな人なんだろう。」

「おい、歴坊。ヨダレ出てるぞ。」


「兄さん、何してんの?」

ヤーコプは酒場の端っこで、外を見ていた。

「アイツの事考えてたんだ。」

「歴坊君の事?」

「あぁ。独特なオーラを放つ奴だ。それにアイツの能力もな。」

「確かに、借り物系?憑依?詳しくは分からないとけど、これは凄い力だと思うよ。」

「ヒトラーも倒したしな。」

「なんだ、兄さん。結構、歴坊君の事気に入ってるだね。」

「五月蝿いな。さて、今日は呑むぞ。」

「はいはい。素直じゃないな。」


「長。一体ここで何を?」

「タケルさんですか。タケルさんこそここで何を?」

二人はこっそり、酒場を離れ、川辺にいた。

「歴坊君の事をどう思ってます?」

「良い子ですよ。弟が出来たみたいで。」

「それは良かったです。本当に。」

「どうしたんですか、長。悲しい目をして。」

「いや、何でもありません。星が綺麗ですね。」

この日は雲一つ無く、夜空には星が沢山光っていた。

「はぁ……」

「さて、そろそろ酒場に戻りましょうか。」

「そうですね。一緒に呑みませんか、長?」

「私は子供ですよ。お茶で充分です。」


一人の男は夜空を眺めていた。

「明日から忙しいですね。頑張りますよ。この”アイザック・ニュートン”が。」


その一方、”ラボトーブ”では

「ヒトラーがやらかしたみたいですね。」

「もお関係ないだろ、”元ラボトーブ”だし。」

「そうですね。”元”ですから。噂ではまた曲者が現れたみたいで。」

「曲者か。会ってみたいものだ。」

一つのロウソクの火が消えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る