ふたりっきり

冬月春花

1


「運命の、つがい?」

「ああ!君は俺の運命だ!」


 パートナーの男との待ち合わせで立ち寄ったカフェで見知らぬαらしき男に声をかけられた。よくある事ではあるから溜息をついて目の前で運命だ何だと騒ぐ男を見る。パートナーの男に比べ大層階級としては下らしい、αの中でも恐らくβに近いのだろうな、と思った。

 これからどうしようかな、と思っていると手を握られてしまい反射的に振り払ってしまう。それが癪にさわったのか途端に目の前の男は怒りの表情になる。


「はぁ…勘違いされて怒りたいのはこっちなんだけど。何、Ωはα様に逆らっちゃ駄目なんだ?」

「は?」

「お前みたいなαに捕まらなくて良かったね、ほんとの“運命の番”の人は」

「何を言ってる…?お前のそのニオイ、Ωのだろう?」

「移り香じゃない?俺、Ωじゃないし。っていうか移り香みたいな薄いニオイでよく声掛けたよね」


 それじゃあ、と席を立つと自分の言葉に呆然としていたαが突然胸ぐらを掴んできた。ああ、いつものやつか。


「なに、αってのはそんなに偉いの?」

「俺はαだ…お前みたいな奴より上だ…!」

「上、ねぇ…」

「俺を馬鹿にしやがって…」


 αが腕を振り上げ自分を殴ろうと腕を動かそうとした瞬間にバシャッと水を掛けられた。水は主にαに掛かったが自分にもすこし掛かった。


「貴方、此処はカフェですよ。人に暴力をふるう場ではないです。騒ぐところでもないですよ」

「やっと来た。おそい」

「全く…あれほど出かける前に匂い付けしたのにもう他のニオイがつくなんて」


 上等な服を着た美丈夫が自分をαから離すと溜息を吐きながら自分の身なりを整えてくれた。

 αの男はポカンとしてすぐに怒りの表情になるも、美丈夫を見ると途端にその場に尻餅をついて青褪めてしまった。


「えぇ、えぇ、そうです。αだからといって他者に無理矢理関係を迫るのはルール違反です。これから気をつけてくださいね。番と言えど相手は人間なんですから、αの立場を弁えて行動なさい。それでは」


 αはコクコクと壊れた玩具のように首を縦に振り、パートナーは満足したように微笑んだ。そして自分の肩をしっかりと抱きカフェの店員に粗相を謝ってから外へ出る。この力の入り具合からするにとてもキレているのでこれからどうしようか、なんて思考しながら歩みを進めるしかできなかった。

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ふたりっきり 冬月春花 @shi6_9ro

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