第5話崩壊5

「経理部長、直近の資金繰り表を持ってきてくれ」

 ドアを開けて呼ぶ。だがなかなか入ってこない。腕時計を睨む。3時には商工会に行かなければならない。

「遅いな」

「すいません。前月のものしかできていないのです。どうしても上場資料が多くて。資金繰りは問題ありませんから」

「明日までに作っておいてくれ」

 私は待たせていた部下に乗せられて会社を出る。今日は学生ベンチャーの審査会議で2時間余りで終わった。タクシーを捕まえて、

「萩ノ茶屋へ」

と思わず言ってしまった。心のどこかにカコのことがあったのだろう。細い駅前の路地で降りると記憶をたどりながら商店街を歩く。3年前にカコに連れられ2件目のはしごで連れられたことがある。その夜珍しく酔いつぶれた彼女をアパートに運んだ。広島から出てきて弟とここに住んでいると言う。

 暗い玄関に入ると一番奥に名倉と言う表札が今もかかっている。私は軽くノックした。ドアが少し開いてカコの目が覗く。上半身はTシャツを着ているが乳首が透けて見えている。私の会社は女性が半分なのでこういう状況にはよく出くわす。仕掛けられる場合も多い。

「辞めるんだったな?」

「ボス、すいません。ご挨拶ができなくて」

 部屋には誰かいるような気配がある。

「明日広島に帰ります」

「そうか。残念だな。これは退職金代わりだ」

 私は財布から10万を取り出して隙間から渡した。








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